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その公爵様とメイドの事情  作者: ロマンスメーカー
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第22話  カルロス皇太子の彼女

挿絵(By みてみん)


(チュンチュン、チュンチュン)


春の日差しがぽかぽか照りつける4月中旬のある早い朝だった。

美しく咲き乱れた庭園の甘い花の香りがカルロス皇太子宮に漂っている。

カルロス皇太子は温かいお茶を飲みながら、彼の宮のテラスから呆然と彼の庭を眺めた。

彼には特有のゆったりとした雰囲気が漂っているようだった。

その時、彼の忠僕であるヤン男爵が近づき、礼を尽くして挨拶した。


「殿下、ハエリス公爵家の人達があの職業安定所にやって来たそうです。今回だけでもう5回目だそうです。勿論情報は渡していません」


彼の言葉にカルロス皇太子が大変面白そうな表情で、カップを持ち上げてお茶を一口飲んだ。


「本当必死に探してるみたいだね…?あの冷血男ハエリス公爵が、本当に彼女に心があるのかな?」


「いかがいたしましょうか。カルロス皇太子殿下…」


カルロス皇太子がいたずらな表情でヤン男爵を眺めた。


「どうするって…そうすればするほどエレインをもっと見えないようにしっかり隠さないと…!そうしたらもっと焦がれるだろうからな。ふふっ」


ヤン男爵は、カルロス皇太子を見つめながら怪訝な表情をした。

彼は今この状況がよく理解できていないようだった。

カルロス皇太子が、チェッと舌打ちしながらヤン男爵を意地悪く見つめながら話をした。


「ハエリス公爵はエレインにもっと心を深めるべきだ…!本当に切なくなるほどにな!そうなれば、彼とセレナはもう何の関係もなくなるだろうな?私がちょっと幼稚ではあるけど、必ずそうなってほしいんだよな」


「あ!ハエリス公爵を、グレース皇子様の保母であるエレインさんに焦がれさせようとしている、ということですか?」


やっと何かに気が付いたヤン男爵が、カルロス皇太子を眺めながら驚くべき表情をして見せた。

カルロス皇太子は、ヤン男爵の言葉に静かに頷いた。

彼は今まで、ハエリス公爵とセレナは恋仲になっていると思っていた。

それである時は彼を憎んだり、ある時は憎悪したりもした。

しかし、ハエリス公爵はいつも淡々としていたため、彼がセレナを愛しているのか、ただ友達だと思っているのかは良く分からなかった。

ふとカルロス皇太子は、グレース皇太子の救恤所の兵舎での出来事を思い出した。

いつも冷淡で無愛想だったハエリス公爵が、切羽詰った表情でメイドのエレインを抱いて兵舎を離れたことを思い出した。

戸惑いながら途方に暮れるハエリス公爵の表情を、カルロス皇太子は生まれて初めて見た。

ハエリス公爵が兵舎を離れた後、自分とセレナはしばらく何も言えなかった。

なんだか3人の中でのバランスが、微妙にずれていくように感じた。

そのバランスが崩れることをとても嬉しく思いながらも、一方では不思議なことにハエリスの公爵の懐に抱かれているエレインというメイドが少し気になる気持ちだった。

カルロス皇太子は努めて頭を振りながら想念を払いのけた。

透明で美しいカルロス皇太子の緑眼の視線が、再び彼の庭に向かった。

爽やかな花々を見ると、花より美しいセレナが浮かんできた。

ヤン男爵が退き、女中のベス夫人がテラスに入ってきて言葉を渡した。


「カルロス皇太子殿下。間もなくバルタン家のセレナお嬢様がいらっしゃる時間です」


「あぁ!もうそんなに時間が経ったのか?」


カルロス皇太子は席を立ち、自分の身なりをきちんと整えた。

心臓がムズムズして、そのときめきをどうすることもできなかった。

カルロス皇太子は、自分の皇太子宮の応接室で緊張した気持ちでセレナを待った。


(トントン)


