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その公爵様とメイドの事情  作者: ロマンスメーカー
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第16話  グレース皇子様は保母が必要だ

挿絵(By みてみん)


【仕事探し:名前-エレイン、年齢-20歳、性別-女性、特技-掃除、洗濯、趣味-化粧水作り、前職-ハエリス公爵家のメイド、給与-交渉可能、できること:メイド、保母】


ハエリス公爵家を追い出された私は、いつまでも悲しみに暮れているわけにはいかなかった。

ある程度落ち着いた後、「森の妖精たち」旅館で履歴書を几帳面に書いてみた。

ハエリス公爵家でメイドとして働いたのが私の履歴の全部で、何文字か書いてみたら、もっと書き込む言葉がなかった。

履歴書の空欄がとても目立つようで、私の特技と趣味まで書いてみたがそれでも何か物足りないように見えた。

それでいったん直接体でぶつかってみながら、足りない部分を一つ一つ埋めてみようと思った。

早朝からシャワーを浴びた後、旅館の食堂に行って朝食を食べた後、清潔な女性服に着替えた。

鏡に映った私は緊張した様子でいっぱいだったが、一方ではワクワクした気持ちに違いはなかった。

ある意味私は、前世と現世で与えられた人生に黙々と順応しながら生きた。

一度も自分で選択した人生を生きたことがなかったのだ。


「よしよし!」


私は自ら勇気づけながら強く気合いを入れて叫びだした。


「ここが…。あ!あそこにあった」


街の人々に尋ねてハエリス公爵領の町「デルマン」通りの職業相談所を訪ねた。

幸いにもデルマン市内には職業相談所が数十ヵ所あった。

私はなんと30ヵ所以上の職業相談所に自分の履歴書を出していた。


【ベズラ職業相談所】


今日、最後に聞こえる職業相談所のドアには木製の看板が小さく掲げられていた。

私は大きく深呼吸をして、慎重にノックした。


(コンコン、コンコン)


「はい、お入りください!」


やさしい中年女性の声がドアの奥から聞こえてきた。


(ギィー)


そっとドアノブの取っ手を回してベズラ職業相談所の中に入った。

3坪余りの古いオフィスの机に黒縁眼鏡をかけた体のある女性が、古いテーブルで事務をしていた。

私は丁寧に頭を下げて彼女に挨拶した。


「こんにちは。はじめまして、エレインと申します」


「会えて嬉しいわ、ほほ。あら、私ったら、こちらにお座りください」


彼女は重そうに見える体を起こして、事務所の古いソファーに案内した。

私と彼女はソファーで自然に向かい合って座った。


「履歴書を見せてもらってもいいですか、エレインさん」


私は慎重に彼女に前もって準備してきた書類を差し出した。

彼女は私が渡した書類を受け取りさっと読んだあと、ちらっと私を見つめた。


「エレインさん。ハエリス公爵閣下の邸宅のメイドとして働いていたんですって?」


「あ…、はい」


「そっちの方が時給が高くないですか??恐らくハエリス公爵の邸宅ほどメイドの時給を与える所は、このハエリス公爵の公領内にはないはずだけど…。何があってお辞めになったのですか?」


まるで面接官のように彼女は私を圧迫して聞いてきた。

私はこれまでこのような質問を数え切れないほど受けてきたから、ずけずけ言うことができた。


「あ、はい。ハエリス公爵家の邸宅が良かったのですが、やむを得ない事情があって出てきたのです。絶対に可笑しな事情ではありません。私の個人的な理由なので申し上げ難いのですが、必ず申し上げなければなりませんか?」


「ああ…まあ、困ったものなら言わなくてもいいですよ。健康には問題ないんですよね?」


「はい、元気です」


私は明るく笑いながら私の両腕を持ち上げると、彼女はかすかに微笑みながら頷いた。


「いいですね!私の考えではメイドの給料でハエリス公爵家程の給料はもらえそうにないし、履歴書で見ると保母もできるとなってますね?メイドも一度履歴書を出してみて、保母も履歴書を出してみてはどうですか??」


