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その公爵様とメイドの事情  作者: ロマンスメーカー
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第1-2話 目覚めたら私が書いた小説に憑依していた!

挿絵(By みてみん)


「エレイン!今日はこれだけ終わったら休めるよ!」


赤いツインテールのそばかすが可愛らしいヘレンが、白い洗濯物を物干し竿に干しながら言った。

私は洗濯物を空中にバタバタとはたいて嬉しそうに笑った。


「もうすぐ食事の時間だよね。今日はアヤンカおばさんがマッシュルームスープを作ってくれそうだけど?」


「さすが犬鼻のエレイン!アヤンカおばさんが作ってくれるマッシュルームスープはいつ飲んでもすごくおいしいよね!あ、そうだ!もうすぐベリーナの誕生日だよね? エレインは何を用意するつもりなの?」


「さあ!ベリーナは何が好きかな?」


「去年は私が直接刺繍もしてメイド服を作ってあげたんだけど すごく喜んでたよ!」


「本当?ヘレンは才能があってうらやましいよ!私も作って」


「いいよ!もうそろそろ片付けて食事しに食堂へ行こう!」


「うん!」


私たちは暖かい日差しに洗濯物を干して、ハエリス公爵家の使用人たちが使う食堂に向かった。

いつのまにかこの世界に来てから8年目。

本当にあり得ないことだったが、私は憑依していた。

それも助演時代に暇つぶしで書いていた自分の小説に!

未完成の私の小説の、主演でも脇役でもない小説に出てすらいないエキストラ100番目ぐらいの人物であるハエリス公爵家の『メイド·エレイン』に憑依した時はとても衝撃的だった。

しかし、私はもう第二の人生を愛しすぎている。

ありふれた憑依物小説に登場する高い位の貴族の嬰児や貴婦人ではなかったが、生まれて初めて親に振り回される人生ではなく、自分の人生を生きることのできるこの人生が、毎日が神の贈り物に感じられた。

恐らく私が直接設計したこの世界に住むようになって、この人生は特別なのかも知れない。

勿論私は一介のメイドに過ぎないけど、私が創造した人物を遠くから見守る喜びがあるというか。

この世界は創作者である私の影響を受け、主人公の父親がクズだった。

主人公のハエリス公爵はベイリオ皇国の第5皇子だけど、ハエリス公爵が7歳の時小説の中のもう一人のヴィラン、皇妃である母レインネがジェイラル皇后の謀略で毒殺に遭い死亡した。

そしてベイリオ皇国の辺境伯だった母方のベイク伯爵の勢力を大きく警戒した皇帝は、レインネ皇妃の死を陰謀として抗議するベイク伯爵を、むしろ反謀の冤罪を着せ追い込み、ベイク家を没落させた。

