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その公爵様とメイドの事情  作者: ロマンスメーカー
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第21話  俺は娘がいいな

挿絵(By みてみん)


私はグレース皇子宮で15日ぶりに2度目の休日を迎えた。

一晩中寝返りして深く寝付けなかった私は、休日にも関わらず朝早く起きてシャワーを浴びた。

髪の毛の水気をタオルでとんとんと落としながら、私は真剣に色々悩んだ。


「行く?行かない?」


数えきれないほど考えてみても、とても勇気が出なかった。

しかしグレース皇子の健康を思うと、私の恥ずかしい気持ちはしばらくしまっておきたいと思った。

私は部屋の中の鏡の前に行き、髪をぐるぐる巻いて、端正に上げた。

そして、先週週給を貰った時に新しく用意した白いワンピースを着た。

薄いピンクのフリルが入った白いワンピースにアップスタイルをすると、なんだか貴族のお嬢さんのような雰囲気がするようだった。

化粧台の椅子に座り、簡単に薄い粉を塗ってから私が直接作ったピンクの口紅を塗った。

何日か眠れなくて疲れていた私の顔が、いっそう元気そうに見えた。


「そうだよ!勇気を出そう!エレイン!」


私は自ら勇気を奮い立たせてグレース皇子宮を出た。

ベイリオ皇居の前には多くの馬車が前世のタクシーのように一列に並んで待機していた。

私は一番前に待機している馬車に乗り込んだ。


「どこに案内しましょうか。お客様?」


「あの…。ハエリス公爵閣下の御殿に向かっていただけると幸いです」


「はい、分かりました」


(ダダダッ、ダダッ)


馬車は私を乗せてベイリオ皇国の首都、エレルマン都市を走り抜けた。

馬車の窓から見える首都エレルマンの町の風景を、私は心騒がしく眺めた。

一週間ぶりの外出なのにあまり気分がよくなかった。

もしかしたら今日、ハエリス公爵に会えないかもしれないという考えがふとよぎった。


⦅もし会ってくれなかったらどうしよう?⦆


そういう場合に備えて前もって書いておいた手紙も持って来たが、私はこの手紙を渡す事がなかったらいいなと思った。

ハエリス公爵に直接会いたい気持ちが私の心の中から湧き出た。


⦅私可笑しくなっちゃったみたい…⦆


不安半分、ときめき半分で、ドキドキする私の心をつとめて静めながら、強く首を横に振った。

馬車は40分あまり走り、ついにハエリス公爵家の邸宅前に到着した。

私は馬夫に料金を計算して払い、馬車から降りた。

立派な佇まいのハエリス公爵家の正門前に立ってみると、なんだか私が限りなく小さくなるような気分だった。

去って1ヵ月も経たないうちに、こんなに早くハエリス公爵家に再び来るとは思わなかった。


⦅入る?やめる?⦆


普通に昨日週給でもらったお金でミュースケの鉛筆を買って、そのまま皇居に戻ったらどうかな?という気もしたけれども、おそらくミュースケ鉛筆を一本か二本しか買えないと思った。


⦅はぁ、やっぱりお金が怨讐だな…⦆


(コンコン、コンコン)


私は震える手でハエリス公爵家の邸宅の鉄の扉をたたいた。

間もなく、ハエリス公爵家の中でとても驚いた表情のベル執事様が私を迎えてくれた。


「エレイン!!久しぶりだな!」


ベル執事が暖かい微笑で私を迎えてくれると、なんとなく私の心がジーンとするような気分になった。


「今まで元気だったか?」


「はい、ベル執事さん。元気でしたよ…」


「今日は友達に会いに来たのかい?」


「あの、い、いいえ…」


「うん…?」


私はどうしても開かない口でベル執事を見つめながら苦しく話し出した。


「はい。実はハ…エリス公爵閣下に…お会いしに来ましたが。今いらっしゃいますか?」


「ふむ?ハエリス公爵に何か用事があるのか?」


私の言葉にベル執事は仰天した表情で、大きく両目を開けて私を見つめた。

なぜか戸惑いながらも気分がとてもいいのか、私ににっこりと微笑んで見せた。

私は自分の顔に何かついていたのかと思って、訳もなく手で素顔を何度も拭いた。


「直接伺ってお話することがありまして」


「幸い、今お宅にいらっしゃるよ。エレイン、私について来なさい…」


「あ…、はい!ありがとうございます。ベル執事様」


ベル執事は、私をハエリス公爵家の邸宅本館に案内した。

長い廊下を歩きながら、ベル執事は時折横目で私の姿をちらりと見た。

私は内心首を傾げたけど、表ではとてもそぶりを見せられなかった。

今、私にとって大きな山、大きな峠であるハエリス公爵との面会が目前に迫ったからだった。

まず、彼が私に会ってくれるかも分かってないけど、もし彼に会ったら何から話すべきか見当がつかなかった。


⦅今からでもこのまま帰ろうかな?⦆


様々な想念が私の頭の中を嵐のように駆け巡った。


「しばらくここで待っていなさい。上がってハエリス公爵に訪ねてくる」


「はい、分かりました。ベル執事様…」


ベル執事はそそくさと大理石の階段を駆け上がり、ハエリス公爵の執務室に上った。

私は下の階で、そわそわした気持ちでベル執事が降りるのをじっと立って待っていた。

しばらくして、ベル執事は暖かく微笑みながら階段の下に降り、私をハエリス公爵の執務室に案内してくれた。


(ゴクリ)


