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その公爵様とメイドの事情  作者: ロマンスメーカー
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第36話 心を悟ったエレイン

挿絵(By みてみん)


ジェイラル皇后宮から帰ってきた私は、ハエリス公爵に対する感情を考える暇もなく、毎日がとても忙しくなった。

昼にはグレース皇子の面倒を見る保母の仕事、夜にはミュスケの木の鉛筆芯と皇后宮の絵の毒成分を研究する仕事で徹夜する日が多くなったからだった。

しかし、私はベイリオ皇国の皇居をむやみに調査することができない身分のため、様々な制約が多かった。

様々な実験材料を手に入れようと様々な方法で足をばたばたさせたけど、ジェイラル皇后宮に潜入することは難しかった。

ハエリス公爵に相談したいと思ったけど、単純な推測だけでは上手く言えず気が気でなかった。

ただでさえジェイラル皇后とハエリス公爵の悪縁がこじれていて、思わず吐き出した私の一言に血の風まで吹くかも知らなかった。

私はジェイラル皇后にまで毒を使う毒術師がいるという事実が、かなりショックだった。

私が設定した話からかなり外れているということは知ってはいるけど、原作者ならある程度因果関係が浮び上がるべきなのに、到底何も思い浮かばなかった。

私が設定した主要人物以外の登場人物は、私が全く知らない人たちだったためだ。

歴史の黒幕に隠れている得体の知れない毒術師は、ベイリオ皇居がまるで私の手の平をのぞき見るように、よく知っているようだった。

その毒術師の正体もまったく察しがつかず、私自身がとても情けなかった。

今、この瞬間も、あの毒術師がベイリオ皇国の皇居を綿密に見張っているような気がして、私の全身に鳥肌が立った。


「ふぅ…」


「エレイン?大丈夫?最近顔色がちょっと悪く見えるよ」


「ち、違いますよ。大したことはありません。皇子様、ご心配なく」


「本当に大丈夫なの?エレイン?」


私を心配そうに見ているグレース皇子に、苦労して明るい笑顔を見せた。

実はグレース皇子も最近あまり顔色がよくなかった。

ハエリス公爵が訪問した後、食事をきちんと摂れず餅のようだった彼のふっくらとした頬の肉が、げっそりとやせた。

何があったのかちゃんと言ってくれなくて、私はグレース皇子のことをとても心配していた。


「だんだん天気も暑くなってきて、深く眠れずに疲れているようです。あの…、最近グレース皇子様も気分がだいぶ沈んでいるようですが。何かあったのですか?」


私が心配そうな表情で聞くと、グレース皇子はしょんぼりと沈んだまま膨れ上がった。

意気消沈して座っていたグレース皇子が、突然目を輝かせて私の手を握った。


「エレイン!お願いがあるんだ。今日、カル兄さまの宮殿にみんなで集まることにしたんだけど。僕と一緒に行ってくれない?」


「はい?何の集まりか分かりませんけど、私が行くのは失礼ではないでしょうか?」


私は心配そうな顔でグレース皇子を見つめながら言った。

グレース皇子はまるで屠殺場に連れて行かれる子犬のように、すごく怖そうな表情で私を見上げた。


「僕はエレインと一緒に行きたいよ…、一人で行くのが本当に嫌なんだ」


⦅カルロス皇太子殿下を大変お好きな方なのに、どうなさったんだろう?⦆


私はグレース皇子を見つめながら、非常に気になる顔で軽く頷いた。


「分かりました。グレース皇子様。それでは一緒に行きましょう!」


「うん!ありがとう、エレイン。うむ。でももう行かないといけないの!実は行きたくなくて別のことをしていたら約束の時間がずいぶん過ぎてしまったの。へへ。さあ、早く行こう!」


