6.今、お礼に何でもするって!?
「落ち着いたか? 再度言うが、俺は君に危害を加える気もないし、たまたま通りがかっただけだ」
レイジは果物を齧っている妖狐に声をかける。随分と弱っていたようだが、少し回復したようだ。耳がピコピコと動いている。
なにあれ、メッチャ可愛いんですけど。触ってみてぇ。
「ほんまにお人よしのようやねぇ。こんな秘薬まで使ってもうて……、まずはお礼を言わなあかんね。ありがとう。うちの名は銀孤や。ぎんこ。あんたの名前を教えてほしい」
「銀孤か。いい名前じゃないか。俺はレイジだ」
「レイジはん、改めてお礼を言わせて。命を救ってもらった。あんたに襲い掛かったのに、それにも関わらずや。あんたみたいな人は初めてや。あのままやったら間違いなく死んでた。何でも言うて、うちにお礼をさせてや」
ん? 今何でもするって…… 今何でもするって!!!
レイジは焦った、いきなり嫁チャンス到来だと思った。そんなわけないのだが。
良く考えてみれば、相手が人間である必要はないのだ。レイジは人間と妖狐が結婚して子をなした例もあると聞いたことがあった。これも何かの縁、経験のないレイジは、女性に積極的になる必要があると考えた。
レイジは銀孤を見て、嘆息した。
銀髪のショートヘアに少し吊り上がった目、整ったガラス細工のような顔つきにピコピコと動く狐耳。艶と潤いのある唇。そして身長は少し高めだが、175cmある俺よりは少し小さい。そして控えめな胸。整ったウエストに小ぶりなお尻。エロい。
エロすぎるだろ、冒険者的に考えて。
文句なしに嫁にしたい。
レイジには、下心しかなかった。
それに服装は乳白色の着物に品の言いエメラルドの色を差し色してある。巫女服を少し派手にしたような服装だ。妖狐族は、遥か東側の国である和ノ国の服装や文化に酷似していると聞く。この服装もそういうものだろう。ところどころ破れているせいで、妙に色っぽい。
冷静になれ、レイジ。あんまりエロい目で見るな。バレるぞ。レイジは若返る前の経験で知っている。女性は男性のエロい視線がわかる。だがレイジは、あの狐耳は弄ってみたい……
っくっ、抑えろ、レイジの理性。レイジは孤高の魔法剣士。やるべきことをやるしかない!
そう考えてレイジは勇気を振り絞る。
「そうだな。ならこれも何かの縁だから……」
言おう! これも何かの縁だから、折角だから結婚を前提に付き合ってくださいと言え! やればできる! 俺は命の恩人だ!!!
レイジは、嫁ほしい病により妙に勢いづいていた。
銀孤は、じっとレイジの目を見て話を聞いていた。
レイジをとてもつもないプレッシャーが襲った。何だこのプレッシャーは!? 『ユグドラシル』最強のボスであるジュブ=シュイナと戦った時もこんなに緊張しなかったぞ!? とレイジは困惑しながらも、何とか勇気を振りしぼった。
「これも何かの縁だから……、よろしければ一緒に隣街まで行きませんか? 旅は道連れといいますし、俺の目的地なんです」
妙な言葉遣いになりながら、ついヘタレてしまったレイジ。
しかしレイジがよく考えてみると、これで良かったかもしれない。急に付き合ってと伝えるより、こうやって一緒に街まで行って、銀弧のことを知ったほうがいいと思いなおしたからだ。
レイジは無茶苦茶な考えをしていたことに気づきながら、少しヘタレて良かったと反省した。
段々冷静になってきたレイジだが、こんなにも混乱してしまうとは、美人とは恐ろしいと感じた。
レイジは銀弧の美しさにあてられたが、見た目だけ見てお付き合いしようなんて最低だと考え直す。
「くふふ、そんなことでええの? 可愛いお人やねぇ。ついていきましょう。うちも行く先ないしなぁ」
銀孤はウフフと微笑している。何だか心を見透かされたような気がしたが、気にしないでおこう。
「ほら、いきなんし。どこへ行くんや? レイジはん」
銀弧の銀髪が揺れる。
レイジはにっこりと笑った銀弧を見て、それまでの難しい考えはどうでもよくなった。
何だか、心が温かくなって、こんな気持ちを感じたことが無かったのだ。
これは、もしかして恋?
レイジは内心を隠しながら、かろうじて一言を絞り出す。
「こ、ここから北東に上がった街、カブルポートへ向かう。距離にしてあと数日歩いたところだ」