9.美人と冒険者登録、いい響きだぁ……
「旅に付き合ってくれてありがとう。おかげで助かったよ。銀弧はこれからどうするんだい?」
レイジは銀孤にお礼を述べて、今後の予定を確認する。レイジは『カブルポート』まで一緒に来てくれとお願いしたから、旅もここまでだろうと考えた。
銀弧もずっとレイジと旅するわけにはいかないだろうし、こういう事はさっさと聞いておくのが気遣いというものだ。
「レイジはん、ちょっと鈍感やねぇ。ウチは迷いの森に住んでだけど、行くところも用事もないんね。それに、命を助けてもらった恩はわすれへん。こんなんじゃ恩返しにならんし、他に何かお願いがあらへんの?」
銀孤は少し不機嫌そうな雰囲気だ。
それを察したレイジは焦った。
何がいけなかったんだ!? レイジは完璧な気遣いでパーティを盛り上げた男でもある。
恩返しになんて気にしなくてもいいのに、と内心考えるが、しかし銀弧の立場ならそうなるかも、と思いなおした。
それならば、何か別の提案が必要だ。そしてレイジ自身の望みと現状を打開するナイスな方法が存在していた。
冒険の基本はパーティ活動で、レイジは職と身分証のために冒険家になる予定だ。
身分証を取得して婚活する予定ではあったが、そんなことをしなくてもいいじゃないか!
「俺はあんまり気にしてないんだけどなぁ。じゃあ、しばらく俺と一緒に冒険してくれないか? 冒険家になって、パーティを一緒に組んで迷宮に挑戦するんだ! 勿論命の危険があるから無理にとは言わない」
「レイジはん、分かったやね。一緒にパーティを組む、それで行きなんしね! ウチは妖狐やから、その辺の迷宮なんて問題ないやんし。うんうん、エイジはんも少しはウチの気持ちを分かってくれてるんやねぇ」
銀孤は先ほどと打って変わってものすごく上機嫌だ。確かに命を助けられた恩返しが、旅の道連れでは気が済まないかもしれない。これは、レイジと銀孤のウインウインな関係ではないであろうか。一緒に冒険する事で銀孤のことを知ることもできる。
レイジは冴えた提案を行えたことに満足していた。
そしてレイジと銀孤は、冒険者登録のためにギルドに向かった。先ほどの兵士から銀孤が場所を聞いておいてくれたのだ。レイジとしても『カブルポート』の街並みはあまり昔と変わっていなかったため、道に迷うこともなかった。百年程度では街並みの様子はあまり変わらなかったらしい。
「それじゃあ、ギルドへ行こうか。ギルドの登録は簡単。書類とかは俺が書くし。すぐにパーティを組もう」
「あら、すごいやる気なんしねぇ。冒険家に憧れてたのがわかるわぁ。うちもお手伝いするさかい、存分に冒険しようねぇ」
そうやってお喋りをしている内に冒険者ギルドを見つけたが、少し見た目が違う。レイジはとても懐かしい気持ちになった。
レイジと銀孤は冒険者ギルドの扉を開けて、敷居をまたいだ。
レイジも慣れ親しんだ、雑踏としたガヤガヤと小うるさい雰囲気のあるギルド。
しかし、レイジ達が入場すると異変が起きた。
たむろしている冒険者はレイジ達に視線を向け、すっと視線を外した後、シン……と静まり返った後に、レイジ達を二度見していた。
レイジと銀弧に大きな注目が集まっていた。
レイジは訝しみながら、一体なんだと困惑した。
「なんだあの姉ちゃん。すっげぇ美人じゃねぇか。なんでこんなところに?」
「ゲキマブすぎないか? やべぇ、俺惚れちまうかも」
「服が破れて臍がみえてんじゃねーか。エロすぎんだろ」
それを聞いてレイジは思った。
どうやら銀孤の美しさに目をとられてるらしい。わかる、わかるぞ同じ男として。こんな美人がいたら見ちまうよな。レイジも美人には鼻の下を伸ばした経験があるだけに、男共の気持ちをよくわかっていた。
冒険者は基本的に野郎仕事なので、女性は珍しい。そこに銀孤のような特上の美女が出てきたらそりゃ注目するに決まっていた。
とりあえずレイジは銀孤と注目を無視して、一緒に受付へ向かった。
「冒険者登録とパーティ登録をお願いしたい。あと、ギルドカードも。俺と彼女だ」
「冒険者登録ですか?」
チラリと受付嬢の視線が品定めでもするかのように上から下に走る。
なんというか、視線が露骨だ。見定めてるのかな。
「わかりました。ギルドのランク制度はご存知ですね? ギルドカードの交付は此方の申込用紙を記入いただければ構いません。それではどうぞ」
受付嬢から申込用紙を頂き、適当に空欄を埋める。銀孤の分も俺が書いておく。
間違いがない事を確認して、受付嬢へ渡した。
「レイジさんに銀孤さんですね。ではギルドカードを作成します作成中は、少し時間を頂きますので、あちらでおかけになってください」
受付嬢に本棚とセットになったソファを指し示される。
「えぇ、一応ギルドの説明等は全て本棚に収めてあります。とりあえず一読して、冒険家を始めてください。それでは後程」
受付嬢はそそくさと事務作業を始めたので、レイジと銀孤はソファに座った。レイジが様子を見る限り、この百年で大きくルールが変わったわけではないらしい。この際だから、銀孤にギルドルールを教えよう。
レイジは、銀孤に本を広げながらギルドのルールを説明した。
ギルドは最初はFランクから始まり、昇給していく。最高はSランク。
ギルドカードは、作成した街に限りFランクでも身分証として使える。Cランク以上で身分証明書となり、他の街を自由に行き来できる。
ギルドの依頼をこなしランクを上げると受けられる依頼が増える。ランクにあった依頼を受ける事が出来る。
まぁ基本的なところだ。ランク別評価基準という本があったので、それも開いて見せた。分かりやすくピラミッド状の図が描かれて図示されている。各ランクは天地の差ほどの実力差があり、ランクの実力が絶対的な力の差を示すほど厳しい差がある。
ちなみに魔物には同様に脅威度というものがある。これはギルドのランクに対応しており、同ランクであれば、戦って少し有利程度である。例えばDランクの冒険者は脅威度Dランクの魔物と互角以上に戦えるということになる。
S (銀) :伝説級
A (紫) :超天才
B (赤) :最前線級
C (黄) :ベテラン冒険者
D (緑) :冒険者(上)
E (青) :冒険者(中)
F (白) :冒険者(下)
G(白) :素人
だいたいはDランクで止まり、Cランクまでいけば上等な方だ。
レイジがそんな説明をしている所で、銀弧に声をかける者がいた。
「おい嬢ちゃん。そんな男とつるまず、俺達と一緒に遊ぼうぜ! きっと楽しいぜぇ?」
「ゲヘヘヘ、お嬢ちゃん。そんな格好してたら良くないなァ。一緒に買い物もしないかい?」
「文無しはさっさと失せろ、ぶっ飛ばされんうちにな!」
声をかけてきたのは荒くれ者の三人。ギルドでよくある光景。
ナンパだ。