緊張して、唾が私の喉に入る音が耳元で大きく響くようだった。


「もうお入りになって大丈夫ですよ。エレインさん」


何故かベル執事の言葉遣いが丁寧に変わったようだった。

ハエリス公爵のメイドとして働いていた時には一度も聞いたことのない敬語で、私は戸惑った表情でベル執事を見つめた。


「あの…ベル執事様、私なんかに敬語を使わないでください」


ベル執事はただ私を見つめながらにっこり微笑んでるだけで、何の返事もしなかった。

彼は急いでハエリス公爵の執務室に入りなさいと言って、私に頭を振った。

おそらく、私がハエリス公爵家のメイドではなく、公爵家の客として訪問したので敬語にしてくださるような気がした。

私はベル執事に頭を下げて挨拶した後、震える心でハエリス公爵の執務室のドアをノックした。


(コンコン、コンコン)


「入りなさい」


ハエリス公爵の聞きよい低音の声が執務室の中から聞こえた。

私は高級なアンティーク風の執務室のドアを開けて執務室に入った。

ハエリス公爵は執務室の机で書類に目を通していた。

私は震える声で辛うじて彼に挨拶をした。


「こん…こんにちは。ハエリス公爵閣下。公爵邸で働いていたエレインと申します」


ハエリス公爵は頭を上げて私を見つめた。

彼の黒真珠のような黒い瞳が、私の頭からつま先まですっと目を通すのを感じられた。

まるで餌を狙う猛獣のような目つきだったので、私はさらに緊張して両手がぶるぶる震えてきた。

ハエリス公爵の2つの瞳は私の姿をじっと見ているようだったけど、いつの間にか彼の視線は執拗に私の唇を見つめているようだった。

私の勘違いだろうけど、ハエリス公爵は何故か私を狩りたがっているようだった。

捕食者のような彼の眼差しで、私の背中はいつの間にか冷や汗でびっしょり濡れていた。


(トントン)


その時、執務室にノックをした後ベル執事が茶菓子とお茶を出してきた。

やっと執拗な視線をやめたハエリス公爵が私に「執務室の応接テーブルのソファーに座れ」と頭を振った。

私は面食らった顔をして、執務室のテーブルのソファーに行き、用心深く座った。

ベル執事は、テーブルの上に湯気が立ちこめる香ばしいお茶と茶菓子を置いた。

彼は私とハエリス公爵を交互に見て、何故か微笑ましげに微笑みながら外に出た。

ハエリス公爵の執務室には、冷凍庫のように冷たい冷気がひたひたと漂っているようだった。

私は、自分がまるで冷凍庫でかちかちに凍らせたマグロのような気がした。

言おうか言わないか迷った末、頑張って勇気を出して、私は震える声でハエリス公爵に先に話しかけた。


「あの、以前は私が許可を得ずに公爵閣下に対して大変失礼しました。本当に申し訳ないとお伝えしたかったんです」


ハエリス公爵が何も言わずにただ私をじっと見つめた。


「ハエリス公爵閣下。私は本当に悪い意図ではなかったです。信じてください」


しばらくすると、耳障りのいい彼の声が聞こえてきた。


「分かった。過ぎ去った事は忘れよう。ところでここを訪問した理由は何だ?エレイン?」


「あの…他のことではなく今日私が訪問した理由はこれの為です」


私は席から立ち上がり、ハエリス公爵にゆっくり歩いて行った。

そして、書類が山積みされている彼の執務室の机の上に、用心深くミュースケの木製鉛筆を置いた。

ハエリス公爵は危なげな表情でじっと私を見つめた。

私は慌てて、私がここに来た理由をハエリス公爵に詳しく説明した。

私の話を聞いていたハエリス公爵の顔がだんだん冷たく固まっていくのが見えた。


「あの…、こうなってたので、失礼を承知で参りました」


(トントン、トントン)


ハエリス公爵は長い指で執務室の机を数回たたいてから、重かった口を開いた。


「それで…、君はこれをまた食べてみたのか?」


彼の視線が、私がテーブルに置いた鉛筆に刺さっていた。


「あ、違います。鉛筆の芯を味見したわけではありません。ちょっと私の舌に当ててみました。私の嗅覚が敏感だとしても、どんな材料が入っているのかは直接味見しないと分からないんです。まるで食べ物のように。料理の香りを嗅ぎどんな材料が入ったのかは分かりますけど、やはり食べた方がもっと正確に分かるのと同じです」


