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22話 風魔参戦

 ◆鬼人の刻◆


 風魔小太郎はエルフの木々を駆け抜けた。


 先発のスパルタカスたちが暴れてくれたお陰でコチラは楽に侵入できた。このまま大木の城まで進み、エルフ王たちを始末する。


 思えば、あの剣闘士が無理やり行動したのも正しかったのかもしれぬ。陽動役も買ってくれたわけだし、案外ヤツなりに頭を働かせたのか。


 となると、俺はまんまと乗せられたのか。


 思わず苦笑してしまう。


「止まれ」


 木々が途絶えたところで背後の獣人たちに合図する。


 彼の背後には何十という赤い獣人たちの眼が妖しく光っていた。


 小太郎は上空を見上げた。


 その視線の先には空を飛んでいるアルタイア兵がいる。


 全く信じられない話だった。道具などを一切使わずに人が空を自由自在に飛ぶなど。


 魔法という小太郎には得体の知れぬ力らしいが、その力が直接彼に行使されることはないと義眼の魔術師シャミハナは言っていた。


 彼からしたら、その言葉を信じるしかない。あんな妖術紛いの力でこられたら、いかに人並外れた体躯を待つ小太郎であろうと太刀打ちできないからだ。


 とにかく、ここであの兵士に見つかるわけにはいかない。


 小太郎たちは木々の中で息を潜めた。


 ところが、アルタイア兵は通り過ぎず、コチラの木々に視線を向けたままであった。さらに別の方向からも兵士がやって来る。


「ふん……」


 小太郎は顎を撫でた。


 奴らはコチラの存在に気付いているのか?


 もちろん、新手が来る事も警戒はしているのだろう。


 そういえば……


 小太郎はシャミハナから聞かされていたことを思い出した。


 確か精霊の魔法の中には感覚を鋭敏にするモノがあると言っていた。


 小太郎自身は問題ないが、後ろにいる獣どもの野蛮な吐息ばかりはどうにもできない。


 気取られているな……


 小太郎は赤いクナイに手を掛けた。


「やむを得まい。ここで始末する」


 兵士たちが木々に向かって下降してくる。


 小太郎は二人の獣人たちの太い腕に足を掛ける。彼らの怪力を利用して一気に跳躍するつもりだ。


 アルタイアの者どもは後数メートルという所で止まった。訝し気な顔をしている。


「今だ!」


 小太郎は跳躍し、反応の遅れたアルタイア兵の首を掻き切る。そして呆然としているもう一人に向かって別のクナイを放った。赤い閃光となったソレは兵士の首に突き刺さる。


「おや?」


 小太郎は目を剥いた。


 クナイを刺された兵士は尚も動いて、火の精霊を呼び出した。小太郎の魔法無効化領域の外にいたのである。


 彼は最後の力を振り絞って空に向かって火球を放った。


「なんという底力」


 小太郎は地面に着地しながら兵士の方を見やった。


 力尽きた彼に獣人たちが野犬のように喰らいつく。だが、遅い。既に他の者たちも気づいたことだろう。


「急ぐぞ」


 小太郎たちは大樹の城に向けて駆けだした。


 途中出くわすエルフたちは切り裂きながら進む。

 やっと大樹の根元に到着したところで無数の矢が頭を掠めた。


「む!」


 矢が飛んできた先、大きく地面から飛び出した根の上にエルフの姫君ユリアと兵士たちが立っていた。


 これは都合が良い。


 獲物の一人が自らこうして出てきてくれたのだ。


「弓矢が当たらないように攪乱しろ」


 獣人たちに指示を飛ばす。


 彼女たちの矢は脅威ではあった。しかし、獣人たちの驚異的な耐久力、敏捷性の前に苦戦しているようだ。小太郎はその影に隠れる形で、半ば気配を消し去ってユリアとの間合いを縮める。


 懐から鎖鎌を取り出して大きな根に飛び上がると、エルフ兵たちは慌てて剣を取り出す。だが、小太郎の鎖鎌によってあっさりと倒れ伏す。


「あなたも転生鬼人衆?」


 エルフの姫君が小太郎を睨み付けながら言った。あのアルタイアの王子が教えたのだろう。剣を構えた姿勢には隙が無かった。


「如何にも」


 小太郎は鎖鎌をユリアに向けて投げ放つ。ユリアは自らの長剣で受けとめたが、あっさりと折れてしまう。彼女の肩口から血が噴き出す。鎖鎌の刃はさらに深い赤色に変わっていた。


「姫!」


 兵士たちが2人の間に割って入ろうとするが、獣人たちがそうはさせない。


 小太郎は邪魔が入る前にユリアを切り捨てようとした。


 その時、上空から何かが落ちてきた。


 それを見咎めた小太郎は目を見張った。同じく見ていたユリアは素早い動きでその落下物を掴み取った。


 小太郎が鎖鎌を振るう。


 ユリアはその攻撃を落下物で受けとめた。が、衝撃で後ろに倒れこんだ。


「それは――」


 小太郎はユリアがコチラに構えているソレを凝視した。


 赤い刃の小剣。


 見間違いようがない、それはスパルタカスのモノであった。


 上で戦っているのか……


 相手はアルタイアの王子だろうか?


 だとしたら、彼が殺される前にスパルタカスを止めなくては。


 小太郎は鎖鎌を構えなおした。


 今度こそ仕留める。


 そうして一歩を踏み出した時、再び上から何かが落ちてきた。いや、誰かだ。


 ソチラに目を向けた小太郎は驚き、飛びのいた。


 派手な音を立てて彼は、いや、彼らは小太郎とユリアの間に落ちてきた。


 飛び散る根の欠片を手で防ぎながら見ると、男が2人落ちて来たらしい。1人は四肢を投げ出し、仰向けに倒れ伏している。打ちどころが悪かったらしい、瀕死状態である。


 もう1人も大怪我しているようだが、片膝を立ててコチラに烈火の眼を向けている。


 小太郎は戦闘状態であることも忘れてその光景に見入っていた。


 瀕死で倒れ伏している男は、これまで行動を共にしてきたスパルタカス。


 そして、コチラに敵意の視線を向けている男こそ、アルセル・アルタイアその人であった。


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