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プロローグ 動物記の始まり

ある村に、それはそれは可愛らしい少女が暮らしていた。青い瞳に金色の髪という、大して珍しくもない色合いをしていたが、幼くもその美貌は村人の目を引いた。


 しかし、成人を間近に控えた頃、彼女は死ぬこととなる。その年、十四。彼女は一度も大人になることなくその一生を終えたのである……。


 ーーーーーー


 そして、その少女の火葬の日がやってきた。


『いぃやぁああああーっ!?!? わだっ、私のからだあーーっ!!』

 少女はズビーと鼻水を啜って、それからまた悲鳴をあげた。


 ぱちぱちと火の爆ぜる音がし、焦げ臭い匂いが辺りに充満する。


 当然その火の中心にあるのは、少女の体。しかし、彼女の精神は幽霊となって未だ健在である。


 何故かはまだ誰も知らない。もちろん、この少女本人さえも。


(いや、本当になんで生きてるの?)

 別に生きているとは言い難い状態なのだが、少女は細かいことは気にしない主義だった。幽霊だろうがなんだろうが生きているものは生きているのだ。


 少女は自分にそう言い聞かせた。


 その時、大きな音を立てて火がいっそう大きく燃え上がった。その火の中にある少女の死体がどうなったかはもう明らかだ。


『やめぇーーっ!!』

 少女、ノノイはだだと滝のような涙を流しながら縋るように自分の両親を見た。どうかこの火葬を止めてくれ、と。


 だがもちろん、いつまで経っても彼らが自分たちの愛しい幽霊(むすめ)に気がつく兆しはない。


「ああ、ノノイ、どうして……」

 目の前で飛び跳ねて見せても、両親はワナワナと唇を震わせてただ悲しむばかりである。


 それを見てノノイもまた複雑な気分になった。


 が、あまりに無視されるのでだんだんと怒りが込み上げてきた。


『……。もうっ!! 怒った! 気づいてよ! ……ねえ!? おかーさーんっっ!!』


 幽霊として両親に絡みはじめてから既にかなりの時が立っていたが、ノノイは飽きることなく喚き続ける。


「おい、母さん、燃えるの、遅くないか?」

「……ええ。それは私も気になっていたわ。まさか、、」

 ノノイの父と母は涙目で首を傾げた。ノノイの肉はほとんど焼け落ちていたものの、その骨だけは未だ白く、赤い火をきらりと反射していた。


 朽ちにくい体、それは強力な魔法を扱う才能を持つものに共通して存在する特徴だ。魔力を無意識のうちに体に通すことで、肉体が魔に特化したものへと変質してしまうのだ。


 ノノイの遺骨がなかなか燃えないのも、これが原因なのだろうか。


「もし生きていたら、すごい魔法使いになっていたのかもしれないのね……」

「ああ……」

 夫婦揃って顔を見合わせ、抱き合っておいおいと泣き出した。


『…………。』

 ノノイは娘がいない(と思っている)両親の仲睦まじい様子に少々引いたが、自分にはどうやら魔の才があるらしいと分かり、驚いて自分の両手を見下ろした。体はすっかり透き通ってしまって、掌越しにも地面の草がはっきりと見えた。


(もしかして、私が幽霊になってることと何か関係があるとか?)


 魔法というと火や水を出すようなものが一般的で、誰かが使っているのも見たことがあるが。


『幽霊になる魔法……?』

 御伽噺の話だが、魔法で空を飛んだ者を、天候を変えたものを、不老不死になったものを知っている。


『うーん。わからない! 未練もないけど、好き勝手できるのならそうさせてもらうわ! これって誰に悪さしてもバレないってことよね! だったら一通り悪いことしてもいいわよね! ねっ! 父さん!』

 あい変わらず返事はないが、ノノイはめげない。


(そうよ、生きてさえいればまだ希望はある! どこかに私が見える人も居るはずよ!)


 当たり前のことだが、ノノイは幽霊なので何にも触ることはできない。悪いことなど、しようが無いのだ。


 それでも、ばかなノノイは全く気がつかない。


 ただ一人大声で笑いながら、悪戯の標的を探しに行った。




ーーーーーー





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