だから確実に主人公の父がゴミなわけだ。

可哀そうな我がハエリス公爵は、7歳の時から母もなく心強い母方もない孤立無援の皇子に育つこととなった。

なので暖かい彼の元の性格は、不遇な環境を乗り切って次第に「冷たい都心の男」というか?「冷血男」となった。

母であるレインネ皇妃が亡くなった後、ゲリマン皇帝の9人の皇子のうち支持基盤が最も弱かった。

しかし25歳の今は天才的な知略と政治力で皇太子カルロスと皇位継承を争う、まさに「脳がセクシーな男」になる。

皇太子カルロスは残忍な皇帝皇后夫婦から生まれたとは思えないほど穏やかで善良な人柄の持ち主だけど、それほど皇位にも大きな欲がない人物だ。

華麗なベイリオ皇国の皇太子宮で住んでるより、自由な庶民の生活に憧れてる純粋で自由な魂の人だった。

実は私はこの小説で、サブキャラクターのカルロスが一番好きだった。

でもジェイラル皇后の罪のせいで、彼はハエリス公爵の最大の宿敵だった。

運命のいたずらなのか、この2人の兄弟の前にヒロインの侯爵家であるバルタン家のセレナが現れ、巨大な運命の歯車が乱れることになるが…。

私はちょうど最初の部分だけを書き残して前世で死んだので、その次の内容が分からない。

どうして急に私の目が潤むのかしら?しかも私が憑依した12歳から8年間、この全ての内容が通り過ぎていてそれこそ後の内容が全く分からないのだ。

だから憑依しても創作者のアドバンテージが一つもない人生なのだ。

しかし、私は新しい人生を生きることができるこの人生にもう一度感謝した。

両親に担保に入れられた人生という足枷から解かれ、汗を流して働いた後に食べるこのシチューとパンが、こんなにもおいしいということを知れて良かったと思える。


「あ、そうだ!15日後はハエリス邸で舞踏会が開かれる番だよね? 」


もぐもぐ食べていたパンを飲み込んだヘレンが、オレンジジュースをごくんと飲み干しながら言った。


「うん、そうでなくても最近はそれのせいで精神がすり減ってるんだ。それでも私たちの仕事は雑事だから何日か体で苦労するだけでいいけど、ベル執事様は白髪の方が増えてるみたいだよ。今回は皇太子殿下もご出席だそうですよ!!たぶんセレナお嬢様がいらっしゃる影響だろうね」


「うん、そうだろうね!セレナお嬢様は公爵閣下の親しいご友人なので当然参加されるだろうし、皇太子殿下もいらっしゃるだろうね」


「それが最近社交界の話題なんだって!すごく羨ましい。セレナお嬢様は2人の皇子様から愛されて、どんなに喜ばしいだろうね?貧しい人々のために無料給食所も開いて、優れた医術で病気の人達を治してあげてるしね!それに美しいし、嫌いになる人は一人もいないでしょうね。鋼鉄のような心情を持っている私達の公爵閣下も揺いでしまうでしょうね」


私が設定したんだけど、ヒロインのセレナは本当に男でも女でも惚れるようなキャラクターだと思った。

高貴な聖女のイメージというか。元々は聖女キャラクターでいこうとしたが、二人の皇子とギリギリの恋愛をするには何だか職業倫理上なさそうで、「貴族の女」に設定した。

主人公ハエリスが、皇后の送った暗殺者により大怪我をして逃げていた時にセレナに会い、命拾いをし、それ以来小さな縁が続き今は男友達、女友達の関係に。

そしてカルロス皇太子とセレナは、潜行中に偶然に会った仲だった。

カルロス皇太子が無料給食所で彼女の善行を補助することになり、より親しいい関係の男友達、女友達関係になった。

まあ、ありふれた小説の中の三角関係の設定だったけど私が前世で恋愛をしたことがないため、ギリギリの関係を文章でどう表現すればいいか悩んだ末、諦めていた。

キスも一度もしたことがなかったから、どんな感じか書くことができなかったからだ。

私が前世で主に演じていた役は、主人公の友達1、2、3か悪役なので、悲しくも彼氏どころか、男優ともそんなことをしてみたことがない。


(たっ)


私はなぜか食欲が落ちて私が好きなマッシュルームスープを食べることができなくなった。

それで大まかに食事を終えた後、テーブルの上にスプーンを置いた。

この世界に来て20歳になるまで、告白されなかったわけではない。

10本の指を超えてるしかなり告白された方だと思う。

しかし、私が一番好きなキャラクター達は小説でどんな描写でも表現できないイケメン達なので(じゅるる…)私の理想型の基準があまりにも高かった。

それで前世から現世まで恋愛を一度もしたことのない、ヘタレ、妖精、魔術師がまさに私だった。


「エレイン。食事の後は何をするの?」


「うーん…、ベリーナの誕生日プレゼントを選びに市内に行くと思うよ! ヘレンも一緒に行く?」


「いや…。ごめん!私は時間が合わないかも! 」


「ヘレン~、ジェイクさんに会いに馬場に行くんでしょ?」


「い、いや…!ヒック、違うよ」


ツインテールにした髪を揺らしながら顔が赤くなったヘレンは、照れくさそうな笑みを浮かべて手を振っていた。


((本当にうらやましいな。そう、 一番良い時だもんね…!))


私は苦々しい笑みを浮かべながらトレーを持って立ち上がった。

今日、美味しくシチューを作ってくれたアヤンカおばさんに挨拶をして、陽気にお尻をフリフリ揺らしているヘレンと別れて市内に向かった。




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