31.おっぱいなんて、見てないっすよ!!!
「すごい絶壁、これがノヴェルの峠なんやね」
銀孤は絶句していた。ゴツゴツとした岩肌の先には、断崖絶壁の世界。下をのぞくと小さな川が見える。本当は大きい川なのだが、あまりに高い所から見下ろしているため、とても小さく見えた。
「いやぁ、高い所って怖いよね。超怖い」
レイジはそう言って崖に近づこうとしなかった。銀孤としては、なんでもそつなくこなしているレイジがそんなことをいうのが珍しく、目を丸くした。
「レイジはんって高い所怖いん? なんか意外やなぁ」
「いやぁ、めっちゃ怖いよ。吸い込まれそうで、恐ろしいね。恐怖を克服するのは冒険者の素養だけど、怖いもんは怖い。降りることは降りるけどね」
レイジはそう言って指をさした。崖の中腹に、鳥の巣ができていて卵が置かれている。怪鳥もおらず、卵を盗み出すには絶好だ。
「ふぅん、じゃあうちの出番やな。崖を下って卵をとってこればいいんやろ?」
「そうだけど、どうするんだい? 俺は持ってきたロープをかけて降りるつもりだったけど」
「周囲に魔物の気配もないし、取ってくるだけならうちの面目躍如や。そぉら」
銀孤はそう言って、崖から飛び降りた。身軽そうな足取りで、崖にそって降りていく。器用に崖の出っ張りを足と手で掴みながら振り子のようにヒョイヒョイと降りていく。とても身軽なものでレイジも感心してしまう。
時間にして十数秒、銀孤は怪鳥の巣までたどりつく。お目当ての卵はそれなりに大きめで、両腕で抱えるほどであった。銀孤はそれを持ち上げるとにっこりと笑った。
「レイジはん、投げるから受け取ってね!」
銀孤が振りかぶって、卵をレイジに向かって投げた。レイジは、マジか! と感想を抱きながらもそれをキャッチ。間違いなく金色の万能薬の材料であり、あとは銀孤が戻ってくるだけである。
「いい感じやね~。よっこらしょっと」
銀孤は降りてきた時のように、足と腕を器用に使って崖を登っていく。レイジは上から見下ろしてらその様子を見守った。そしてヤバイことに気づいた。
銀孤の着物の隙間から谷間が見えた。谷上から見下ろしているだけに。
(うわっ、上からチラっと谷間が見える……!? あの中はいったいどうなってるんだ…… 崖の堅い印象と、柔らかそうなおっぱいの印象が対比されている!? 芸術的すぎる……)
レイジの視線は釘付けになった。可愛い彼女の、思いがけないアクシンデト。釘付けにならない男がいるだろうか? いやいない。
レイジ的には、時たまのぞき見える暴力的な女性のプロモーション。身を乗り出してもっと覗き見ようとしたとき、背後に人の気配を感じた。
「おっ、あんたも卵を取りに来たのか? あの崖の女の子、可愛いなぁ。おっぱい見えそうやん」
レイジに声をかけたのは、フードを被った若い男性だった。