「はい!メイドの仕事であれ、保母の仕事であれ、私が働けるところならどこでもできます」


私の答えが満足だったのか、彼女は肯定的に微笑みを見せてくれた。


「いいですよ。今は入ってる仕事が全部なくなってしまったので、二日後に事務所に戻ったらいい席を探しときますね」


「ありがとうございます。社長」


私は彼女に会釈をし、職業安定のドアの外に出た。

もう1週間ほどこのように職業相談所を探し回っていたけど、不景気なのかまだまともな職場を紹介してもらえなかった。

元々私のしたかった仕事は、私の特技と趣味を活かして小さな天然化粧品の店を開くことだ。

それが私の小さな夢だったからだ。

ハエリス公爵家から解雇される時に多額の退職金を受け取り、そのお金を使えばお店をオープンする事はできたけど、それほど乗り気ではなかった。

目を覚ましたらひどい目にあう世の中で、もし詐欺にあったり商売がうまくいかなければ、自分の全財産を失うことになりそうだったからだ。

なので私は退職金を公領内のデルマン銀行にすべて入金した後、多様な社会経験を積んだ方がいいと思って、新しい職業を探していた。

一日中市内を歩き回ってたら、いつの間にかふくらはぎがむくんでいた。


「ああ。やっぱり、世の中を生きるのは、どこでも簡単な事じゃないな…」


いつのまにか中天にあった太陽が地平線の下に沈み、日が暮れて夕方になっていた。

私が泊まっている「森の妖精たち」旅館には宿泊客の食事が無料で用意されているので、足早にホテルに向かった。

食事の時間を逃せば、バイキングの食べ物がほとんど売り切れになるためだった。

数日後、私は職業紹介所で悪い知らせを聞くことになった。

ハエリス公爵家のメイド出身なので履歴書上良い点数を得たが、出ることになった理由を不明確に話したため、メイドを求めていた色んな家門から断られたという話だった。


「残念ですね、エレインさん。他の仕事が何かあったら連絡しますね」


「はい、ありがとうございました」


私は仏頂面で職員と挨拶を交わした後、職業相談所を後にした。

職業相談所を数十カ所回ったけど、今日だけでも既に10カ所も同じ理由で断られていた。


「はぁ…、どうしよう…」


私は切実な気持ちで最後に「ベズラ職業相談所」のドアをたたいた。

黒縁眼鏡をかけた中年の女性が優しく私を迎えた。


「あら、また会えて嬉しいですわ。エレインさん!そうでなくても幸い面接を希望する所が入ってきまして」


「え?本当ですか?」


「でも、残念ながらメイドの仕事ではないんですよ」


「あ、大丈夫です。どんな仕事でもやらせていただければ、頑張る自信があります」


「あ!そうですか?それでは面接はいつできますか?」


「実は今すぐにでも可能です。時間と場所を教えていただければ面接を受けに行きます」


「あら!今日でもできるんですって? そうでなくてもエレインさん、面接を希望する方が、面接は今日だと何度も念を押してくださって心配しました。良かったですね。さあ、もうすぐ馬車が到着しますよ。その馬車に乗ってください」


「え?馬車ですか?」


私は呆然とした表情で、職業相談紹介所の女性社長を見つめた。

私の質問に、彼女は返事もなくただ微かな笑みを私に浮かべた。


(ダダダッ、ダダッ)


