第29話 カルロス皇太子と共に過ごした一日
青い空には入道雲がふわふわと風に沿って静かに漂っていた。
その空の下にはベイリオ皇国の首都エレルマン市内の通りがあった。
平日の昼間の街では人々はのんびりとそれぞれ用を足していた。
私とカルロス皇太子は閑静な市内を歩き回りながらあれこれ話を交わした。
「カルロス様、今までセレナ様にどのようなプレゼントをしましたか?」
私の質問にカルロス皇太子は眉間を狭めながら考えると、きらめく瞳で話を切り出した。
「うーん…、今まで香水、花、ドレス、日傘、靴、ネックレス、指輪、又セレナが読みたがっている手に入れるのが難しい本とか?多くはないがそれなりに最善をつくしたのですが物凄く喜んだりはしませんでした...」
贈り物を次々と詠むカルロス皇太子が、私はなぜかお金持ちのカモにしか見えなかった。
もどかしさで心で舌打ちしながら、カルロス皇太子にきっぱりと言葉を切り出した。
「そうじゃないんです。カルロス様!プレゼントは現金が一番ですよ!」
「はい?現金ですか?現金って何ですか?エレインさん?」
⦅しまった!⦆
これはセレナではなく、私が一番欲しがってるプレゼントだと思って、素早くカルロス皇太子に首を振った。
私は国語教科書を読むようにやや硬い口調でカルロス皇太子に話した。
「あっ、違います。違います。カルロス様。失言でした。うーん...やっぱりプレゼントをもらう人を思う心が入っているのが一番だと思います!!心がたくさんこもったプレゼントが一番良いと思います」
カルロス皇太子は私の言葉にしばらく悩み、「そうだ!真心!!」と明るく叫んだ。
彼は何か大きな悟りを開いた修行者のような姿だった。
⦅あれ、なんで急に自分の目の前がぼやけてしまうんだろう…?⦆
私は心の中で流れる涙をぬぐいながら、両目がきらめくカルロス皇太子の後を追ってショッピングを始めた。
私たちは、街の中心部にある高級感のある看板が印象的な雑貨店の中に入った。
雑貨店の中には美しい宝石とリボンのついた靴から、貴族令嬢たちの必需品である華麗な扇子と高級感のある可愛いかばんなどが陳列されていた。
カルロス皇太子は私に、その中で最も高価そうなものだけを持ってきて私に尋ねた。
「エレイン、これはどうですか?」
私はしばらく見て、首を振った。
「私が見るにはセレナ様はこのようなデザインがお好きではないようです。これは宝石がたくさんちりばめられていて派手過ぎると思います」
「うん…じゃあ、これは?私は大丈夫だと思うけど?」
今度はピンクサファイアがハマった小さくてきれいなピンを持って来て私に見せてくれた。
私はしばらく考えてから、また首を横に振った。
「きれいですね。セレナ様にとてもよく似合うはずですが、あまりにも小さいピンなので誕生日プレゼントに適してないと思いますよ」
カルロス皇太子の眉間が、なんとなくもっと深くしかめっ面をしているようだった。
私達は雑貨店を出て、今度はボルシェ書店という本屋に行った。
ハエリス公爵領市内の本屋の5倍は大きいようだった。
まるで前世の小さな図書館のように本がずらりと並んでいて、私は目を丸くした。
私は水を得た魚のようにセレナの贈り物をしばらく忘れていろんな本を取り出して目を通した。
「わぁ!これもう次の話が出たんだ!」
「あら!表紙がとても綺麗だね」
私は夢中で本を読んでいるうちに、ふとあちゃ!と思い顔を振り向けてカルロス皇太子を眺めた。
カルロス皇太子が腕を組んで優しい目つきで私を見ていた。
一瞬、恥ずかしくなって私の顔が赤く燃え上がるような気がした。
私は頭をかきながら照れくさそうな微笑で彼に話しかけた。
「あっ、ごめんなさい。カルロス様。セレナ様の誕生日のプレゼントを買わなければならないんですが、私が興奮してしまいました」
カルロス皇太子が私のそばに歩いてきて、さっき取りたかったけど手が届かなくて取り出せなかった本を私の手に渡しながら言った。
「あ…、ありがとうございます。カルロス様」
「まあ、まだ時間は沢山あるからね…!本が好きなんですか?エレイン?」
