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8話 未来視の巫女レイナ

 俺は北岸で体験した出来事を順に説明した。


 話し終えると、周囲がザワついた。みんなこの話、特に精霊魔法が鬼人衆たちに通じなかったことについて驚いているようだ。


「精霊魔法が通じない、常人を越えた武術の持ち主たちか」


 王は逡巡するように顎を撫でた。


「その転生鬼人衆とやらが何人で構成されているのか――」

「9名です」


 俺は即座に答えた。


「なぜ断言できる? お前はヤツらの姿形さえ把握しておらんのだろうが」


 王の疑問は当然だ。


 その答えを示す為に俺は夢で観た儀式のことを話した。この際隠す必要もない。できるだけ早く行動しないと手遅れになるからな。ただし、自分が前世の記憶を取り戻したことだけは事態をややこしくするだけなので省かせてもらった。


 話し終えると、先程よりもザワめきは大きなモノとなった。


 誰もが周りのモノと口ぐちに囁き合っている。そんな中で俺に声を掛けてきたのはルクセトだ。


「待ってくれ、アルセル。その話を聞いていると、まるでお前が未来視をしているようじゃないか?」


「そうだよ。そんな芸当ができるのは未来視の巫女だけだ」


 言葉を継いだのはトゥーアだ。


 やはりそう簡単には信じてもらえないようだ。しかし、現実に鬼人衆が襲撃して来たのだ。単なる夢とは割り切れない。


「ふむ、巫女なぁ……」


 王は息子たちの意見に頷き、柱の奥に目を向けた。


「レイナ! 出て来なさい」


「はい」


 王がそう呼びかけると、柱の陰から一人の美少女が歩み寄ってきた。


 長い黒髪に深い海のような蒼い眼が特徴的だ。


「アルセルは初めて会うのだったな。彼女は新たな未来視の巫女のレイナだ」


 レイナは俺に向き直り会釈した。


「レイナ・レシフォールと申します。母に代わり、巫女の役目を務めさせて頂いております」


 漆黒のローブを身に纏ったその姿は巫女というよりも魔女のようだ。


「してレイナよ、今アルセルが話したような内容を観たことがあるか?」


 王がレイナに尋ねた。

 未来視の巫女とは、その名の通り未来を観る力を持つ。

 この力はレシフォール家の娘たちが代々発現しており、精霊魔法が使用され始めた頃からアルタイア王国の発展に貢献していた。


 その古からの力を受け継ぐレイナは王の質問にためらいがちに首を振って否定した。


「いえ、私はそのような未来を観たことはありません」


 彼女がそう答えると、周りの人々はまたまたザワついた。

 ここではレイナの意見が尊重されているようだ。


「ふむ、巫女が見ていないとなると、信憑性には欠けるな。さて、どう動こうか……」


 大臣たちが口ぐちに意見を交わし合っている。


「まずはバナへイル王国に調査を――」


「しかし、余計な混乱を招く恐れも――」


 兄たちの方を見れば、トゥーアは困り果てた顔を、ルクセトは何か思案している様子だ。


 こうやって人の意見を待つのは俺らしくない。そうとも、いつも通り俺は俺で好きにさせてもらう。ただし、最低限国のバックアップも必要だ。


「バナへイルには既に俺の部下を送ってあります。ただ、そちらでも現地の者たちに内密な調査をさせるべきです。義眼の魔術師がバナへイル王国を隠れ蓑にしているだけなのか、それとも王国が主導しているのかハッキリさせなければなりません」


 俺は他の者たちに負けないように声を張り上げた。


「沿岸部、及び各国境の警備の強化。航路も抑えておくべきです。それと、北のバナへイルだけではなく、海賊が支配する西の【海の眼群島】、東の【亜人の国】、そして南の【サーブルム王国】にも偵察を向かわせましょう。転生鬼人衆がどんな策を仕掛けてくるかわかりません。国が包囲されることは避けなければ」


 一気に捲し立てると、みな呆然と俺のことを見つめていた。


「一体どうしたんだいアルセル?」


 ルクセトが信じられないとばかりに首を傾げている。


「どうしたって……俺、何か変なこと言ったか?」


 とりあえず最低限の対策を提案したつもりだったのだが。はて?


「いや、言っていることは至極真っ当だと思う。僕も同じことを考えていた」

「だったら――」


「つまり、あのアルがまともにモノを考えていることに驚いているのだな。今までのお前だったら考えなしに勝手に飛び出していたぜ」


 何の遠慮もなくハッキリと答えてくれたのはトゥーアだ。


 にしても酷い言い草ではないか。確かに凛也の記憶を取り戻す前は粗暴で傲慢な男だったと思うけど。


「まぁ、俺のことは置いといて。父上、ルクセトも同意してくれています。すぐにでも行動に移すべきです」


 俺の言葉に王は相槌を打った。


「よかろう。お前たちがそこまで言うのならば、偵察隊を送ることにする」


 それからすぐに各地への偵察部隊編成についての話し合いが開始された。


 どこを重点的に調べるか、現地で得た情報の集積法はどうするか、などをアルタイア軍の将軍を中心に取り決めていく。その話の合間に俺は強引に割り込んだ。


「俺が亜人の国に行こう」


「なっ」


 将軍は困惑した顔を俺から王へと向けた。


「アルセル、その怪我で亜人の国に行こうと言うのか?」


 将軍の意を汲み取った王が俺の負傷した左肩を指差す。


「いくらお前と言えど、それではまともに身を守れまい。ましてやほとんど交流のない亜人の国だ。危険すぎる」


 他の者たちも同意するように頷いている。


 確かに亜人の国は危険だ。ってか、まともな交流もないので情報がほとんどない。確かなことは「人とは別の種族たちが支配する国」というくらいだ。でも、だからこそ真っ先に偵察すべきだと俺は思う。


 彼らこそがアルタイアを囲む四勢力の内で敵に回すと最も厄介な連中だと確信している。


 この俺が直に乗り込んで調べなきゃ気が済まない。


「誰に反対されようが、俺は亜人の国に行きます。確かに左腕は動かないが、利き腕は無事だ。十分に戦えます」


 俺はその場の全員を睨みつけた。


 誰が俺を止められる?


 転生鬼人衆の連中のことを俺が一番理解している。父たちが信用していなくとも俺自身がソレを良く知っている。


「いいですね、父上?」


 王は溜め息を吐きながらヤレヤレと首を振った。


「何を言ってもお前は止められないのはよく理解しておるわ。好きにするといい。ただし、今すぐ出発するなどとは言わぬだろうな?」


「もちろんです。この後、精霊界に行くつもりですから」

「ふん。ならばその間、レイナに怪我を診てもらえ」

「わかりました。では、失礼」


 俺は軽く頭を下げて踵を返した。

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