8話:樋波の戦い
前置きは無しにして
では、17話『樋波の戦い』お楽しみください
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side.鈴
「さあ、時間よ」
鈴の言葉を合図に【無窮の幻想】は会場へと出た。
控室は地下に存在しており、試合が始まったら階段は閉じられ、その奥にオーブが置かれている。
実力で劣る相手に対しどのような作戦で戦うのか、その一点が【無窮の幻想】に対し求められた期待であった。
『選手が入場してきました!西側から入場してきたのは、今大会優勝候補筆頭である【聖杯】です!全大会とメンバーは一人も変わっておらず、実力は折り紙付きです!対するは栄菟女学院の決勝で、今大会優勝候補の一角でもある【不滅の戦姫】と死闘を演じた【無窮の幻想】です!この本大会出場チームで初めての、1年生のみで編成されるレギオンとなります。実力は未知数ではありますが、やはり【聖杯】の勝利が確実視されています』
聖杯の勝利が確実視される理由の一つは、昨年度1年生3人を中心に据えたレギオンであったにもかかわらず、圧倒的な実力で優勝を搔っ攫っていったことが大きい。
『試合開始の時刻まであと10秒!皆でカウントしましょう!せーの!』
『10!』
選手の中に緊張が走っていく。いや、聖杯の中には走ってるようには見えない。
『9!』
会場にいる観客の声が会場中に響き渡り、会場が振動する。
『8!』
会場の観客のほとんどが聖杯の勝利を望み、無窮の幻想の勝利を望んでいる者は殆どいない。
『7!』
「さあ皆。アナウンスが言っていた通り、私達の勝利なんて信じられていないわ。どれだけ泥臭くてもいい。全力で勝ちに行くわよ」
『3!』
『2!』
「行きましょう!」
『1!』
『レディー…Fight!』
それを合図に、試合は始まった。
試合の開始と同時に鈴とそして、イリアが樋波を背負って駆け出した。
樋波の強さはあくまで能力だより。
身体能力はあまり高くない。正直、イリアが背負って走った方がかなり早いだろう。
「あと10秒程度で接敵するけど、それは無視して進むわ。私達に攻撃してきた場合にのみ戦闘を開始。ここは樋波に任せるわ」
「りょーか~い」
戦闘能力ではイリアや鈴が残った方が耐えられるかもしれないが、落とせる確率が高いのは樋波だ。
恐らく接敵したとして、こちらに攻撃を仕掛けてくるのは一人だけだ。ならば樋波にはここで一人を落としてもらい、その後で集合した方が勝率は上がる。まあ、ここで3傑の3人のうち1人が私達の足止めに回る確率は高いので、樋波では落とせないかもしれないが、その場合は全力で逃げに回る手はずになっている。
「じゃあ、全力で駆け抜けるぞ!」
「敵をはっけーん!私、攻撃を開始します!」
自分のことを説明するかのように、藏越五鈴が攻撃を開始した。
「じゃあ、樋波。よろしく頼む。必要以上に攻めすぎないようにしてくれ」
「ん。じゃあ、行く」
一回戦。最初の攻防が始まった。
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side.樋波
「じゃあ、やろうか!」
五鈴はそう楽し気に告げた。
樋波はそこまで乗り気ではなかったが、鈴に頼まれたことだと割り切って戦う事にした。
「しょーが無いなー。じゃあ、やろうか」
事前の情報では近距離戦闘タイプだと聞いていた。
実際近距離戦闘の方が得意なのだろうが、『触ればこちらの勝ちだから』という事で、樋波は近距離戦闘の相手の方を得意としていた。
「こっちから行くよ。《速く》」
次の瞬間、五鈴は樋波の懐へともぐりこんでいた。
「はや‥‥」
樋波は軽々と避けたようにも見えたが、かなりギリギリだった。
速さだけで言えば、予選の決勝で戦った緋和李にも匹敵するほどだ。
「次!《強く》」
『ドンッ』と言う音と共に、地面を大きくへこましながら樋波へと突撃してくる。
「それなら《我が敵よ、眠れ》【強制睡眠】」
「そんなの効くかぁ!はい、ドーン!」
何事もなかったかのように樋波へと突撃してくると、樋波は殴られた勢いで後ろの木にまで飛んでいく。
樋波は丸太で殴られたかのような衝撃を受けながらも、ふらふらとではあるが立ち上がる。
「うっ…痛い」
「およよ?これでも駄目か~。じゃあ、次はもっと強くいっくぞ~!」
「次で、終わらせる」
樋波は五鈴がもう一度目の前から突撃してくると考えていた。
実力差で五鈴は自分よりも圧倒的に勝っているのだ。当然と言えよう。
だが、勝負では自分が勝てる。そう考えていた。
「《全てを眠らせる混沌の闇よ、我が敵を夢へと誘え》【我夢界住主也】」
五鈴が樋波に触れたその直後、2人はその場へと倒れこんだ。
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side.樋波の夢
「およよ?ここはどこだい?」
五鈴は少し驚いたような表情を見せているが、そこまで焦ったような感じは出てこない。
「ここは夢の中。あなたには試合が終わるまで、ここにいてもらう」
「樋波ちゃんだったけ?君を倒せばここから出られる?」
「‥‥出られるよ。でも、私に勝つことは出来ないよ」
「それはいい事を訊いた!じゃあ、やろうか」
五鈴はその場で構えると、樋波へそう告げた。
「あなたの攻撃は私には届かない。これは決定事項」
「そんなやってみないと分からないでしょ!はっ!」
「強さの問題じゃないよ。この世界で私に敵うものはいない。この世界で私は最強だから」
「へぇ~。ちょっと燃えてきたよぉ!」
五鈴は大きく息を吸うと、また構え直した。さっきとあまり変わらないように見えるが、何か変わっているのだろうか?
