第14-1話 メイドエレインの中毒(2)
(コンコン、コンコン)
ハエリス公爵は自分の寝室のドアを開けて入ってくるベル執事を見つめた。
ベル執事は丁寧に挨拶をした後、ハエリス公爵を見つめながら口を開いた。
「エレン夫人が邸内に話が広がらないように、メイド達の口をきちんと取り締まりました。お気遣いなく」
ハエリス公爵は黙って頷いた。
彼はとても疲れた表情で、自分の顔を何回も拭った。
何故かとても疲れる上に辛い戦いを、メイドであるエレインとひとしきり戦った気分になった。
ハエリス公爵は熾烈な戦闘で辛うじて勝利を獲得することができた。
「公爵閣下、お休みの部屋はどちらのお部屋になさいますか?前もってお申し付け頂ければ整理しておきます」
「俺は執務室でしばらく過ごすことにしよう。皇室からまもなく医院が来る」
「はい、かしこまりました。ハエリス公爵閣下」
寝室の片隅の椅子に座っていたハエリス公爵は疲れた自分の体を起こした。
メイドのエレインは、自分のベッドの上で熟睡していた。
彼は彼女を一回すっと見つめ、寝室に繋がる通路から執務室に入っていった。
(ガタン)
執務室に戻るや否や、ハエリス公爵は胸が重苦しくなって窓を開け放した。
いつの間に日が暮れたのか、空は紫と青みがかった色に染まり、すぐ夕方には真っ暗になっていた。
闇を照らす三日月と煌めく星が夜空にいっぱいに浮かび上がる時、黄色く長い尻尾が付いた流れ星の一つが地上に落ちてきた。
とてもロマンチックな夜の風景だったが、ハエリス公爵の目には何も入ってこなかった。
(ふう)
夕方の冷たい春風が彼の執務室にそっと吹き込んだ。
「はぁ…、どうかしてる」
ハエリス公爵は、全身の血が逬る気持ちをなんとか静めようとした。
それでもしばらく冷たい風に当たっていたら、重苦しい気持ちも少しは静まるようだった。
もしかして解毒剤のキャンディーに蜂蜜でも入っているのだろうか?
ずっとエレインの甘ったるい唇の味が、彼の舌先に染み込んでいるようだった。
彼は2日間を執務室で過ごしながら、隣の部屋で横になっているエレインのことを考えないように努力した。
そして、ボンタス男爵家の領地にいる騎士のウェルが送った連絡が到着した。
グレース皇子はまだ意識を取り戻していないが、赤い熱花の斑点がすべて消えたという大変うれしい知らせだった。
エレインの作った解毒剤が本当に効いているようだった。
気持ちのいい知らせに、ハエリス公爵の赤い唇の口角が大きく上に上がった。
しばらくして、今度は皇室の医院の中でもシュエルという若い医院が薬剤を持って公爵家に到着した。
「公爵閣下、こちらが必要な薬剤でございます。十分に準備しました」
ハエリス公爵のそばにいるベル執事は、シュエル医院が渡した薬剤束を丁重に受け取った。
「グレース皇子様を治療した際、1日に1回同じ時間に解毒剤を服用したら、より効果がありました。グレース皇子様はまだ意識を回復されていませんが、内議の結果、まもなく意識を回復するようです。おそらくエレインさんも同じ方法でこの解毒剤を服用すれば、3日から5日で十分な効果を得られると思います。まず薬草をすべて挽いて粉にしたので、水に溶かして飲ませればいいでしょう」
「ああ、ありがたい。ご苦労さま」
「いえ、ハエリス公爵閣下。僕はもう、この辺で失礼します。もし他に何かご用がありましたら、皇室の医院にお申し付けください」
シュエル医院が微笑みながら丁寧にお辞儀した後、応接室のドアから出て行った。
ベル執事は、切羽詰った表情をしてハエリス公爵を見つめながら薬剤の包みを持って言った。
「エレインにすぐ、この解毒剤を飲ませに行かなければなりません。公爵閣下!」
