14話 エルフの森
俺たちは風の精霊の力を使って森の上を飛んだ。エルフたちも、最初は警戒していたが、風の力で飛ぶことに同意してくれた。
エルフたちと俺たち、それぞれ隠し事をしていたわけだが、今はとにかく無事にエルフの領地に辿り着くことを優先させた。
「これが妖霊の力なのね、中々面白いじゃない!」
足下を過ぎ去っていく緑の海を眺めながらユリアがはしゃぐ。
ついさっき命の危険に晒されたばかりだと言うのに、随分と楽天的だ。呆れると言うか、感心するというか。とにかく不思議な女性だ。
一方、機転を利かせて俺たちを救ってくれたレイナは怯えた視線を下に向けている。
「怖いのか?」
レイナは首を振った。明らかに嘘である。
「下を向かずに前だけを見るんだ」
それでもレイナの眼から怯えは消えない。俺はそんな彼女に手を差し出した。
「手を掴め。その方が紛れるから」
「し、しかし……」
遠慮した様子の彼女だったが、躊躇いがちに俺の手を取った。小さくて、とても柔らかい手だった。
それからしばらく経った後、ユリアが前方の岩山を指差した。
「あれがエルフの森よ」
その岩山は、カルデラ構造を形成していた。
中心部分からはもくもくと立ち上る煙のように葉を付けた大樹が鎮座している。全長何百メートルもあるだろう。北欧神話のユグドラシルを連想させる代物だった。
「あの大きな岩のところで降りて。事情は私が説明するから」
ユリアがウィンクする。
彼女の指示する場所にはとても大きな岩が横たわっていた。
ユリアは降り立つと、岩と斜面の間に歩み寄った。
一見するとただの岩だが、彼女が何やら聞きなれない言葉で語りかけると、斜面から急に扉が浮き上がってきた。
エルフの1人が扉を押し開け、ユリアが手招きした。俺たちは彼女に従って扉の内側へと入った。暗いトンネルのような通路を約20メートル進むと火口内部へと抜け出た。
そこには森、と言うよりは整備された庭園が広がっていた。まるでバビロンの空中庭園のようだ。
「こっちよ」
ユリアが先導して庭園のように整った森を進む。
右手には澄んだ湖が横たわり、陽の光を反射して輝いている。
森の木の上にはウッドハウスが建てられている。木と木の間には橋が張り渡されており、木の上にもう一つ通路がある格好だ。
ユリアによると、エルフたちはこの木の上の家で寝起きしているらしい。頭上を見やれば何人ものエルフたちが行ったり来たりしている。
「もちろんエルフの王が暮らしているのはあっちの大樹の上ね。今からそこに行くわけだけど」
「エルフの王とは随分と他人行事じゃないかい? 素直にパパとでも呼べばいいじゃないか」
「私、反抗期なの」
ユリアは肩を竦める。
「反抗期というよりは、ただのお転婆のようだが」
「あなたには言われたくはないわよ、アルタイアの王子さま」
ユリアが負けじと言い返す。
「お手て繋いで仲が良いのね」
「え?」
ユリアはクスクスと笑っているが、俺は何のことかわからない。
「あの……」
隣からレイナの躊躇いがちな声。
「もう、放してくださって結構です」
そう言われてやっと気づいた。
ここに降り立ってから今までずっと彼女の手を握ったままだったのだ。
「あぁ、すまない」
「いえ、そんな……」
俺たちの間に気まずい雰囲気が流れた。が、ユリアが反対側から腕を絡めてきた。
「はいはい、次は私とお手て繋ぎましょうねー」
ニコッと笑みを見せていたユリアだったが、不意に真顔に戻った。
「王城まではまだあるんだから、さっきのヤツのこと、あなた達がここに来た目的も話してくれるわよね?」
俺は無言のまま頷いた。
どのみちこうなることは予想していた。
亜人種の中でもエルフ族は友好的な方なのだから、何とか協力を取り付ける予定だったのだ。それがユリアたちとの出会いやスパルタカスたちの襲撃で早まっただけに過ぎない。
俺は隣のユリアに対して、義眼の魔術師並びに転生鬼人衆に関することをほとんど話した。




