第15-2話 メイド解雇通知書
[食事提供+一ヶ月間の部屋代銀貨10枚!長期契約歓迎!]
メイド友達のベリーナが渡したチラシを見ながら、本当この世にこんな安い所があるなんて? 詐欺ではないかと疑わしかった。
それでも当分は働き口がなく懐事情がよくない私は、元も子もないという考えで、人々に聞いてみた。
ハエが飛ぶ質素な旅館だと思っていたが、到着したのは思っていたより立派な旅館だった。
看板は古い旅館のようだったけど中は前世のシティーホテルのようにとても綺麗に見えた。
「どうもここじゃないと思うんだけど?」
有名な店の近くにその店の名前をつけた看板があったのを思い出した私は、しばらくそこらをうろつきながら別の看板を探していた。
その時、整った印象のある中年男性が看板を探している私の肩を触った。
「あ、すみません。道の真ん中にいるわけじゃないのに…。私、探してるところがあって、どうもここじゃないみたいですね」
「私は'森の妖精たち'の支配人、ハランスと申します。もしかして銀貨10枚で食事を提供するチラシを見て訪れたお客様ではないですか?」
男の言葉に、私はベルーナがくれたチラシを揺らして見せた。
「はい、こういうチラシを友達からもらいました…」
「お、おめでとうございます。お客様!元々先着順のイベントで、今日このチラシを持ってきたお客様一人だけこの価格で提供しているんですが、お客様がその最初のお客様です! 本当に運がいいですね!」
私はまるで薬商人に騙されているかのようにずるずると引きずられて「森の妖精たち」の支配人と家賃契約書を書き、10枚の銀貨を計算して部屋を一つもらった。
⦅え、何だろう?⦆
支配人が教えてくれた部屋の番号を探して行ってみたら、どうも部屋が間違っているような気がして階段に下りて支配人のハランスさんに何度も確認した。
でも私はこの部屋で合ってるという答えを何度も聞いた後、ぼんやりと自分の部屋に入って行き、柔らかなベッドに座った。
大理石の床に赤いカーペットが敷かれており、ベッドにはお姫様が使いそうなキャノピーベッドが置かれていた。
そして部屋には浴室とトイレがそれぞれ付いていた。
「まさか、人身売買されるんじゃないよね?」
純真そうな旅行者を安い値段でおびき寄せて、黒い裏通りに売り飛ばすような組織を想像して、私は何日も眠れなかった。
幸いなことに、食事をしながら「森の妖精たち」はハエリス公爵領の名所第1位とか、ビュッフェのグルメ第1位とか、色々話を聞いて安心した。
数日間お腹いっぱい食べてぐっすり休んだら、そろそろどんな仕事をしたらいいのかと悩んでいた。
「私は何が一番したいんだろう?今一番望むのは何だろうかな?」
一瞬、私の頭の中にハエリス公爵の姿が浮かんだ。
そういえば彼に別れの挨拶もせずに公爵家を去ることになった。
どうでもいいことで公爵家を離れるわけではなかった為、彼に別途の挨拶ができなかった。
⦅多分もう遠くからでも二度と見られないだろうな…?⦆
それを悟るや否や、急に私の両目から大粒の涙がぽろぽろと手の甲に落ちて来た。
⦅ハエリス公爵閣下にあの時ジャケットを脱いでくれてありがとうと言いたい。別れの挨拶もしたいし。しかし追い出される境遇ではそんな望みはとても馬鹿らしい。しくしく…⦆
私は生まれて初めて周りの顔色をうかがうことなく、気が済むまで号泣した。