カルロス皇太子が優しく微笑みながら私に尋ねた。
私は彼を見つめ、明るい表情で頷いた。
「ええ、とっても好きなんです。本を読んでいたら時間が早く経つように感じられるんですよ」
「なるほど。久しぶりに市内に来たんでしょう?それでは思う存分見回してください。私は向こうで待っているから…」
カルロス皇太子の緑色の瞳が、私を温かく眺めているようだった。
私は彼に心配かけてもらったことに心から感謝し、明るい笑顔を見せた。
「どうもありがとうございます、カルロス様」
私は書店をあちこち歩き回り、日頃から興味のあった本を見渡した。
やはり、新本の紙のにおいは前世でも現世でも、人の気持ちをよくしてくれるような気がした。
私は本を見ながら時々思い出す度に、カルロス皇太子がどこにいるのか確認した。
幸いなことに、彼もセレナへの本のプレゼントを選んで、あちらこちらに歩き回って本という本に目を通していた。
いたずらに時間を奪うのではないかと心配したけど、カルロス皇太子も本を選んでいるようで安心して本を読んだ。
「プレゼントはお選びになりましたか?カルロス様?」
厚い医学書籍を持っているカルロス皇太子のもとへ行き、慎重に尋ねた。
しかし、これも誕生日プレゼントではなさそうだと言って、彼は首を横に振った。
書店の見物を終えて、私たちはアクセサリーを細工して作る工房に足を向けた。
(タンタン、タン)
工房では鍛冶屋たちが汗を流しながら熱心に何かを作っていた。
熱い工房の隣には小さな店が付いていた。
(ガラガラ、ガラガラ)
店のドアの上についてる軽快な鐘の音が私たちを歓迎した。
「いらっしゃいませ。お客様」
口ひげがおしゃれな店の男の人が、明るい表情で私たちに挨拶した。
私とカルロス皇太子もうなずきながら簡単な挨拶をした後、店内に並んでいるアクセサリーを眺めた。
ここの職人たちの実力はかなり優れているようで、ネックレス、指輪、アクセサリーの細工がとても精巧に見えた。
「カルロス様!もしかして気に入ったものがありますか?」
カルロス皇太子がしばらく深く悩んでから、店主に近づいて聞いた。
「もし自分で図案を起こせば、この工房で直接作っていただくことはできますか?」
「もちろんです。お望みの宝石とデザインを教えていただければそのまま作って差し上げるのはわけもないでしょう。私の口で言うのはあれですが、私たちの工房は、このエルマン都市の最高の実力者がいる工房なんです!」
自信に満ちた店主の言葉に、カルロス皇太子はこれか!という表情で私を眺めた。
私もそうだと思います!という表情で、彼に力強く頷いた。
カルロス皇太子は店主からペンと紙を受け取って直接その場で図案を描いた。
カルロス皇太子が描く図案を見て、私と店の主人は目を丸くした。
彼が紙に描いたものは細やかで優雅にデザインされているペンダントのネックレスで、アクセサリーに興味のない私の目にもとても綺麗に見えた。
「まあ!カルロス様!とても綺麗ですね!」
「本当ですか?セレナは喜んでくれるでしょうか?」
「もちろんです!これは世界に一つしかないペンダントのネックレスじゃないですか!そしてこんなに細やかなデザインは初めて見ます!カルロス様、本当にすごいですね!」
私がカルロス皇太子を感嘆の言葉でほめると、彼の耳たぶが赤くなった。
彼は咳払いをして店の人に気持ちよく支払い、いつ受け取りに来たらいいかと尋ねた。
私は世界に一つしかないペンダントをもらってすごく喜ぶセレナが目に入ってくるようで、微笑ましい気持ちになった。
「今日はどうもありがとうございました。エレインさん」
「いえ、セレナ様も大変喜ばれると思います」
「さ、セレナの誕生日プレゼントも無事解決したし、お腹が空いているから食事に行きましょう」
カルロス皇太子が片目をウィンクして見せた。
そうでなくても、あまりにもたくさん歩き回ったのでお腹がすいていた。
カルロス皇太子は、私を市内の路地の先にあるレストランへ連れて行った。
閑静な路地に建っているその店は、店の名前がないのか看板もなかった。
