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その公爵様とメイドの事情  作者: ロマンスメーカー
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第19-1話  ミュースケ鉛筆芯の毒

挿絵(By みてみん)


(ギイィ)


固く閉ざされていたバラ宮のダイニングルームのドアが開くと、ゲリマン皇帝夫妻とカルロス皇太子を含む2人の皇子が出てきた。

私は彼らに挨拶をし、顔を上げてグレース皇子の顔を見つめた。

グレース皇子はひどく叱られたような表情で、とても良くなかった。


「僕、ただいま…。エレイン」


気力が尽きたように、グレース皇子はとても凹んだ表情で私に話しかけてきた。

カルロス皇太子はそのようなグレース皇子がもどかしかったのか、自分の皇太子宮に行くのを止めて、しばらく彼の背中をさすった。


「グレース、さっき食事もちゃんとできていなかったようだが。僕と僕の宮に行こう。お美味しいおやつあげるよ…」


「はい、カル兄様…」


好きなおやつの話をしても気分がよくならないようで、グレース皇子は依然としてふくれっ面をしていた。

私とメイドのシャーロットは、皇太子宮に向かう2人の後について行った。

バラ宮の外に出ると、庭で待機していたアンナ夫人とメイドのハンナに会うことができた。

彼女たちは遅い朝食を済ませた後、私とシャーロットと交代するために外で待っていたようだった。


「アンナ夫人!」


「エレインさん、お疲れ様でした。これから私がグレース皇子様をお迎えしますので、エレインさんとシャーロットは帰って休んでください」


「ありがとうございます。アンナ夫人」


私たちはカルロス皇太子とグレース皇太子に挨拶をし、グレース皇太子宮に戻った。

メイドのシャーロットは気になる表情で私に話かけてきた。


「今日、グレース皇子様の他の日程はなかったんですよね。時間がたくさん残りますね。保母様は今日何をするつもりですか?」


「うーん…、そうですね…?」


私は何をしようかと悩んだ挙句、ただじっとしているのはむずむずしているようだった。

それで私は倉庫から掃除道具を持ってきてグレース皇子の部屋に着いた。

さっき朝に見たとき、何箇所か汚い所が目についたからだった。


「あら!!保母様、そんな事までなさらないで下さい」


「はい、はい!私どもがやります。ちょっと休んでください」


「いいえ。私、掃除が上手なんです!メイド出身じゃないですか。グレース皇子様がいらっしゃるまで皆さんちょっと休んでいてください」


「いや、いくらなんでも…」


「本当に大丈夫です!」


私は本当に大丈夫だと言いながら、メイドたちをグレースの皇子の部屋から追い出した。

そして両腕をまくった後、グレース皇子宮を掃除し始めた。


「さあ、今度はここを磨かなきゃ…」


(ふきふき)


やはり掃除をしたら私の心がいっそう安らかになったようだった。

これまでは時給より仕事が多くなくて一見気が楽ではなったが、今になって私の気持ちが楽になったようだ。


「よし!もしかしたらメイドの仕事が天職かもしれない!」


私は楽しそうに歌を口ずさみながら、紙がぎっしり詰まっているゴミ箱を空にした。

綺麗なタオルにワックスをつけて古風な原木の家具をよく拭き、乾いたタオルでつやを出した。

そうして乱れたベッドの床を掃除すると、部屋の中がピカピカに片付いたように見えた。

一息ついて、今度は本が山のように積まれているグレース皇子の机に向かった。

個人執務室はまだ許可を得ていないが、外部に公開された机は少し整理してもよさそうで、熱心に整理を始めた。

机のあちこちに散らばっている本をきちんとまとめておいて、机に転がっている万年筆も選んで象牙で作られた白い箱にきれいに整理しておいた。

その時、私の鋭敏な嗅覚に薬草を勉強していた頃やっとの思いで手に入れたミュースケの木の香りがした。

ミュースケの木は心を落ち着かせる向精神性の薬効が高い植物だが、ギランス王国南部側にしか育たない植物なのでとても高かった。

手のひらほどの小さな木一切れに、実に1ゴールドの価値があった。

私はこの木一切れを手に入れるために3ヶ月分のメイド月給を全部使ったことを思い出した。


「本当にいい匂いなんだよね。なんか心が落ち着くみたい…」


この高いミュースケの木から消耗品の鉛筆を作ることを考えるなんて、さすが皇族と思えた。

象牙の筒に入っているミュースケの鉛筆を売れば多分金貨20枚は優に受け取れるだろう。

机の上に転がってるミュースケ鉛筆を、象牙の鉛筆立てにきちんと整理して挿し、今度は腰を曲げて机の下を見た。

グレース皇子が、何かを計算してしわくちゃにした紙束が山のように積まれていた。

私は紙くずを集めて、きちんと広げた。


「捨てる時もこうやって整理して捨てなければならないんです!グレース皇子様! あっ!」


紙を集める時、誤って紙の刃に私の人差し指がすっと切れた。

しみるような痛みと共に赤い血が点々と流れ落ちた。

私は指を口に入れて止血するために流れ落ちる血をすっとすませた。


「あれ?何?これは?なんの味なんだろう?」


血の鉄分の味の中に、舌先をピリッと刺す嫌な味が感じられた。

指に流れていた血が止まると、私は震える手で、しわくちゃになった紙を広げてにおいをかいだ。

私の鼻先をピリッと刺激する嫌なにおいが紙からかすかに漂っているようだった。


「何これ??」


よく見ると紙ではなく、字から匂いがするようで、鉛筆立てから鉛筆を取り出し匂いをかいでみた。

ミュースケの木の鉛筆からはいい香りが漂っていたけど、気持ちの悪い匂いは香りに包まれていた。

どうやらミュースケの木の香りがあまりにも濃くて、私は自分の舌にミュースケの木を当て、黒鉛も当ててみた。

気持ち悪くピリッとした味と香りは鉛筆の木ではなく鉛筆の芯から感じられた。


(グシャッ)


私はミュースケの鉛筆をわざと折って、鉛筆の芯と木を別々に分離した。

そして鉛筆の芯だけ別に匂いを嗅いでみた。

ようやくミュースケの木の香りに隠れていた嫌なピリッとしたにおいがはっきりと現れた。


「これは確かに毒だ。ハヤルーゴローバーム、ボルソ、カトミン…。でも、私が知らない毒が二つ混ざっている…」


成分のすべては分からないから正確ではないけど、体内の潜毒を増幅させる性質を持つ薬物のようだった。

毒に侵されたことのない一般人には何の影響もないが、グレース皇子は確かな影響を受けたはずだ。

どうも同年代より異常な成長を経験したのも、ずっとこの毒に長期間晒されたのが原因のようだった。


⦅一体いつからこの毒に晒されていたんだろう…?⦆


もし毒の性質を増幅する触媒剤に触れたらどうなる?という考えまで行くと、ぞっとして鳥肌立つ気分になった。


「あ?触媒剤? フレンスト!!」


私の視線に、先ほど整理しておいた万年筆とインク瓶が見えた。

私は震える手でインク瓶を1本持った。

このインクはワインのように直接飲むものではないので幸いだった。


「まさか…、今回もジェイラル皇后?」


私は震える手で、グレース皇子のミュースケの鉛筆を1本私の懐に隠した。


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