「はい、いいですよ!早く行きましょう」


私はグレース皇子と共にカルロス皇太子宮に向かった。

アンナ夫人とシャーロットも一緒について来ようとしたけど、グレース皇子は首を振って私だけを連れて行った。

20分歩いて到着したカルロス皇太子宮には、皇太子のカルロスとハエリス公爵、セレナが後援庭園で集まって座っていた。

カルロス皇太子に仕えるメイドや侍従もなく、皇太子宮の庭には寂寞感だけが漂っていた。

私は疑わしかったけど、顔には出さずに肩がだらりと垂れ下がったグレース皇子のあとを追って歩いた。


「お久しぶりです!エレインちゃん!」


私に明るい笑顔で手を振り歓迎するセレナが見えた。

私とグレース皇太子は、セレナに目礼しながらカルロス皇太子宮殿の庭園のティーテーブルに歩いていった。


「はい、お久しぶりです。セレナ様、お元気でしたか?」


「はい!おかげさまで!!グレース皇子様!いらっしゃい!!ずっと待ってましたよ」


明るい表情のセレナとは違って、重く沈んだカルロス皇太子とハエリス公爵の表情はあまりよくなかった。

私はひどく気後れしたグレース皇子のことを内心心配していた。

セレナは、ツンとした顔で私をチラッと見つめてから、グレース皇子の手を取ってティーテーブルに座って彼を導いた。


「グレース皇子様、こちらにお座りください!あの…、そしてエレインちゃんはしばらく席を外していただけますか?」


「あ、はい、分かりました」


セレナの言葉に私は頷いて席を離れようとした。


「だめだ。エレインがそばにいてほしいよ。私は!!!」


グレース皇子は、普段は全くしない愚痴を言いながら、セレナの手を振り切って、私のスカートにしがみついた。


「行かないで!エレイン!ダメ!!エレインが行くなら私も行きます」


困った様子の3人がしばらく目を合わせた末、結局ハエリス公爵が白旗を掲げて頷いた。

カルロス皇太子が私とグレース皇太子に椅子に座ってほしいと頭を下げた。

私たちのそばに立っていたセレナは、グレース皇子の椅子を先に外して私の椅子を後ろに引いて口を開いた。


「グレース皇子様、どうぞ。エレインちゃんはこちらに座って下さい」


「あ…はい」


私はぼんやりとした表情でティーテーブルの横の椅子に座り、じっと雰囲気を見守った。

広々とした皇太子宮の後苑内には、ティーテーブルを囲んだ私たち5人しかいなかった。

カルロス皇太子が、グレース皇太子の震え上がる手を黙ってギュッと握った。

ハエリス公爵がまず重い沈黙を破り、グレース皇子を見つめながら話を切り出した。


「準備はすべて終えた。グレース、明後日皇居に迎えに来る」


ハエリス公爵の言葉にグレース皇子は苛立ちを見せ、たちまち泣きべそをかいた。

彼の大きい両目の瞳には今にも涙がぽろりとこぼれそうになった。


「私は行きたくないです。ハエリス兄様…恐ろしすぎるんですよ」


「心配しないでください。グレース皇子様。私も一緒について行きます」


セレナは怖がってるグレース皇子の背中を軽くたたいて彼をなだめた。


「セレナ姉さん。本当にありがとうございます」


セレナはグレース皇子の目元からこぼれた涙を、彼女の懐から取り出したハンカチで拭いてあげた。

私はこの四人が何を言っているのかわからず、ただ黙って話を聞いているばかりだった。


「以前のベイク伯爵家の領地は今どうなった?」


ふとカルロス皇太子がハエリス公爵を眺めながら口を開いた。

ハエリス公爵が淡々とカルロス皇太子を見つめながら答えた。


「はい、殿下。現在ドーベルマン伯爵が守っています」


やや冷淡な口調だったけど、カルロス皇太子は全く気にも止めずハエリス公爵との言葉を続けた。


「ドーベルマン伯爵は以前ベイク家の家臣だったと聞いたよ。君とも数多く戦場を駆け巡ったんだろうな」


「……」


ハエリス公爵はカルロス皇太子の問いにすぐに答えず、ただ沈黙した。

広大なカルロス皇太子宮の後苑の周りの空気は、約10度ぐらいに下がったようだった。

グレース皇子はこのような冷ややかな雰囲気が怖いのか、突いたらすぐ泣きそうになっていた。


「ハリ!いい加減脅さないで…グレース皇子様が物凄くおびえてるでしょう!グレース皇子様、表向きは冷たいけど中身はそうじゃないの分かってますよね?怖がらなくても大丈夫ですわ」


セレナはグレース皇子のゆらゆらする黒髪を温かくなでながら話を続けた。


「ハエリス公爵が2ヶ月間、ほとんど眠らずに準備をしました。今回暗室騎士が50人も付いて行くそうです。皇居騎士団も500人も一緒に行きますし…。皇居騎士団も実力は良いですが、暗室騎士の実力分かりますよね?1人が100人に当たるって言われてますよ!あまり心配しないでくださいね」


セレナの言葉にグレースは落ち着いたのか、小さく頷いた。


「あの…カル兄様も一緒に行ってくれるんですよね?エレインも一緒に行けるんだよね?私はエレインが一緒に行って欲しいよ!!気持ちが楽になりそう!」


グレース皇子がねだるとハエリス公爵がきっぱりと断りながら言った。


「それはダメだ。グレース」


ハエリス公爵は冷静で断固とした言葉にグレース皇子は再び涙を浮かべた。


「何も起こらないでですよ。心配しないでください。そしてエレインちゃんはこの事に関係ないでしょう?そんな危険な場所にエレインちゃんを連れて行くというのは欲張りなんですよ。グレース皇子様」


傍にいたセレナが落ち着いた表情でグレース皇子に話しかけた。

彼女はグレース皇子の背中を軽くたたきながら注意深く話を続けた。


「カルロス皇太子殿下も一緒に行くってことを陛下が許可をくださらなかったんです。それでもグレース皇子のそばでハエリス公爵がしっかり守っているはずだから、魔手たちも簡単に近づけないでしょう…イトルゲンは、ハエリス公爵と暗室騎士団が直接狩りをしますし。グレース皇子様は安全に騎士の保護を受けていて、その角の血を飲めばいいんです。もし怪我をしても私が魔の森の前で待機しているから、心配することは何もありませんわ」