カルロス皇太子は古い食堂の片隅に座って、おとなしくテーブルセッティングをする私の姿をじっと眺めた。
「ああ、私の職業柄、テーブルセッティングが癖になりましたね」
と私は照れくさそうに笑いながら彼に言った。
「普通はこちらに連れてくると大変がっかりするけどね?フフッ。なぜこの食堂に来たか知っているのですか?」
カルロス皇太子が意地悪な表情でじっと私の答えを待った。
私はしばらく悩んだ後、明るい笑みを浮かべながらカルロス皇太子に言葉をかけた。
「うーん、ここがとても美味しいからではないですか?それで、私を連れて来たのではないですか?」
私の答えにカルロス皇太子の透明な緑眼が嬉しそうに輝いた。
私は大変嬉しそうな顔をして彼を見つめながら言った。
「元々こういうところが本当においしいお店なんです!私は実は、凄く期待しています。今私の心臓は物凄くドキドキしているんですよ…?このような美味しいお店を探して回りたかったです。でも今まで忙しく過ごしてきたので、このようなところには一度も来たことがないんですよね」
私は前世で子役時代から多くのメディアに露出してきた。
そのため、美味しい店どころか、マスクをしないと街中もあまり歩き回ることができなかった。
TVで美味しい店の番組を見て、どんなに行きたかったことか。
それでしばらくの間は、グルメ番組のオファーが来るのを目が赤くなるほど、ずっと待っていた記憶がよみがえった。
しかし、そのような有名番組に助演タレントの私が出る機会はなかった。
それでたまに特別な日にだけ食べられる出前料理で、むなしい私の心を慰めた昔のことが思い出された。
ふとカルロス皇太子の青緑色の緑眼が虚空で揺れているようだった。
「あの…カルロス様?」
「あ、注文しましょう!ここはサンドイッチの美味しいお店なんです。二人で食べて、一人が死んでも気が付かないほど夢中になる味なので、期待してもいいですよ」
「本当ですか!本当に楽しみです!!」
私は期待に満ちた目でカルロス皇太子に明るく微笑んだ。
やっぱりおごってくれる人は前世でも現世でも良い人のようだった。
カルロス皇太子の言うとおり、その店のサンドイッチは本当に美味しかった。
外はカリッと、中はしっとりとしていたが、ソースと野菜ハムが黄金比でよく合っていた。
私は美味しいサンドイッチを食べながら、カルロス皇太子とセレナがうまくいくのもよさそうだと思った。
それで私の心の中で一生懸命彼を応援した。
⦅カルロス様!頑張ってください!!セレナと上手くいきますように!私は今日完全にカルロス皇太子様の味方!⦆
いつの間にか皇居に到着すると、日が地平線の向こうに沈んでいった。
「私はもう帰ります、カルロス皇太子様。あの、これ、さっき目印になるものがあったのでセレナ様のプレゼントを買いました。これを私の代わりに渡していただけますか?自分で直接プレゼントしたいのですが、私はパーティーに出席するのが難しいので」
私は綺麗に包装された箱をカルロス皇太子に差し出した。
私が買った誕生日プレゼントはピンクの真珠がちりばめられたきれいな櫛だったが、なぜかセレナによく似合いそうで衝動的に買うことになった。
一週間分の給料が全部なくなったが、私の一押しのヒロイン、セレナが喜んでくれたらいいなと思った。
「うん…それは直接渡せばいいと思いますよ?まだ招待状が届いてないですか?」
「え?」
「そのプレゼントは直接セレナに直接渡せばいいと思うし、さあこれ!私のも貰ってください」
カルロス皇太子が爽やかな笑みを浮かべながら、後ろに隠しておいたきれいに包まれた四角い物を私に渡した。
「これは何ですか?」
カルロス皇太子が渡した品物を注意深く見てみると、さっき書店で私が買いたかった詩集が現れた。
「これは…?」
「先ほど書店でその本を注意深く見ていたので…」
「私がプレゼントをもらうとは思いもしませんでした。カルロス皇太子殿下、ちゃんと読みますね。本当にありがとうございます」
私がとても感謝すると、カルロス皇太子は照れくさそうに自分の頬をそっとかいた。
彼は両耳を大変赤くしたようだった。