建物の外でけたたましい馬の蹄の音がすると、彼女は立ち上がり窓のカーテンを開け、馬車が到着したことを確認した。


「馬車が来ましたね。1階に下りていただき、お乗りになればいいです。紹介費は銀貨30枚です」


「あ…、はい」


私はスカートのポケットから急いでお金を取り出し、彼女に渡した。

彼女は銀貨の個数をいちいち確かめて、金額が合っているか確認した後、私に明るい笑顔をくれた。

私は面食らった心で階段を降りて、建物の外に止まっている馬車の前に立った。

馬車の外観は非常にすばらしく、私を乗せる馬車で合っているのか疑わしかった。

派手な馬車から、黒く洗練されたスーツ姿の馬夫が降りた。

なんだか私が思うに、何か変な気がして、その御者にしんみり聞いた。


「あの…、これって私の乗る馬車で合ってますかね?」


「もし、お名前はエレインさんではありませんか?」


「ああ!はい、そうです」


「それではこの馬車に乗ってください。さあ、どうぞ」


馬夫はにっこりと私に微笑み、丁重に馬車のドアを開けてくれた。

私は渋い表情で馬車の足場に乗り上げたけど、心は不安だった。

なんか変なところに売られるんじゃないかな? という疑いが頭の中をぐるぐる回った。

しかし、一応紹介費として30枚の銀貨を使った以上、面接は受けなければならなかった。


⦅まさか、変な所じゃないよね?⦆


一体どんな家柄だったら面接者に馬車まで提供しながら面接を受けさせるんだろうか?