私はセレナの話を聞くと、ふとハエリス公爵の母方の家柄が浮かんだ。

ハエリス公爵の母方のベイク家は、先祖からブラックドラゴンの血が混じっている家だった。

他の小説ではドラゴン、エルフ、ドワーフ、オークなど多様な種族が存在するけど、純粋に作家の外見描写めんどくさがり屋で「彼らはこの地に実際存在したが、種族間の大戦争でこの地から消えた」というたった1行で終わらせ、代わりに「南北の魔手の森」があると設定したことが浮かび上がった。

元々、ドラゴンの血を受け継ぐとその匂いを嗅ぐだけでも魔手たちを恐怖に震わせることができたけど、歳月が流れドラゴンの血が薄くなった。

それでベイク家では、魔手の中で最も強力な大蛇種であるイトゥルゲンを捕まえてその角の血を摂取することで、ドラゴン血の命脈を辛うじて維持することができた。

ただ条件があって、必ず18歳の成人になる前に飲まなければならないことと、切った角から流れる血を30分以内に摂取しなければならないことだった。

ハエリス公爵はわずか13歳の若さで「イトゥルゲン」を狩ることができた。

ほとんど命を失いかけた死闘が繰り広げられたけど、そのおかげで今の位置を強固にすることができた。

これは私が小説の初期に書いた内容上の設定だった。

私は大きな恐怖におののくグレース皇子を見て、大きな罪悪感を感じた。


「あの…私の出る幕じゃないのは分かってますけど、グレース皇子様と一緒に行きたいです。許可してください」


「それはだめです。エレインちゃん」


「それでも…、私はあまり役に立たないとは思いますけど、グレース皇子様が安心してくれたら嬉しいです。どうかお願いします」


セレナは断固とした表情で私に首を横に振りながら言った。


「エレインちゃん、その心遣いは本当にありがとう。だけどこの仕事は救恤奉仕とは次元が違います。ハエリス公爵閣下とグレース皇子様の人生に於いてとても重要なことなんです。エレインちゃんがいい人だということは私たちみんな知っていますが、まだ私たちがお互いに背をもたせるほどではないじゃないですか?カルロス皇太子とハエリス公爵閣下の考えは私の考えと違うかもしれませんが、私の意見は反対です。今回のことは重要すぎて変数がない方がいいと思ってますわ」


セレナのきっぱりとした言葉にみんな言葉を失い、しばらく深い沈黙を守った。

じっと見守っていたハエリス公爵が、まず彼の重い口を開いて私に話しかけた。


「エレインはどうやらここにいた方がいいと思う」


ハエリス公爵に、セレナは歓迎の表情で彼を見つめながら明るく微笑んだ。

100キロの重い金づちが、私の心の片隅に何度も強く叩きつける感じがした。

私はしばらく言葉を失って、ハエリス公爵とセレナの2人を交互に見つめた。

固い信頼をもつ2人の間に、私の居場所はなさそうだった。

グレース皇子はハエリス公爵の言葉にがっかりしたのか、雨に降られた子犬のようにしょげてしまった。


「それでは、今日の会議はここで終わりましょう!」


セレナの気合のこもった声とともに、皇太子宮で開かれた会議が終わった。


✯¸.•´*¨`*•✿ ✿•*`¨*`•.¸✯


北側の魔手の森で必要な物を準備していたので、何が何だかわからなかった。

2日という時間はあっという間に過ぎ去った。

グレース皇子は皆に見送られ、ハエリス公爵とセレナとともに皇居を後にした。

私は主のいない空いたグレース皇子宮の自分の部屋で手持ちぶさたになっていた。

グレース皇子は上手く行っているかな?ご飯はちゃんと食べたかな?ハエリス公爵とセレナのことを考えると胸がちくちくしてきた。


「背中合わせになる間柄じゃないとは…お互い唇も何回か合わせたのに。何も覚えていないけど」


私は自分の幼稚さに耐えられず、ふわふわの枕に顔を打ち込み、全身をばたばたさせた。


「私、本当に馬鹿みたい…」


ハエリス公爵がセレナほど私を信頼していないようで、その無念さが時となく波のように押し寄せてきた。

もう私の感情がどういうものなのか確実に感じることができた。


「そう、嫉妬しているんだ。セレナを。はぁ…。私、すごく好きみたい。ハエリス公爵閣下を」


2人が誰よりも上手くいくことを望んでいた私が、ハエリス公爵のことを好きになってしまった。

これはすべてハエリス公爵のあのジャケットのせいのようだった。

ハエリス公爵が何度も私にジャケットを脱ぎ捨ててくれるから、その温かさで私は彼のことが好きになってしまったんだ。

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