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1-4 再会

恒星暦569年7月5日

惑星メダリア 旧メダリア市内高級ホテル


 自治政府が消滅してから1年半近くが経ち、旧メダリア市の人々は、徐々に自分達が行った賭けの結果を受け入れていた。

 もちろん、受け入れられない人々もいる。彼らは、カンパの強制という名前の私的な徴税を行い、反連邦活動を継続していた。

 住民の多くは、カンパの強制を強いる反連邦活動家に良い思いを持っていなかったが、その思いを伝える相手を持ち合わせていなかった。

 結果、旧メダリア市は微妙な空気に包まれていた。


「やあ。」

 夕食を取るため寄った高級ホテルで一年半ぶりに会ったのは、かつて少佐と呼ばれていた黒髪の女性だった。相変わらずの髪型、相変わらずの外見。あの時27歳と言っていたから、29か28だ。抗年齢措置をしっかりしているらしく、抗年齢措置を怠っているケンタと同い年といわれても分からない。

 もし独立闘争のような馬鹿げた事態がなければ今頃中佐殿だろう。

 ケンタは、かつての機動歩兵としての視点ではなく、憲兵としての視点でヤンセン、と言う名前の女性に紫色の瞳を向けた。

 服装は、というと一年半前の軍服姿と違い、私服だった。見たところ、良い生地を使っており、デザインも悪くはない。スタイルの良さが分かる高価な服装をしていた。

「お久しぶりです。どなたかと待ち合わせですか。」 

 前歯を軽くあわせて唇を閉じたまま笑顔を作り、応じる。

 だが、内心では警戒レベルが一気に上昇していく。

 自分が望んでこの煉獄に赴任することを望んだとはいえ、外に出たときに常に何かに気をつけなければならいのには困ったものだった。

 政府全体で意思決定をしているというのに旧自治政府の関係者は自分に取り入れば自治回復が早まると勘違いしているし、テロリストどもは先の独立闘争で一番目だった自分を目の敵にしている。

「いや、ちょっと食事を取りにね。君もかい?」

 服装を見たところ、高級コールガールかそれに類するようなものではないような気がするが、占領下の旧メダリア市では何でも起こりえた。かつての自治政府高官の娘がコールガールとして出入りしているバーはこのホテル地下にあるはずだった。

 声をかけられた時点で戦術情報表示装置に内蔵されたカメラが励起しヤンセンを記録し、憲兵隊と保安省が共有する治安データーベースに自動的にアクセスをする。

 連邦関係者へのテロ行為に対応するため、連邦は単純な対応を取っていた。戦術情報表示装置を装着している職員は、衛星測位システムと連動して個々人の居場所が特定できる。この職員の近くにいる人間を全て監視し、その人間の外見、声、近くにセンサーがあるなら体重や爆発物のにおいといった記録を治安データベースと付き合わせる。黒または黒に近い灰色である場合、連邦保安省のメダリア駐在対テロチームに情報が流され、対応が取られる。爆発物特有の物質がセンサーで感じられた場合、速やかに退避の指示が発せられる。

 もちろん、ターゲットにされた人間の職責に応じて対応は変わる。単なる兵士や下士官であれば特殊戦仕様のビショップやメーテルとなるし、高等弁務官や軍の高級軍人であればビショップやメーテル達がダース単位で動員され、さらに人間も出張ることになる。

 ケンタの場合は微妙だった。憲兵中尉という地位もそうだが、連邦軍の高級士官の孫、高等弁務官の配偶者の孫、大叔父に連邦軍の高級士官がいる、その他色々フラグが立ちすぎている。

 このため、佐官級の軍人並みの警護体制がひかれていた。

 無駄にはなっていない。実際この2ヶ月で3回ほどケンタを狙ったテロが計画されたが、いずれも適切に対処され、反連邦活動家達の血圧を上げていた。

「ええ。給料がでましたからね。」

 現地通貨ではなく、連邦政府通貨により連邦軍人には給与が支払われるため、この惑星では軍人は良いお客さんだった。

「奥さんと待ち合わせかい?」

 そうだった、この人は自分がかつて結婚していたことを知っている。だが、結婚が無効になったことは耳にはしていないようだった。

「いいえ、今は私は結婚していないんです。」

 その言葉を発したとき、少し胸が痛くなった。彼女は記憶消去処理をされているかもしれない。だが、自分はサトコと結婚してもいいと考えていた。だから、どさくさに紛れて婚姻届を提出して貰っていたはずだった。ところが戦後の意味不明な処理により無効となっている。

 いや、理由は分かっている。理屈も分かっている。それをした方が彼女にとって良かったとも分かっている。ただ、理解はできても、時を経るごとに納得しきれない部分が多々できてきた。

「それは失礼なことを。」

 きっと、こちらが婚姻生活を継続できないような変質者か性格異常者とでも思っているのだろうな、でも違うんだけどね。そう思いつつも笑みを張り付かせたまま、ケンタはこたえた。

「まあ、離ればなれになれば心はすれ違うよね。」

 ケンタは、目を細め、奥歯を噛みしめながら、意識して口角をあげた。きっと笑っているように見えるはずだ。

「…ああ、すまない。」

 そろそろ、治安データーベースからの回答が届く頃だった。中尉という下級士官ではあるが、憲兵という兵科から、データベースの回答を閲覧することができる。

 画像や声紋判断の結果指名手配者や注意喚起対象にヒットしない。黒や濃い灰色ではないようだった。

「ああそうだ、少佐殿。」

「もう、少佐じゃないよ。」

 ヤンセン元少佐が寂しそうな表情を浮かべる。

「それは失礼しました。もしよろしければ、食事を一緒に取ってはいただけませんか?」

 指を自然に動かす風にデータベースに二次照会をかける。

 目の前の女性がコールガールやそれに類するものではないか、犯罪組織に関与している人物ではないか。

 今回も照会結果はすぐに届いた。

 コールガールである可能性は低い。

 犯罪組織に関わる情報は無い。

 サトコちゃん一筋でいるつもりだったけど、返事をしない女神像に恋するよりは、歳上でも返事をしてくれる女性だよね。

 自分を納得させるための理屈を立てると 自分でもどうしてこのようなことを口にしたのか分からないまま、ケンタはヤンセンを食事に誘った。

「ご承知の通り、今は一人ですからね。あなたのような美しい女性が誰とも食事をする予定が無いのであれば、一緒に食事をする栄誉をいただければ、と。」

 ヤンセンさんが目を少し見開く。

「良いのか?」

 何を言っているのだろう、反連邦勢力にこの女性は加担しているのか?

「もちろんです。」

 仕事以外の会食は何時ぶりだろう、もちろん祖父夫婦以外とだけど。

 ヤンセン元少佐の腕を取るとケンタはレストランの入り口を通り過ぎた。


 …そういえば、この人のファーストネームすら知らないな。ヤンセンさん、貴女の名は?

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