第12話 グレース皇子の中毒(3)
私は頭を上げて、心配そうな表情と好奇心に満ちた瞳で見つめてくる子供たちを見回した。
子供たちの顔にそれぞれ疲れた様子がありありだった。
私はベスの柔らかな手をしっかり握って再び安心させようと穏やかな微笑みを見せながら言った。
「ベス、心配しないで。そして必ず助けてあげるから。少しだけ我慢して待っててね」
ベスは私を見つめた後、頷きながら明るい笑みを浮かべた。
恐らく必ず助けてくれるという私の言葉がとても嬉しいようだった。
「いいですよ!お姉さん! 必ず助けてくださいね」
「勿論!ところで、村の伝染病が回る前に村の大人たちがとあるものを一緒に食べたり飲んだりしたことはなかったかな?」
『うーん…、一緒に食べたり飲んだりするのですか?」
ベスは何かを夢中になって考えてから、急に何か思い出したのか私を見つめながら口を開いた。
「お姉さん!うちの町では毎年グレープのお祭りが開かれます。ぶどう祭りです。昨年収穫したワインで一年の農業をする前にグレープの神様へと宴会を開くんですよ。その祭りを上手く終わらせると、一年の農業が上手くいくというのがうちの村の伝統です。私たちの村の人々は祭りの日、一緒に集まって皆で食べて飲みます。ワインはとても高価で貴重なお酒ですからね。多分、今回開かれたグレープの祭の時に思う存分ワインを飲んだと思いますよ!」
「本当にありがとうね。ベス…」
私は、何度も子供の頭を撫でながら、古い小屋の外に出た。
「それでは、ゼペット医院だけ探せばいいのですか?」
騎士のウェルは私に尋ねると、私は首を振りながら話した。
「見つかったら、きっと助かるでしょう。でも、必ずしも探さなくてもいいと思います。勿論、これまでの町の事情を聞くために、ゼペット医院を訪ねなければなりませんけどね」
私の不明瞭な言葉に騎士たちは首をかしげた。
「あの…、騎士さん、一つお願いがあります。 ここに騎士のお二方が残ってこの子達をちょっと守ってくれますか?」
「はい?」
5人の騎士はとても不思議な目で私を見た。
「多分…、わたしを噛んだクリスという男の子が感染者のようです。しかし、クリスだけ分離すると、ここにいる子供たちがとても不安になると思うんです。幸い、まだ症状が現れる前なので、時間は少しあります。万が一のことに備えて、騎士のお二方は残って、子供たちを守って下さい」
やっと騎士たちは、クリスという男の子に噛まれた私の手の甲を見た。
「よろしくお願いします」
子供達と一緒に残された2人の騎士を除いて、私は騎士のウェルを含め3人の騎士と村へ向かった。
ベスが描いてくれた地図に沿って町に下り、ムロコ倉庫と言われているところを探してみた。
しかし、村の建物や路地はあまりにも似たり寄ったりで、ムロコ倉庫を探すのは絶対に容易なことではなかった。
騎士のウェルは私を見つめながら言った。
「どうしても見つからなければ先程の子供たちの所へ合流して、明日ゼペット医院に会うのがよいと思われます」
「いいえ、時間がありません。できればゼペット医院に会えたらいいなと思って探してみたんですが…、私たちにはこれ以上ぐずぐずする時間はないようですね。騎士さん、ちょっと村でワインをちょっと探してもらえませんか?昨年生産されたブドウで作ったワインが必要です」
「あ、はい。一度探してみます」
その時、村の奥の人通りの少ない路地で、黒い服を着た男たちが大きなバケツを持っているのが見えた。
一見しても怪しい彼らは、通り毎にそのバケツを置いていたが、なんだか香ばしい匂いが漂っているようだった。
⦅これは?油の匂いだ!⦆
「騎士さん、あの人たちを阻止しなければなりません!この村に火をつけるみたいです!」
私の言葉に3人の騎士たちがお互い目で合図してから、黒い鎧を着た騎士2人は黒い服を着た男たちに駆けつけた。
(キンキン、キィン)
間もなく、路地から激しい斬撃の殺伐とした音が聞こえてきた。
私はそばに残っている騎士のウェルと戦いを避けて、横町に急いで走った。
