第19-2話 ミュースケ鉛筆芯の毒
グレース皇子宮の厨房は2つあって、お互い並んでくっついていた。
1ヵ所はグレース皇子の食事を担当する厨房で、もう1ヵ所はお茶と簡単なおやつ類を作れる厨房があった。
私はお茶と簡単な間食ができる厨房に入り、色々な薬草と薬剤を混ぜていた。
市内で苦労して手に入れたクマの形をしたパンを作る時に使う型抜きに、私が溶かして作ったベトベトのゼラチンを注いだ。
「さあ!これで十分!」
しばらくため息をついた後、クマの形の型抜きの中に入れたゼラチンが固まるのを待っていた。
前世であった冷蔵庫のようなものがあれば1、2時間で完成するだろうけど、半日が経ってもゼラチンは固まらなかった。
もし私が今席を外したら、誰かがこのクマのグミに変なことをしかねないと思い、私はトイレにも行けずに席を守っていた。
幸い、ちょうど休みだったので、人の顔色を伺うこともなかった。
私は台所でのんびり本を読みながら退屈な時間を過ごした。
ついに5時間が経つとゼラチンが固まって、クマのぬいぐるみの形をしたグミになった。
型からグミを取り外すと、赤・黄・オレンジ・緑の色とりどりのクマグミが完成した。
各色のグミごとに異なる果実の香りがして、とても美味しそうに見えた。
このグミの中に、グレース皇子に内緒でペパーミントキャンディの粉を混ぜた。
子供の口である「グレース皇子」を騙すには、この方法しかいい考えが浮かばなかった。
私は完成されたグミたちを綺麗な瓶に入れて、グレース皇子宮に行った。
「エレインさん!今日は休みではなかったんですか?おや…、ところでこれは何ですか?」
「はい!アンナ夫人。私が作った新しいおやつですが一度召し上がってみますか。グレース王子様に差し上げるために作ってみましたよ」
「おぉ!そうなんですか? 味見をしてみましょうかね?」
可愛いクマのグミに興味が出たアンナ夫人がいくつか食べてみた。
「あら!果物の味がしますね。少し和やかな味はしますが、なんだか口の中がすっきりする気持ちです!グレース皇子様も大変喜ばれると思いますよ」
アンナ夫人の許可を得ると、私は熊のグミを持ってグレース皇子のところに向かった。
グレース皇子は机に座ってさまざまな数学の問題を解いていた。
何か問題がこじれたのか、ミュースケの鉛筆の後ろの尻を口の中に入れてくちゃくちゃ噛んでいた。
⦅鉛筆をあんなに口にくわえていたらダメなのに…⦆
「あの…、グレース皇子様?」
「え?エレイン?今日休みじゃなかったの?」
「はい...やることがなかったので皇子様に差し上げる新しいおやつを作ってみました。これ食べてみますか?」
「おお…新しいおやつだね。それは何なの??」
「クマのグミといって、もちもちしていて味がいいんです」
グレース皇子は、私の話に興味が湧いたらしく、キラキラとした目で机から立ち上がり、私の持っているゼリー瓶を眺めた。
「これなの?本当にクマの形だね?」
グレース皇子はクマのグミをいくつか取り出して、自分の口の中に入れた。
もぐもぐとグミをかじって食べていた彼の目が輝き、可愛い表情で私を見た。
おそらく私が作ったクマのグミがとても気に入ったようだった。
「わー…、本当に美味い!エレイン!何かスースーしながらも果物の味がするのがサッパリした気がする!これは一体どんな味なんだろ?」
⦅はい…、それはペパーミントキャンディーの味ですよ。グレース皇子様!⦆
幼稚園児のような口の皇子にペパーミントキャンディーは通じないと思って、少し改造してみた。
私はグレース皇子を見つめながら明るく微笑んだ。
グレース皇子は私が作った新しいおやつがとっても気に入ったようだった。
「エレイン!これまだあるの?」
「今はこれで全部なんですけどね。いくらでも作ってあげますよ!」
「よし!ありがとう!何かこれを食べると、不思議と頭が冴えた気分になるよ!」
「グレース皇子様、そんなに美味しかったんですか?」
「うん!本当に気に入ってるよ!エレイン!僕の保母として結構やるね?気に入った!」
私に意地悪な顔をして、グレース皇子は楽しそうにクマのグミが入った瓶を持って部屋の中をぐるぐる歩いた。
何度か彼が部屋をぐるぐる回ると、いつの間にかクマのグミが一瞬にして空っぽになった。
⦅いくら耐性がなくても、そんなにたくさん食べたらダメですよ。皇子様、歯が腐る可能性があるですからね!⦆
私はグレース皇子の体内に溜まっている様々な潜毒をクマのグミで中和させた。
それにより一応の心の安堵感が生じた。しかし、この方法は一時しのぎに過ぎなかった。
鉛筆の芯には私の知らない毒が2種類混ざっていて、グレース皇子の体を完璧に解毒することはできなかった。
毒を完璧に解毒するためには、毒の種類を知らなければならない。
私が作ったペパーミントキャンディーは優れた解毒剤だが、残念ながら万能解毒剤ではなかったからだった。
ペパーミントキャンディーの解毒剤は大部分の毒を解毒することができるけど、毒術師が特殊に作った毒を解毒するためにはそれに合った解毒法を別途に研究しなければならなかった。
解毒法を研究するには薬草と毒草に関する知識だけでなく、かなりの専門的な医学知識も必要だった。
しかし、アカデミーで医学教育を受けることができなかった私としては、自分の体を実験して作ったペパーミントキャンディーの解毒剤以上のレベルまで引き上げることができなかった。
それで一応グレース皇子の体に毒の触媒剤が通じないように辛うじて中和させておくしかなかった。
毒が入ったミュースケの木の鉛筆を皇子から遠く離しておかなければならないが、問題はグレースがそのミュースケの鉛筆をかなり好んでいるということだった。
私の週給をはたいて毒のないミュースケの木の鉛筆を買って、こっそり入れておけばいいだろうかと思ったけど、よく見ると普段、日に1、2本ずつ使っていて、それは私の手に負えないレベルだった。
それでは、グレース皇太子を大事にするカルロス皇太子に言えばいいんじゃないかな?という悩みも一晩中抱えていたけど、そうするわけにもいかなかった。
第1の有力な容疑者がカルロス皇太子の実母ジェイラル皇后だったためだ。
その為沢山悩んだ末、カルロス皇太子に話すこともひとまず保留した。
カルロス皇太子の側近の中にジェイラル皇后の人がいないはずもなく、もしいなかったとしても、あらゆる目と耳が隠れている皇居からあの鉛筆が消えたことがばれたりしたら、今よりも巧妙な方法でグレース皇子に接近しそうだった。
どうやら今の状況で最も信頼でき、ミュースケの木の鉛筆を数万本は十分に買えるほどお金もあり、グレース皇子を大事にする人が思い浮かんだ。
⦅でも…、どうやって私が彼に会いに行けるんだ!ダメ、絶対しない、私はできない!⦆




