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その公爵様とメイドの事情  作者: ロマンスメーカー
52/100

第32話 救恤所の三角ヒトデ

挿絵(By みてみん)


(ヒラヒラ、ヒラヒラ)


白い蝶々が色とりどりの華麗な花々の中をあちこちひらひらさせながら自由に飛び回った。

窓の外はいつの間にか初夏を迎える緑豊かな木の葉が、皇宮植木屋によって手入れされ整頓されていた。

私は最近よくぼーっとすることが多かった。

今日もぼんやりとした表情で、グレース皇居の窓の外の風景をとめどなく眺めていた。

窓の外をじっと眺めていると、ふと重くなった頭を上げてグレース皇子宮のドレスルームの天井画を、目でしばらくの間描いていた。

そうしているうちに、心の中から湧き出る深いため息を外へ漏らした。


「はぁ。ふぅ…」


「あの…エレイン?何か心配事でもあるの?この前のセレナのお姉さんの誕生日パーティーに行って来てからため息が多くなったような気がするよ」


朝の身仕舞いを済ませたグレース皇子が私を心配そうに見ていた。

グレース皇子の言葉にふと我に返った私は、彼に心配しないでくださいと笑顔をして見せた。


「ち、違いますよ。グレース皇子様。私は心配事がないのが心配なんですもの…。あっ、今日の日程についてお話します。うーん...、今日は朝食を召し上がってボウルマン先生の歴史学講義があります。そしてお昼ご飯を食べて1時間休んでから、午後にはダルニング皇子殿下とティータイムがあります」


「今日はダルニングに会う日なんだ!可愛いヤツ! 今日、このお兄さまが楽しく遊んであげないと!」


ゲリマン皇帝の9人の息子のうち、末の息子である9皇子のダルニングが訪問するという知らせに、グレース皇子は浮き立った表情で大騒ぎした。

今年10歳のダルニング皇子とグレース皇子は、外見は同い年に見えるけど、実際は7歳も差がある異母兄弟の間柄だった。

私も何度か遠くから会ったことがあるので、ダルニング皇子に対して気になる気持ちに至った。


「あの…ところで、ダルニング皇子様はどんな茶菓子がお好きでしょうか。今日は、ダルニング王子様の口に合ったものを準備したいのです」


私の話を聞いてグレース皇子はしかめ面をしながらきっぱりと切り出した。


「エレイン、ダルニングとは絶対同じものを準備してはいけないよ!肝に銘じろ!分かった?」


私はびっくりした表情でグレース皇子を見つめた。

グレース皇子はとても重要な事実を語っているように、私の耳元で小さくささやいた。


「エレイン、ダルニングの好みは渋すぎるんだよ。とても苦いお茶と甘みが一つもないお菓子みたいなやつ?そういうのをすごく美味しそうに食べるの!多分、そういうものを準備すればいいと思う。うわぁ!考えただけでも口がまずい。僕は考えただけでも吐きそうだよ」


グレース皇子は本当に理解できないという表情で首を左右に振った。

私も10歳の子供の好みとしてはちょっと変わってる気がした。


「はい!わかりました。グレース皇子様!私が自分でちゃんと準備してみますね」


「うん。エレインだけ信じるね。ところでエレイン!本当に何かあるわけじゃないよね?もし心配なことがあったら必ず僕に言ってね!僕が助けられる事なら助けるから!!」


「はい。心配しないでください。グレース皇子様!!心配して頂いて本当にありがとうございます」


私が優しく微笑みながら言うと、グレース皇子は暖かい目で私を見つめながら頷いた。

一緒にいた時間は長くなかったけど、いつの間にかグレース皇子と私は徐々に情が深まった。

この世界で皇子と保母という身分の差はまるで天と地の差のように大きく開いているけど、情に飢えているためか、グレース皇子は私に実の姉のようによく従った。

私も、前世でも現世でも兄弟や姉妹がいなかったので、グレース皇子はまるで可愛い実の弟のようだった。

グレース皇子は今日計画された日程通り美術の授業を受けるため、皇子宮の中にある美術室に向かった。

私はグレース皇子が美術の授業を受ける間に、おやつを作るためにキッチンに行った。

厨房に客をもてなす茶菓子が、何があるかを確認するためだった。

キッチンの天井を開けている材料や食べ物を調べてみると、ダルニング皇子に与えられるものはあまりないようだった。

グレース皇子宮の厨房にはキャンディーやビスケット、メレンゲ類のような甘い食べ物が饗宴だった。

ダルニング皇子をもてなす苦いお茶の種類も一つもなさそうで心配だった。


⦅これは大変だね!⦆


私は色々悩んだ末、皇子宮の中で働いているメイドのシャーロットを訪ねた。

ちょうどシャーロットはグレース皇子宮の書斎を片付けていた。

書斎の中は、相変わらずグレース皇子が散らかした本でごった返していた。

書斎の広い机の上には数多くの紙礫が山のように積まれていて、私はメイドのシャーロットを手伝って一緒に片付けた。


「手伝ってくださってありがとうございました!エレイン保母様!こんなに掃除がお上手だとは知りませんでした」


「いえ、大したことないですよ…。あ、そうだ!シャーロット」


「はい!エレイン保母様。おっしゃってください」


「私はまだ皇居に慣れていないのでよくわかりませんけど。皇居でお茶の葉のようなものはどこでもらうことができるのでしょうか?」


気になる顔で私が尋ねたところ、シャーロットは快く答えた。


「あ、薬草茶の葉のようなものですよね?それは皇宮別宮にある医員局に行けばいいんですよ。ですが離宮はちょっと遠くて、初めての方は探すのが大変じゃないかと思います。私が医員局に案内しましょうか?」