「ハア、ハア、誰だか分かりませんが、この村を燃やして尻尾を切ろうとしているようです、一刻を争います!必ずワインを探さなきゃいけません!」
私と騎士のウェルは、廃墟と化した村の家屋をぐるっと事細かに見回した。
外から見た時は気がつかなかったけど、家の中に入ってみるとみんな柱に縄できつく縛られていた。
人々は一目みても正常ではないように見えたけど、私たちが家に入っても認知できず、獣のように吠えた。
柱の下には人糞と尿がたまっていて、その臭いに鼻が曲がりそうだった。
もっと近くて見てみると、誰かが彼らに食事と水をやりながら世話をしたような形跡があった。
恐らく、子どもたちの言うゼペット医院がしたようだった。
家ごとに歩き回ってみるとすでに息が切れた人もいたけど、大半がまだ生きていた。
私の判断ではこれは、絶対伝染病などではなかった。
誰かが毒という方法で、あくどい心で毒という策略を巡らせたのだ。
伝染病でもないのに生きたまま燃やそうとするなんて、誰か分からないけど彼らの悪徳な手口に自ずと身を震わせた。
「ウェル騎士さん、ワインは見つかりましたか?」
「いいえ、ワインは貴重なお酒なので貴族邸でもない、このような民家には一本もありません。祭りでこそ味わえるお酒だから、多分その祭りの時に全部飲んでしまったのでしょう」
その時、村の路地の入り口から煙が立ち昇った。
春の乾燥により火が燃え移れば、村全体を燃やし尽くすこともできた。
私は急いでさっき見たの村の井戸の方へ駆けつけた。
「エレインお嬢さん!」
「早く行って火を消さなきゃいけません!」
「いけません。まず、お嬢さんの安全が第一です。お嬢さんの安全が第一だというハエリス公爵閣下の命令がありました」
「だからといって、生きたまま人々が焼死するのを黙って見ているわけにはいきません。これは伝染病ではありません。この村の人々は皆毒に侵された患者なんです!」
私はさっき見ておいた村の井戸の方へ速く走って行って、水を汲んで水桶を両手に持った。
騎士のウェルも仕方なく近くの井戸に走って行き、3、4本の水桶を持ってきた。
私たちは激しく燃える炎の中に飛び込んだ。
やはりハエリス公爵家の騎士は実力が悪くなかったようで、幸いここ以外に炎が上がった所はなかった。
村に濃い黒煙が広がると、家に隠れていた数十人の人が火を見るやいなや飛び出して、私たちと一緒に火を消した。
幸い彼らはまだ中毒が発現していない人たちだった。
(ごほんごほん)
家屋3軒を燃やして火を消すことができた。
濃い黒煙が空高く立ち昇って虚空に薄く消えていた。
「よそ者のようですが、助けてくださって本当にありがとうございました」
縮れた白髪の老人が出てきて、騎士のウェルに丁寧に挨拶をした。
「もしかしてゼペット医院さんですか?」
「あれ、どうして僕のことを知っているのですか?」
「はい、挨拶が遅くなりました。私はハエリス公爵家で働いているエレインと申します。私から見るにこの村の人たちはすでに中毒に侵されているようですけど、いくつかお聞きしてもいいですか?」
「中毒」という言葉に、ゼペット医院が2つの瞳が怒りで燃えたようだった。
「お嬢さん!中毒とおっしゃいましたか?」
「はい。私が考えるには中毒症状だと思っています。この村にはグレープの祭りがあったと聞きました。いつ祭りがあったんですか?」
ゼペット医院が日にちを計算して深刻な表情で私を見つめながら口を開いた。
「多分祭りから3週間ぐらい経ったようですね。今週に入ると4週目になります」
「私がよく調べてみると、この村の井戸水にベルーサという草が溶けていました。井戸の下をよく探してみると、ベルーサの根が見つかります。ご存知だと思いますが、ベルーサは毒草です。必ず除去して、3ヶ月間は井戸を飲み水として使用してはいけません。その間は雨水を使用したり、流れる小川を利用しても良いです。そして、この村の土地も汚染されているようです。ペーイルロシン、カルタ、アルチンなど大量の毒が色々混ざっていました。幸いにも多量ではありませんでした。村の耕作地を掘ってみると、毒草が埋まっているはずです。必ず除去して3ヶ月間は土地を使用してはいけません。一つの作物だけを食べるときは大丈夫ですが、色んな作物を混ぜて食べると毒の作用が極大化されます」