一目で見ても馬車の内部は、外見に劣らず大変高級なものだった。

青緑色のベルベットの長いソファーと白い水牛革の壁が馬車の内部を明るくしていた。

革ごとに厚いエンボス加工とキラキラした宝石が細工されていて、いっそう華やかに見えた。

私は中腰で馬車に座って面接に行く道中、ずっと心が不安だった。

なぜか私が座ってはいけない所に座っているような気分だった。

いつのまにか面接会場に到着したのか、馬車が止まってしまった。

私を馬車に乗せてくれた、きちんとした正装を着た馬夫が馬車のドアを丁重に開けてくれた。


「さあ、着きました。降りてください。エレインさん」


「ああ、はい。分かりました」


私は馬車から降りて、面接の場所がどこなのかよく考えた。

私の目の前に真っ先に目につくのは黄金色の輝く数十個の屋根だった。

まるでギリシャの神殿のように、繊細に彫刻された数百棟の建物が私の前に広がっていた。

だから私が馬車から降りた所がどこかというと…。


「あの、あの…」


「はい?気楽に話してください。何が気になるんでしょうか?エレインさん?」


「あのここってベイリオ皇国の皇居…ではないでしょうか?」


私の話に、運転手は軽く頷きながら口を開いた。


「はい、その通りです、エレインさん。あ、今いらっしゃいますね。あそこにいらっしゃるあのお方に付いて行けばいいです」


「あ…?はい」


私は戸惑いながら皇居で働くメイドに見えるある女性の案内に従って、生まれて初めて皇居の中に入った。


⦅わぁ⦆


前世で私が小説を書きながら簡単に書いた皇居の描写は描写でもなかった。

おびただしい規模の皇居は、数多くの離宮によって構成されたとても広い場所だった。

天然大理石の白い柱と輝く大理石の床がきれいに整然と広がり、道には素敵な彫刻と美しい生花が華やかに飾られていた。

ベイリオ皇国の皇居は大規模らしく、非常に雄大で高級感があった。

おそらく皇居の中をすべて見物するには、何日昼夜が明けても足りなさそうだった。


「ここだよ!ここ!」


広々とした皇居の後苑には絹で作った日よけ幕と大理石で作ったティーテーブルが置かれていた。

そこでは馴染みの2人の人物が明るく笑いながら、私に手を振った。


⦅あらま!グレース皇子様?⦆


私を暖かく迎えてくれるグレース皇子の顔を見て、私も一緒にうれしくなった。

私が最後に見た彼の姿は、毒のせいで死にそうな姿だったのに、幸いにもグレース皇子はとても元気そうに見えた。


「皇国の星、皇太子様にお目にかかります。グレース皇子様にお目にかかります」


私は、カルロス皇太子とグレース皇太子に礼を尽くして挨拶をした。


「お会いできて嬉しいです、エレインさん。びっくりしましたか?」


「あ、はい…。ちょっとびっくりしました。私は今日面接だと思って来たので」


私が面食らった表情で、カルロス皇太子を見つめながら言った。

カルロス皇太子が私にやんちゃな表情で言った。


「あれ?これ面接で合ってますよ?ハハ」


カルロス皇太子は私をじっと見つめ、早く席に座りなさいというジェスチャーを見せた。

私はこの椅子に座ってもよいか、しばらく悩んだ。

カルロス皇太子がもう一度催促すると、私は渋い表情でカルロス皇太子とグレース皇太子の間にある椅子に座った。

グレース皇子は私をキラキラな目でじっと見つめた。


「お元気そうですね。よかったです…。グレース皇子様」


「これは全部エレインのおかげです。ありがとうございます」


グレース皇子はタメ口でなく、とても丁重に私に感謝の挨拶をした。

近くで見た彼は幸い、赤い斑点の跡が一つもなくきれいに見えた。

おかげで、この席が面接の席というカルロス皇太子の言葉も忘れ、自然と気分がよくなった。


「いいえ、当然にやるべきことをやっただけです」


「当然やるべきことだなんて…。エレインさんが命をかけて解毒剤を見つけ出していなかったら、グレースだけでなく、皇国の民も大変なことになったでしょう。もう一度ありがとうございます」


カルロス皇太子は丁寧な言葉で私に感謝の言葉を伝えた。

二人の言葉に、私は照れくさくなって、何を言ったらいいかわからなかった。


「あ、この話はもうやめて、保母さんの面接を受けないとね?」


「え?保母ですか?」


「うん。私が最近保母さんが必要なんでね!」


グレース皇子は丁寧な言葉からタメ口に変えて意地悪な目つきで私を見つめた。


「あの…、私の知っている限りでは皇子様はもうすぐ成年になるんじゃないですか…?」


グレース皇子の容姿は10歳前後に見えても、厳然として17歳の少年だった。

それで保母が必要な年ではなかった。


「うん。そうだよ、でも私が成人になるにはまだ何ヶ月も残っているんでね!」


「はい?」


カルロス皇太子がにこっと優しく微笑みながら愉快な表情で私を見ながら言った。


「話を聞いたところによると、エレインさんは就職するのが大変だそうだけど…。まあ、働き口が必要ないなら、もう席を立った方が良さそうですね」


カルロス皇太子が身を起すふりをすると、私は少し急いで彼の腕をつかまえた。


「あの、カルロス皇太子殿下!! 書いていただければ一生懸命働きます」


グレース皇子は私の行動がとても面白かったのか、その場で腹を抱えて楽しそうに笑った。

カルロス皇太子も中々気分がいいのか、私とグレースを交互に眺めながら大笑いした。

私は、くすくす笑う二人を見て、照れくさそうに微笑むだけであった。


「では、仕事はいつからすればよいですか?」


「うーん…、今日から!」


「え?今日からですか??」


「うん!」


私はびっくりして二人を交互に見た。

そうやって私は稲妻で豆を炒るように今日の午後からグレース皇子の保母になった。

カルロス皇太子の面接が終わった後、再び馬車に乗って「森の妖精たち」に向かった。

部屋から荷物を持って出てくる自分の姿を見た「森の妖精たち」旅館の支配人はとても困惑していた。


「これまで本当にありがとうございました。気楽に泊まれましたよ」


「あ、はい!急ですが出発するんですね!もし失礼でなければどこへ行くのかお伺いしても?」


「それは…」


支配人は私にどこへ行くのかと尋ねたけど、彼に私の行く所を強いて話す必要はなさそうなので、首を横に振りながら微笑んだ。

出した履歴書の返還だけを受けた私がベイリオ皇国の皇居に入り、グレース皇子の保母として働くことになるとは信じられなかった。

思いもよらなかったことだったので、私はとても戸惑い動揺したけど、一方では、本当に幸いな気もした。

私が思っていたより、ずっと早く見つけられて本当に嬉しかった。

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