3.若返りの秘宝
「やった! 俺は、ついに……! クリアした! 人生をかけた冒険を!」
レイジは強く興奮した。だが、家に帰るまでが冒険だと思いなおした。初心者のようなミスは犯さないように気を付けた。
レイジは湖の中央に安置された宝箱を調べた。一流の冒険家の技能は、罠や悪意を探知することが可能だ。レイジは危険と悪意を感じることはなかった。これがダンジョンの秘宝とみて間違いないだろう。
そしてレイジは宝箱を開けると、女性の声が響きわたった。
「パンパカパーン、『ユグドラシル』クリアおめでとうございます。この迷宮を作った女神です~☆ 強くて最強な貴方には、ご褒美をプレゼントしちゃいまーす☆ このダンジョンをクリアするには、もうそれは苦労された事でしょう。世界最強最悪のダンジョンだから☆ やったね!」
狭い最深部に、甲高い女性の声が響き渡った。その音声を解析してみると、どうやら記録音声のようだ。
それに声の調子は神秘的ではあるのだが、何とも気合が抜けてしまうような語調だ。
「早速、ご褒美の説明をするよ! ご褒美は、迷宮を攻略した人によって内容が変わるんでーす。その人にとって必要なアイテムが出るの☆ 当然、攻略した君には特別なご褒美が必要だよね!」
レイジはその話を聞いて素直に喜んだ。
おぉ、苦労して潜った迷宮らしく、素晴らしいご褒美があるらしい。
普通の迷宮はこんな音声もついてない。宝箱に貴重なアイテムが入っているのは基本ではあるが。
女神となった女性が残した音声について思案した。
レイジに必要な秘宝? それは必要なのは一緒に喜んでくれる嫁だとレイジは考えた。
流石に無理だろうが……
「で、選ばれたご褒美は、若返りの秘宝! な、な、なーんと、十六歳まで若返っちゃいます! 百年かけて。秘宝を使うと、この『ユグドラシル』の湖で百年の眠りにつきまーす☆ 気が付けば、若返っちゃう! すっごいー! しかも能力を引き継げる! この秘宝が出るということは、人生後悔してるねー! 使って幸せになりなYO☆」
若返りの秘宝……? レイジは強く訝しみ、そして喝采した。
「もしかして俺、若返っちゃうの? マジで?」
レイジの胸中は、そのような気持ちでいっぱいだったのだ。
「使います。スグ使わせてください、私には必要です!」
レイジは即答した。人生をやり直せる。レイジは人生に後悔はないが不満はあった。
嫁がいないことだ。次の人生は必ず嫁を探す! と決意した。
絶対にだ!!!
「よーし、バッチコーイ! じゃあ、今すぐ行くよ! では百年後の世界にご案内~~~☆☆☆」
ペカーっと湖が光り、レイジは眠気を感じた。
レイジその眠気に身を任せて、意識を失った。
◇◇◇
レイジは湖の中心で目が覚めた。何だか違和感を持った。
いや、若返りの秘宝を使って、百年の眠りについたという事実を、レイジは思いだした。
レイジは美しい湖の水で顔を洗う。そこには、若かりし頃のレイジが映っていた。身長は175cmぐらいでスラっと鍛えられた体とそこそこ整った顔がそこにあった。この容姿なら、結婚できる! これは、イケる……! とレイジは考えながらも、はやる心臓を抑え込んだ。
レイジの手元には、愛剣<<雪月花>>が佇んでいる。湖の草に覆われて、まるで蔦の鞘に収まっているようだ。それが悠々に百年の時間が過ぎ去ったことを伝えていた。
変わらず傍に置いてあった<<雪月花>>は、レイジにとってとても心強かった。
さらに装備していたマントは、レジェンドワイバーンの皮をはいで作ったものなので、百年の月日がたっても傷んでいないようだ。
大量に持ち込んだアイテム類はダメになっていたが、<<七色の万能薬>>と呼ばれる、『ユグドラシル』で見つけた貴重で特別な回復アイテムは大丈夫なようだった。
レイジは草の鞘から雪月花を取り出すと、変わらず美しい刀身を見せる。百年程度ではビクともしまいが、だがまた磨いてやらないとな、とレイジは思った。
そしてレイジは迷宮の最深部で身だしなみを整えた。
そしてレイジは、この秘宝を残してくれた神(?)に、心の中でお礼を言う。
地上への転移扉が開いているようだ。迷宮は攻略すると地上までの片道切符が繋がり転移する事ができる。
入る時は一からやり直しだが、帰る際は一瞬だ。
千階層以上あるこの迷宮からすぐに戻れるのは助かる。
レイジは転移扉を潜り、そうして地上に上がった。百年後の世界、楽しみだ。