「あら、どうもありがとう。シャーロット」


「いいえ、保母様は私が書斎を片付けるのを手伝ってくれたじゃないですか。さあ、私について来てください」


「はい!」


私はメイドであるシャーロットの案内に従ってベイリオ皇居内の別宮にある皇室の医員局に向かった。

ベイリオ皇国の歴史は1800年以上あり、皇居の規模は想像以上に広く大きかった。

名も知らぬ花と木で作られた庭園を過ぎ、グレース皇子宮から徒歩約30分ほど歩いたのだろうか。ついに皇室の医員局の建物と見られる様々な離宮が現れた。

皇室の医員局別宮は数軒の小さな建物で、可愛らしく集まっていた。

診療受付、治療所や薬剤所、入院室などまるで前世の大病院のように、それなりにうまく分業化がなされていた。

我々は医員局内を通りすがる人に道を尋ね、薬草と薬剤を保管する別宮を探すことができた。

建物に入ってみると、かつて救恤所でのボランティア活動で一度会ったバルカルン医員が、薬剤倉庫を守っていた。


「こんにちは! バルカルン医員様!」


「いやぁ!エレインさんじゃないか? はは、本当に久しぶりだな!」


「お元気でしたか?」


「もちろん、俺は元気だったよ。ところでエレインさん、体の調子はどう? 大丈夫なのか?」


バルカルン医員が気になる表情で私の姿をじっと見つめた。


「はい!心配してくださったおかげで、もう元気です。遅れましたけど本当にありがとうございました。バルカルン医員様」


私は頭を下げて、彼に心から感謝の気持ちを伝えた。

手を振っていたバルカルン医員が照れくさそうな笑みを浮かべて言った。


「ハハハ。何よ。我ら皇室の医員たちが君に大変お世話になったことに違いない。エレインさんの解毒剤のおかげでグレース皇子様と中毒の村人を救うことができた。本当に重大なことを君がしたのだ。遅くなったけど、俺からも本当に感謝するよ」


バルカルン医員の言葉に、私は何だか恥ずかしくて両頬を赤くした。

前世で母の褒め言葉に飢えていたのが現世まで続き、誰かが私を褒めると無性に嬉しいけど恥ずかしかった。

私は恥ずかしさに耐えられず、人差し指でそっと頬をかいた。

バルカルン医員が私を非常に誇らしげに見て、ふと気になったように聞き返した。


「ところで、見るにはもうハエリス公爵家で働いていないんだな?今は皇居で働いてるみたいだけど?」


「ああ、はい。なんだかんだあって、こうなってしまったんですね。今はハエリス公爵様宅を出てグレース皇子様の保母として働いています」


「あ!そうなんだ。ところで、ここには何の用で来たのかな?」


バルカルン医員が気になる表情で私を見つめながら言った。


「ああ、グレース皇子様とダルニング皇子様が今日ティータイムを持つようになりまして。しかし、我々の宮には薬茶の類が一つもなかったんですよ。それで薬草茶葉が必要だったのでこちらに来ました」


私の説明にバルカルン医員がようやく理解できたといわんばかりに、じっと頷いていた。


「ハハハ、なるほど。よくやって来たな…。エレインさんも薬草に関して素晴らしい専門家だから一度こちらに来て欲しい、お茶の葉を思う存分選んでみて」


バルカルン医員は皇室医員局の薬剤保管所の中に入ってシャーロットを案内した。

広い倉庫の中には数千以上の非常に大量な薬剤が保管されていた。

薬草の草と木の匂いが香り高く、私の鼻先を刺激した。


「わぁ!こんなに巨大な薬草保管所は初めてです。本当に素敵なところですね!」


私が本気で感嘆すると、バルカルン医員の両肩が少し高くなったようだった。


「何を、そんなにすごいものではない。実は、ここよりもっと規模が大きい薬材倉庫が皇居内にあるけど、そこは許可されてない人は出入りできないんでね。おっとっと!今、僕は何を言ってるんだ。ふむふむ、さあ、エレインさん。こちらへ…」