私の返事に、彼は眉間にしわを寄せ深くしかめ面をした。


「それでグレースと似たような体質になったんだな。毒がたまった体質」


「あ!どうしてご存知なのですか?私が薬草の勉強をする時、どうしても私には先生が他にいないので、多くの試行錯誤があったんですよ!何度か死ぬところだった時もあったけど、その度に運が良かったんです。それでもグレース皇子様よりは私の方がもっと元気です」


「じゃ、君は子供を産めるのか…?もし子供を持つようになったらグレースのようにその子に毒を被ったりしないか?」


突然入ってきたハエリス公爵の可笑しな質問に私はとても狼狽した。

どう言えばいいかと思っていたけど、落ち着いた目つきで彼を見ながら口を開いた。


「グレース皇子様と私の場合は少し違うんですよ。グレース皇子様の場合、あまりにも長く溜まっていて解毒が難しく又、今この鉛筆の芯の二つの毒薬成分が私には分からないもので…。私より優れた解毒師さんや医員を調べて欲しいです。私の場合は薬草さえあれば完全に解毒できますよ…。薬草が必要なんですが、それがとても珍しくて、私が後でお金をたくさん稼いだら必ず手に入れるつもりです」


「薬草?」


「はい!テルシャ氷山の頂上でだけ出る氷礁のフォームです。手に入れるのがあまりにも難しくて、 とんでもない値段らしいんですよ。誰でも私と結婚するにはまともな城二軒の値段は必要だと思いますよ?勿論それで私は結婚するつもりがないです。子供は作りません。そして私にはまだ愛する男もいませんし」


「うむ…、そうか。俺は娘がいいな」


「え?」


私は慌てた表情でハエリス公爵をじっと見つめた。

現ベイリオ皇国には皇女がいなかった。

それは純粋に、小説を書いた創作者の面倒が原因だった。

女性一人一人毎のドレスの材質やヘアースタイル、宝石、装身具など描くのが面倒くさすぎて入れなかったため、私の小説は皇子だけで9人の男ばかりになってしまった。

しかし、ハエリス公爵が娘が好きだとは考えもしなかった。

兄弟だけがうようよしてる9人の家で、一度は夢見たはずのロマンだったので、私はすぐ理解した。


「はい、娘ってすごく可愛いですよね!綺麗でもありますし」


私の言葉にハエリス公爵の両目は、まるで半月のよう綺麗に曲がってるようだった。

彼と話していると思ったより怖くなかったのか、緊張が解いていくのが感じられた。

私はふと、ハエリス公爵とセレナに似た2世を想像した。

ただ想像しただけなのに、言葉では表現できないほどまぶしい組み合わせが誕生しそうだった。

息子であれ娘であれ、2人の2世はすごい創造物が出るだろう。


「じゃあ、まずミュースケの鉛筆を手に入れたらいいんだな?」


「はい、公爵閣下。まずそれが先だと思います。私も皇居でこの毒についてもっと研究してみます。毒が入ったミュースケ鉛筆の出所などは公爵閣下がよくやって頂けると信じています。私だけを信じないで能力のある解毒士や、医院さんをぜひ探してみてください」


私はスカートのポケットからクマのグミとペパーミントキャンディーを取り出した。


「まずこれでグレース皇子様の毒を中和させておきます。グレース皇子様が子供向けの食べ物が好みだったのでペパーミントキャンディーをこのグミに入れてみました」


ハエリス公爵がしばらく沈黙してからじっと私の目を見つめた。

私は、自分また何か悪いことでもしたのかと、心がとてもヒヤヒヤした。

その時、なぜか優しさのこもった声でハエリス公爵が私に尋ねた。


「エレイン…、どうしてここまでやるんだい?」


私は言おうか?やめておくか?短い時間で数千回悩んだ末、やっと口を開いた。


「あの…、それは…ハエリス公爵閣下が(私の主人公が)幸せになるのを願っているからです」


私は真心を込めて私の心をハエリス公爵に伝えた。

ハエリス公爵は私の言葉にふっと笑い出してから薄く笑みを浮かべてるようだった。

彼の赤い唇の口元がそっと上に長く伸びた姿は、とても魅惑的だった。

ハエリス公爵が自分の机から立ち上がり、私の手のひらにクマのグミとペパーミントキャンディーを取り上げた。


「そうだな。これから宜しく。エレイン…」


ハエリス公爵はペパーミントキャンディーの中の一粒を彼の口の中にすっぽり入れた。

ペパーミントキャンディーのせいで彼の頬がふっくらとなって何故か可愛く見えた。

これまで彼に密かに食べさせていたペパーミントキャンディーの解毒剤のため、彼が私のことを悪く思わないか心配していた。

幸い、そうでもなかったのでこれから少しは楽に彼に接することができそうだった。


「私を信じてくれてありがとうございます。ハエリス公爵閣下」


私が感謝の挨拶を伝えると、ハエリス公爵の目元はまるで半月のように綺麗にゆがんでいた。



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