「《天地を揺るがす始祖の力よ、我が身に宿りその猛威を振るい給え》【शिव】」
「何で超絶技が使えるの!」
「何でと言われても、ねぇ。つかえたから?」
五鈴の使った『शिव』は神華とほぼ同等のものだ。
覚醒と神華の間にあるもので、緋和李で言えば【暴食覚醒】がそれにあたる。
覚醒よりはマギを大きく消費するが、神華とは違い大きな代償を必要としない。
「じゃあ、いくよ」
そう言った五鈴は地面を力いっぱい殴った。
「何をやって…!」
「もう一発!」
「しゅ、修復!」
樋波は急いで夢の世界の復元を謀る。
しかし、五鈴が殴るたびにその世界は破壊されていき、復元は追いつきそうもない。
「これで、最後ぉ!」
その一撃で夢の世界は完全に崩壊し、次の瞬間、現実で意識を取り戻した。
「何で、あんなことができるの‥‥」
「シヴァ、わかる?破壊と再生の神なんだ。それで、私の超絶技はその力をこの身に宿すこと。それ相応に代償はあるけど、軽い筋肉痛とかだね。神華まで使うとちょっときついんだけど、まあ、それは早々使わないからね。じゃあ、これで終わりだよ」
「まだ、負けて…ない!《全ての夢を喰らう白豹よ、我が願いに応じ夢を喰らえ》【バク】!」
神華の一歩手前。樋波も学園に入ってからの一月半で、この域にまで達していた。
神華を使えるわけでは無いが、それでも簡単に倒されることは無くなった。
「神華‥‥ではないかな。【शिव】も解けているみたいだし、ちょっと危ないかな?
《破壊と再生を司る神よ、我が願いに応じ再生の力を授け給え》【無限再生】」
破壊の力と再生の力を併せ持つのがシヴァである。先程使ったのが破壊のみの力を優先した能力で、今使ったのは一瞬で死なない限り、無限に復活を続ける再生の能力だ。覚醒超絶技であり、五鈴の切り札の一つだ。
「あ、れ?」
それにも関わらず、五鈴は意識を失いかけた。
いまだに足取りが定まらない。意識を失いはしないが、今何をしているのか、分からなくなる。
「もう、すこし‥‥」
徐々に五鈴の意識は薄れていく。それに従って樋波の顔は青く染まっていく。
「あと、ちょっとで‥‥‥」
その言葉を吐いた直後、樋波はその場に倒れこんだ。
「はぁ、はぁ…あ、危なかった~」
五鈴もあと5秒も長く能力が使われていたら、超絶技を使用していなかったとすれば、負けていたとしてもおかしくない状況だった。
「今回は私の勝利、だぞ!」
五鈴はそう言い残すと、すこし重たい足取りで無窮の幻想の本拠地へと向かっていった。
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side.鈴
「樋波さんは負けてしまったようですね」
「樋波が?」
「ええ。ですが、悲しむのは後にしましょう。今は目の前の相手に集中しましょう。本気で相手をしたとしても、勝てる確率の低い相手ですからね」
ここまでお読みいただき有難うございました
書き溜めしてあるのはここまでです
また、少し書き試したら投稿します
投稿していなかったのは、新生活や試験期間に被さったためです
他の作品も書いてはいたので、その内に投稿すると思います
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