バルカルン医員が案内した所へ私とシャーロットは足を運んだ。

シャーロットも薬剤倉庫の中まで入ってきたのは初めてだったのか、首をしきりに見回して驚いていた。

私はきちんと整理された薬草たちを興味深い視線で見物した。

ベイリオ皇国の医員局の薬材倉庫には気候と土壌、薬性によって薬草がよく分類され整理されていた。


「ここからあっちまでが全部茶の葉だよ。ハハ」


バルカルン医員は、非常に誇らしい表情で、私とシャーロットを交代で眺めた。

彼の言うとおり何千本もの茶葉が整然と整理されていた。


「それでは俺はこちらで待ってるから。必要なだけ入れてくれば、俺が一回確認するね」


「はい、わかりました。バルカルン医員様」


バルカルン医員が私と一緒に動こうとするメイドのシャロットを阻止した。


「ここはエレインさんだけ入れる。得てして薬草に手を加えると大変なことになるかもしれない」


「はい、わかりました。それでは私はここで待ちますね。エレインの保母様」


「ええ、シャーロット。それではしばらくお待ちください」


私は薬剤倉庫の中に入り、棚の上にある薬草を丹念に調べた。

そして薬草の茶葉を注意深く指でつまんで慎重に一つ一つ匂いをかいだ。

やはり皇居医員国の薬剤倉庫だったためか、すべての茶葉の品質は最上品だった。

私は茶葉を少しずつかじったり、手でちぎったりしながら頭の中で自分で作る茶の味を想像してみた。

薬材倉庫の中には、気に入った茶葉が物凄く多かったけど、そのうちいくつかを選んで持ってきた籠に、慎重に入れた。


(キイッ)


私は薬屋のドアを閉めて私を待っているバルカルン医員とメイドのシャーロットに近づき、話しかけた。


「これでいいと思います」


「ええと, ふむ。10種類の茶葉を入れてきたね。薬材倉庫から茶葉を持って行くには、ここのこのリストにちゃんと書いておかないと。今日は俺が書くから、次はエリインさんが直接書いて。これからいつでも茶葉や薬草が必要なら来てもいいよ」


「あら、本当ですか?ありがとうございます。バルカルン医員様」


「このくらいで何を…、はは。私の線で許されるところまでは全部出してやるよ」


「バルカルン医員様、本当にありがとうございます!」


「ハハハ。いや。このくらいはしてくれた方が私の心が楽だよ。その時の伝染病、いやその解読処方箋をもらった俺たちが感謝することだよ。その事件以後、わが皇室の医員局では処方箋を熱心に研究しているんだ。それで今は出張に行くたびに三角ヒトデはたくさん持ち歩いているよ。あまり使わないと少なくしておいたら、その時本当に大変なことになるところだった。そこまで高い薬材ではないけど、市中にはなかなか手に入らない薬材じゃない?その三角ヒトデは」


私はわけが分からないという表情でじっとバルカルン医員を眺めた。

バルカルン医員が特有の温かい笑みを浮かべながら私にゆっくり説明してくれた。


「あの時救恤所の薬材倉庫にはグレース皇子様だけがかろうじて使える三角ヒトデがあったんだよ。君を解毒しようとすると、他の薬剤はすべてあったけど、その三角のヒトデがなくて大変なことになるところだったよ。もしかして、これまでこの事実を知らなかったのか?」


私は驚いた表情でバルカルン医員に問い返した。


「え?救恤所に三角ヒトデがなかったんですか?そんなはずが…」


「ハハハ、それで私たちが皇居に急に消息を送って大急いでハエリス公爵家として薬材を送ったんだ。私の皇室医員として20年間生活しながらあんなに緊迫したのはあの時が初めてだったよ。まだあの時のことを思い出すだけでも、背中から冷や汗が流れるようだ」


バルカルン医員は、考えたくもないように手を振りながら話した。


「ハハハ!でもこんなに元気な姿でまた会えてすごく嬉しかったよ」


「ああ…、はい。あ、ありがとうございます。バルカルン医員様」


「何を。また会おうね!」


「はい!」


私は、バルカルン医員に挨拶をした後、メイドのシャロットとともにグレース皇子宮に足を運んだ。

私は頭の中で自分が今生きているということが到底理解できず、固くいかつい表情になった。

グレース皇子宮に向かう30分間、ゆっくり歩きながらじっくり考えた。

まるで解けない数学の問題のように、私の頭の中にはさまざまな疑問が浮かんでいた。


⦅一体私が今、どうやって生きていられるのかな?どうやって?⦆


時間をいろいろ計算してみても到底事のあんばいが合わなかった。

尾を引く思いと思いの間の末には、ハエリス公爵がいた。

私の疑問を解けるカギはハエリス公爵に私が渡したペパーミントキャンディーの解毒剤だけだった。

私は無意識に熱く燃え上がるような、自分の唇にそっと触った。

そして、ふとハエリス公爵の赤い唇と私の唇が触れ合うことを想像した。

私はびっくりして、すばやくあの奇妙な考えを頭の中から消しゴムで消した。

ただ想像しただけなのに息がぐっとつまるようだった。


⦅まさか、ないよね。まさか…⦆


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