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4話 大ウミヘビの強襲

 ――おかしい。どういうことだ?


 俺は何度目かわからない疑問を再び頭に浮かべた。


 既に日は沈み、空は暗黒に覆われている。しかし、地上のこの砂浜だけは明るい。周辺に多くの松明が設置されているからだ。


 その松明に、兵士たちの疲れ切った顔が照らされている。朝には数十人だった兵士が数百人に増えていた。その理由は波打ち際に横たわる大ウミヘビたちの死体が物語っている。


 最初の襲撃から一時間も経たない内に、今度は2体同時に現れたのだ。さらに3体目、4体目と大ウミヘビの襲撃は続いた。休む暇もない。近くの街からも応援を呼ばせた。それでも足りない。朝から今までずっと戦い通しであった。


 こんな状況は異常だ。


 大ウミヘビが1体この沿岸に紛れ込むだけでも珍しいことなのに、同じ日に何度も何度も襲撃してくるのはさすがにおかしい。なんらかの作為があるに違いない。


 しかし、それ以上に俺を悩ませている事がある。


 今朝、バナへイルに偵察に向かわせたラヴェンナがまだ戻って来ないのだ。距離的にも、既に戻って来て当たり前なはずだ。


 こうなるとラヴェンナだけではない。ランスの事も心配だ。引き留める為に俺が使いを出した時には既に船に乗ってしまっていたのだ。


「アルセル様」


 背後にはこの街の隊長が立っていた。中々にガタイの良い、頼りになりそうな男だった。


「王都には?」


「はい、連絡致しました。応援が向かっているとの事です」


「そうか……」


 これで良い。


 俺の配下の者たちも北岸地域を中心とした各街に向かわせた。ここ以外にも被害が出る可能性があるからだ。


「王子……」


 隊長が遠慮がちに声を掛けてきた。


「どうした?」


「いえ、あの、そろそろ王子も休まれた方が宜しいのでは?」


 確かに今日一日ずっとここで戦い続けていた。心配されるのも当然だ。


「いや、夜明けまでここにいるよ。どうせ休もうたって気になって眠れもしない。でも、ありがとう」


「は、はぁ」


 部隊長は目を丸くしている。


 おそらく俺が礼を述べた事に心底驚いているのだろう。傍若無人さが一夜にして収まっているのだから、その驚きもわかる。こりゃ、わざと傲慢な態度を取らないとニセモノだと疑われそうだな。


 俺は思わず笑みを浮かべてしまった。が、その笑みもすぐに真顔に戻された。


「来たぞー!!」


 どこかの兵士が叫び声を上げた。大ウミヘビが再び襲ってきたのだ。


 俺は波打ち際へと駆けだした。近くの兵士に声を掛ける。


「何体だ?」


「3体です!」


 その声と同時に暗い海に3つの水柱が立ち昇った。


「真ん中は俺が殺る。他は任せた!」


 真ん中の大ウミヘビへと向き直る。


「ヒスカ!」


 そう呼びかけると、青い眼と髪を持つ女が姿を現した。


 彼女が契約している精霊の最後の一体、水の精霊ヒスカだ。


「ヒスカ、第三界だ」

「……嫌です」

「は? おい、なに言っている――」


「昨夜は人間の女を抱いておりましたね。許されざる不貞行為です」


 ヒスカは冷めた調子でそう言う。

 その間にも大ウミヘビたちは迫ってくる。


「あー、わかった! 謝るし、埋め合わせはする! だから第三界!!」


「では――」


 ヒスカは満足下に微笑み、大ウミヘビへと向き直り、両手を海水に浸す。


水霊の操り水ウンディル・アクア≫!!


 海水に浸した両腕から波紋が生じ、触手状の水がいくつも飛び出した。その触手が大ウミヘビの胴や顔に巻き付き拘束する。


「このままこっちに引き倒せ」


 ヒスカの操る水の鞭によって大ウミヘビは砂浜に仰向けの格好で倒れ伏した。


 目の前にヤツの頭が来る。恨めしそうにその細い眼を俺に向けている。


「だったら最初から来るな」


 剣をヤツの眉間に突き刺す。ピクリと痙攣してそのまま動かなくなった。


 剣を引き抜き、周りを見れば、ちょうど他の2体も始末されているところだった。


 兵たちは疲れてもいるが、これだけの襲撃を経験して倒し方のコツを掴んでいるようだ。死傷者数も思ったより多くない。


 とりあえずは夜明けまで凌ぐ。王都の援軍が到着しだい、この大ウミヘビ異常発生の原因を突き止めてやる。


「王子、あれを!」


 近くにいた兵士が急に叫んだ。彼は前方の海、約80メートル先を指差している。そこには何やら青く揺らめくモノがポツンと浮かび上がっていた。まるで人魂のようだ。


「一体あれは――」


 手で制して兵士を黙らせる。


「ヒスカ、第二界」


 水の精霊にそう指示すると、彼女の両手が俺のこめかみに触れる。


水霊の覚ウンディリ・レース≫!!


 すると、それまで薄闇で見えていなかった船影が確認できるようになった。水の精霊の第二界は五感を鋭くさせる効果があるのだ。


 例の青い炎は船に取り付けられた松明なのだろう。その光の下に2人の人物が立っているのが見える。一方は小柄、もう一方は異常に大きい。ただ、二人ともフードを被っているので顔まではわからない。


 だが、この異常なプレッシャーは、もしや……?


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