「そうだな、一緒に行くことにしよう」
ハエリス公爵とベル執事は、急ぎ足で公爵の個別の寝室に向かった。
彼の寝室の中には、エレインの介護をしているエレン夫人がベッドサイドの椅子に座っていた。
ベル執事がティーテーブルの上にあるコップに水を注ぎ、シュエル医院が渡した薬剤の粉を入れてエレン夫人に渡した。
ちょうどティースプーンもテーブルの上に置かれていたのでティースプーンも一緒に渡した。
「飲ませてごらん。これが解毒剤なんだ」
「はい、ベル執事さん。一度飲ませてみます」
エレン夫人はティースプーンでカップの中の解毒剤を気を付けながらすくい、エレインの口元に持っていった。
(たらたら)
残念ながら、固いエレインの口に薬はちゃんと入らなかった。
それで今度は無理にエレインの口を開けて薬を流し込もうとしたが、堅く閉ざされたようなエレインの口をうまく開くことができなかった。
いつの間にか、解毒剤のコップの半分がエレインの枕カバーに浸された。
ハエリス公爵はその様子をこわばった表情でじっと見ていた。
寝室にかかっている壁掛け時計を見ると、時針と分針が午前10時15分過ぎたばかりのようだった。
ハエリス公爵は、しばらく別の考えにふけっていたが、エレインを起こして座らせてみようと話すのを聞いて、自分の考えから抜け出した。
ベル執事が横になっているエレインの腕を彼の首に巻こうとする時だった。
その瞬間いきなりハエリス公爵がベル執事を制止して言った。
「その薬は俺が飲ませておこう」
「はい?」
ベル執事はとても不思議そうな顔でハエリス公爵の言葉に聞き返した。
「二人とも私の寝室から出て行ってほしい」
ベル執事とエレン夫人はお互い、困惑した表情でハエリス公爵をじっと見つめた。
何故ハエリス公爵がエレインに解毒剤を飲ませることができるのか疑問に思ったが、何の返事もせず彼らは公爵の部屋を抜け出た。
ハエリス公爵はしばらく落ち着かない表情で、横になってぐっすり寝ているメイドであるエレインの顔をじっと見た。
熱の花が咲いている様子だったが、彼女の顔に開いた熱の花は見苦しいという気はしなかった。
むしろ、自分のベッドにぐっすり眠るエレインの姿が、妙に色情的に感じられた。
彼は自分の部屋を何度もぐるぐる歩き回った。
しかし解毒剤は必ず飲ませなければならないので、沢山悩んだ末、仕方なく解毒剤の入った水カップを自分の口の中に入れた。
彼は解毒剤の水を口の中に含んで、自分のベッドに横たわるエレインの顔をじっと見つめた。
彼女は、自分にこれから起こること(?)も夢にも見ず静かに眠っていた。
ハエリス公爵は、彼女の唇にそっと自分の唇を当てた。
そして、自分の舌を彼女の唇に入れて慎重に歯を広げた。
エレインは自分の口に何か入ってくるのが嫌らしく、今回も激しく抵抗した。
彼女の舌は、ハエリス公爵の舌を口の外に強く押し出そうとした。
しかし、ハエリス公爵は、そうすればするほど彼女の舌を彼の舌で覆った。
絶対負けるわけにはいかないというように、彼女の口の中に解毒剤の混ざった水を喉へ渡した。
彼と彼女はお互いそうやって押したり引いたりした。
解毒剤が彼女の喉元に入ってしばらく経っていたが、ハエリス公爵は彼女との口づけを止めることができなかった。
エレインの唇はまるでハチミツのように甘く、彼の舌遣いは次第に濃密になっていった。
そしてふと、こうしてはいけないと思い、エレインの唇から彼の唇を急いで離した。
「はぁ…、可笑しくなりそうだ」
ハエリス公爵のハンサムな眉間が深くしわくちゃになった。
逆にうんうんと弱音を吐きながら横になっているエレインの顔はいっそう楽な表情になった。