ゼペット医院は驚いた表情で私を見つめた。
「なんと!一体誰がこんなひどいことを…!」
「幸いにも全て極微量だったため、この汚染は村の方々に大きな影響を及ぼさなかったはずです。おそらく毒を強力にさせた触媒剤があったはずなんですよ。昨年生産した村のワインはありますか?」
ゼペット医院は後ろを向いて、まだ健康そうな村人たちのところに駆けつけた。
彼は村人に手振りを見せながら色々な話を説明しているようだった。
話は全部終わったのか、ゼペット医院が私に近づいた。
「お嬢さん、僕について来てください。ちょうどワインが残っている所がありました。僕がご案内します」
「はい!」
私は騎士のウェルと、戦いを終えたばかりで合流した2人の暗室騎士たちと共にゼペット医院の後をついて行った。
付いて行った所は、小さな村でも断然目立つ古風な青色の屋根が印象的な大邸宅だった。
「ここはボンタス男爵の個人別荘です。さあ、こちらへどうぞ」
私と騎士たちはゼペット医院に従ってボンタス男爵の別荘に乗り込んだ。
いつの間にか日が沈んで、家の中に入ってみると前が全く見えないほどに薄暗かった。
(カチッ)
ゼペット医院が先に持ってきた燭台をつけたら、屋敷の中が少し明るくなった。
とても良く管理されている家具にほこりだけが少し積もっており、家の内部は問題なく見えた。
「さあ、ここにあります。お嬢さん」
ゼペット医院は邸内の厨房をくまなく探し回り、幸い倉庫でワインを見つけることができた。
彼は厨房でワイングラスを取って、私が座っていたソファーの前のテーブルにワインとワイングラスを下ろした。
華やかな金箔が付いているワインボトルはコルク栓で密閉されていた。
「僕が開けましょう」
騎士のウェルは彼のよろいのポケットから小さなナイフを取り出し、熟練した腕前でワインのコルク栓を抜いた。
(ちょろちょろ…)
赤色のワインがまばゆい光を放ってワイングラスに入れられた。
「騎士さん、ペンと紙をお持ちですか?」
私の質問に騎士の1人が、ふところから紙とペンを取り出して私に渡した。
(カチ、カチ)
別荘のリビングにかかっている壁掛け時計の秒針が特に大きく鳴り響いているようだった。
私は慎重にワインの香りをかいで、一口含んだ後、飲み込まずに吐き出した。そして、ワインの瓶とついさっき取ったコルク栓を持ち上げて触って、匂いをかいでみた。
「中毒の原因はこのコルク栓でした。プレンストがコルク栓の内側に濃く塗られていますね。プレンスト作用は幻覚、興奮、覚醒など、ルーカス花粉に似た効能です。でもルースセンの花粉がヤル薬の種類なら、このプレンストは人の命を奪うことができる猛毒の触媒剤なんですよ。ルーカスの花より値段が数百倍も安く、インクの主原料なので手がかりを見つけるのは大変だと思います。誰かが大量にプレンストを買ってあげたとしても疑われませんね」
突然私は全身が燃えるような痛みを感じた。
次第に私の体や手の甲、首元から赤い斑点が出てきた。
「エレインお嬢さん!お嬢さんの体が!」
騎士のウェルがびっくりして横に倒れそうな私を支えようとした。
切羽詰って彼を制止した私は、震えてる手でペンを持ち、紙に解約剤を書き始めた。
[パルナの草10g、ストゥート2/3、きくらげ15g、三角ヒトデ5g、ヒャンセン2g、メンドラメン1g(1人あたり)]
「騎士さん…、ここにあります。書かれた通りにグレース皇子様に捧げれば…いいです。よろしくお願いします」
私はやっと握っていたペンの手をそろりと緩めると、ペンが「こつん」という音を立てて床に落ちた。
世界中が、まるでアトラクションに乗っているようにぐるぐる回るようだった。
全身が燃えるような痛みの中で、私はそのまま床に倒れて気を失った。