間もなく応接室のドアが開き、赤いリボンが華やかに飾られた黄緑色のドレスを着たセレナが彼の応接間に入ってきた。

ゆらゆらする金髪に青いエメラルドの宝石に似た瞳が魅力的なセレナを眺めながら、カルロス皇太子の目つきはいっそう柔らかくなった。

セレナは華やかに微笑みながらカルロス皇太子に挨拶した。


「カル!結構待ってたの?」


「いや!そんな待ってなかったよ。いやぁ!今日もやっぱり美しいね…セレナ!」


「フフッ!過分なお褒めです。カルロス皇太子殿下」


セレナはわざと大げさな身振りで礼儀正しく答えた。


「ハハハ。分かった。冗談はやめるよ!いい天気だしちょっと散歩に出かけようか」


「うん、いいよ!」


セレナは、とても綺麗な笑顔で微笑みながら肯定的に頷いた。

彼女はカルロス皇太子の片腕を取って、彼の丁寧な案内を受けながら皇太子宮の庭に出た。

皇太子宮の庭園の中には低い丘の遊歩道があり、2人は暖かい4月の日差しを浴びながらゆっくりと歩いた。


(チュンチュン、チュンチュン)


(バタバタ、バタバタ)


名も知らない鳥の歌声と羽音が、青空に美しく響いているようだった。

二人はしばらく、何も言わずにただ歩くだけだった。

その時、カルロス皇太子の目に彼女の座れそうなベンチが見えた。

靴を履いて散歩をするのが気になっていたカルロス皇太子が、彼の胸からハンカチを取り出してベンチに乗せながら言った。


「セレナ!こっちに来て座って!」


セレナは、彼の心配りに感謝し、侍女に助けられながら優雅な身振りでベンチに腰を下ろした。


「今日に限って本当に天気がいいよね?」


「そうだね!時間はどうしてこんなに早く流れるんだろうね?」


「フフッ…、最近救恤所はどう?? 大変じゃない?」


カルロス皇太子が気になる表情でセレナを見ながら言った。

セレナは淡々と首を横に振りながら彼に答えた。


「大変じゃないよ…。私が好きでやってることだもの!体は少し疲れるけど、それでも嬉しいし、気持ちいいの!」


「そうか!良かったね」


「カル…。もう春の匂いが空気から感じられない?土を突き破る若芽の匂い。私はその匂いが本当にいいと思う。もう少しでベイポップの木にも花が咲くよね?」


セレナはおぼろげな表情で何かを思い出したのか、カルロス皇太子を見ながら意地悪な表情をした。

やっとカルロス皇太子も何か思い出したのか、くすくすと肩を震わせながら笑った。

セレナは、明るく笑うカルロス皇太子をじっと見つめた。

彼女自身とても美しく、他人を見て尊いという感情を受けることが難しかったが、目の前のカルロス皇太子は「尊く見える」という言葉では足りなかった。

たまに、カルロス皇太子の外見に押されると思った。

ハンサムなカルロス皇太子がこのように純粋な表情で笑っていると、とても神秘的に見えた。


「覚えてる?カル!以前の私達二人の思い出を!」


「勿論!忘れるわけないよ!あの日、私たちが初めて会った時のことだよね?あの時、私たちが初めて会ったメイヤーリーパン屋さんの隣にもベイポップの木があったよね。その木の下で肩がぶつかって、お互いに吠えながら戦ったんだよな…」


「そうよ!お金のある貴族の令息みたいな顔で、ケチに地面に落ちたパン代を払えと、私をちょろちょろ追いかけて来たもんね」


セレナは思い出に浸ったように頭を上げて青空を眺め、再び頭を下げてカルロス皇太子を見つめた。

空に似た彼女の青いエメラルドの瞳がとても美しかった。

カルロス皇太子は薄く微笑みながら、彼女を見つめながら頷いた。


「ふっ。そうだ、そうだった…」


「カル、一体あの時どうしてそうしたの?私、あの日カルのせいで大失敗しそうになったんだよ…。救恤給食所の人々の食事がだいぶ遅れてどんなに申し訳なかったと思うの?どんだけしつこく付いて来たものか…!」


セレナの言葉にカルロスはいたずらな目つきで彼女を意地悪そうに眺めた。


「仕方がなかったんだよ…。私の肩をぶつけたお嬢さんがとても綺麗でちょろちょろと追いかけざるを得なかったって。ごめんね。セレナ」


「カル…。こんなんだから、皆が私たちを誤解するのよ。皆が陰で私たちの話をたくさんしていたよ。私とカルと、私とハリと、二人の兄弟の間に挟まれた三角関係!あまりにも話をたくさん聞いて耳にたこができそうなの!もううちの父も、母もしつこくせがんでくるの…。誰でもいいから捕まえて嫁に行きなさいとね!」


セレナは不満でいっぱいな表情をカルロス皇太子に見せながら言った。


「じゃあ、2人のうち1人を選んじゃだめ?どうせなら私を選んでくれたらもっと良いし」


「ううん?カル!私は私の理想のタイプがいるって昔から言ってるよね?カルとハリはまだ2人とも資格がないと…」


セレナが人差し指を両側にかき回しながら、可愛い表情で微笑むと、カルロス皇太子は深いため息をついた。


「はぁ、一体1,800年前のおじいさんにどうやって勝つんだ?フフッ…」


「カル、私はベイリオ皇国初代ヘンリー皇帝陛下をとても尊敬しているの。うちのヘンリー皇帝陛下はいつもおっしゃってたよ。誰でも神が決めた身分に合わせて義務と本分を果たし、正しく生きれば皇国の民は皇国の民なりに、貴族は貴族なりに、皇帝は皇帝なりに調和して幸せに暮らせるとね。皇帝と貴族と民が、神が決めた本分を破ればこの世の秩序が崩れると常に強調していた。私もあの方のお言葉に同意するの…!それでその方のお言葉が私の人生の座右の銘になったの。本当に素晴らしい名言を残して下さったような気がするの!」


「うん、うん。その話はもう数百回聞いたことがある気がする。それで、セレナが幼い頃から貴族の義務を果たそうと医学の勉強もして、病気の人たちの世話をしたり、給食所の無料ボランティア活動も続けてきたんでしょう。貴族の義務を果たそうと!時々見ると、セレナは私より皇太子にもっとよく似合う人みたい。私はこの席がとても手に余って重いんだけどね…」


毎日太陽のように明るいカルロス皇太子が、しばらく沈んだ表情で空を眺めた。


⦅カル。私はカルでも、ハリでも関係ない。一番強い人!最後にベイリオ皇国の皇帝の王冠をかぶる男が私を得ることになるのよ。ベイリオ皇国の皇帝陛下の伴侶になるのが私の長年の夢なの…⦆


セレナは、しばらく落ち込んでいたカルロス皇太子の肩をたたいた。


「あ、そうだ。カル!ハリが飼っていた可愛い小鳥を一匹引き取ったんだって?」


「それはまたどうやって聞いたの?ハエリス公爵もまだ知らないことなんだけど?」


「プフッ!グレース皇子様が話してくれたわ!」


「ああ…、そうだったんだ。そのエレインさん… そう。私の大切な弟を助けてくれた恩人だから、恩返しをしようと思って探したんだけど、公爵家にはエレインがいなかったんだ…、それで、少し力を入れて、足を運んでみたんだ」


「うん、良くやったよ。カル!人が恩を受けたら返さないと。ところでエレインちゃんにとって、グレース皇子の保母の座はやりすぎじゃないかな?むしろ他の補償を提案したならもっと良かったんだと思うよ。この口うるさい皇居でメイド出身の保母とは…。皇居に入ってくる侍女と保母たちは少なくとも準男爵家以上の貴族令嬢たちじゃないの。もしかしたら、エレインちゃんが少し大変かもしれない」


「あ、本当?正直、そんなことまで考えたことないな…?」


「いずれにしても男というものは…。たった一つの事しか考えられないんだから!チェッ…」


セレナが情けなさそうなカルロス皇太子を眺めながら首を振った。


「あ、そうだ。セレナ!三日後に皇居で音楽会が開かれるのを知ってる? 今、スタジオ宮でしばらく準備中なんだけど、今度一緒に行ってみない?」


「本当?いいね!なんか楽しみ」


「だからといってあまり大きな期待はしないでください。まだ準備中ですから。さぁ!私のレディーセレナ様、僕と一緒に行きませんか?」


カルロス皇太子が明るく微笑みながら手を差し出すと、セレナは彼の手をそっと握った。

セレナも明るい笑顔で答えた。


「プッ。いいですわ。カルロス皇太子殿下!」



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