12.同衾なんて、無理に決まってるでしょ……
カポン……
レイジは宿屋の風呂で一息をついた。生き返るわぁ。
若返ってからのことを考える。もちろん銀孤についてだ。
はっきり言って、銀弧は美しい。それに銀弧の心にも、レイジは惹かれていた。
レイジが求めていた女性といっても過言ではない。
レイジはもともと女性は苦手だったりしたのだが、銀弧はお姉さん気質があって、女性経験のないレイジの事をバカにせずに相手にしてくれる。
レイジとしては銀弧をもっと知りたい。銀弧は妖狐だけど、若返ったレイジが言えた義理でもない。
レイジは、銀狐に惹かれつつあることを自覚した。
そりゃレイジにとっては数日の付き合いだが、それでも十分だ。要するにレイジという男は、女の子にちょっと優しくされるだけで好きになってしまうチョロい奴なのだ。
仕方ないのである。
レイジが部屋に戻ると銀孤はまだ風呂のようだ。
その間にレイジは明日の予定を考える。とりあえず宿代を稼がなければならない。Fランクは討伐依頼などの高価な依頼も受けられないし、雑用のような仕事しかない。
「お待たせねぇ」
銀孤が風呂から上がって部屋に戻ってきた。
はっきり言おう。風呂前の銀孤は土や血で汚れていた。
しかし風呂上りの彼女はどうだ! キメ細やかな肌! 濡れた髪の毛! 良い匂いもする!
「綺麗だ……、良い匂いもする……」
レイジは銀弧を見てつい本音を零してしまった。
「あら、面と言われると恥ずかしいわ。うふ、うちの色気に惑わされたん? それとも欲情した?」
レイジはそう銀孤に揶揄われて正気を取り戻した。銀孤は笑いながら言葉を紡いでいたからだ。
「ご、ごめん。俺あんまり女性と話したことなくて……」
だから、だからついレイジは、本音を言ってしまった。そして言ってから後悔した。レイジとしては折角若返ったのだから、格好いい男性像を演じたかったのである。
「かまへんかまへん。うちはそっちの方が好感持てるし。不器用なのは悪い事じゃないんやで。レイジはん、初々しい感じがするのに、どこか年を取った感じがするわ。面白いねぇ」
銀弧の言葉を聞いて、若返ったレイジはギクリと心が鳴った。レイジと銀弧はお互いを良く知らない。だからこそ、銀弧の印象は正しいのだ。穿った見方をしない。
「もう、黙らんといてなぁ。慣れてないなら、うちで慣れたらええんよ」
「そ、そうだね。つい本音が出ちゃって。でも本当に美人だと思ったんだ」
こういったやりとりは、銀孤が上のようだ。レイジとしては最早下手な事も言えないので、素直に感想を言うしかない。
「あはっ、嬉しいわぁ。うちなぁ、妖狐やろ? 人間の感覚はわかるんやけど別の種族やからね、心配やったんよ」
「銀孤は綺麗だよ。文句ない。耳を隠せば、姿形も人間と変わらないしね。俺は綺麗だと思うよ」
銀孤は少し頬を赤らめてるように見える。だが、レイジのような初心な奴の褒め言葉だ。きっと演技してくれてるのだろうとレイジは考えた。
「そんなに褒めてくれるんやったら、うちと一緒に寝てくれる? えっちなのはあかんよ」
「ごめん、一緒に寝るのは無理。銀孤の事はまだあまり知らないし、一緒の布団で寝るなんて緊張して寝られない。俺が床に寝るから」
いや前言撤回だ。銀弧は絶対に遊んでいる。えっち…… 銀孤と……
レイジは顔が赤くなるのを感じる。アカン、体は正直だ。
レイジは焦りに焦った!!!
そしてレイジ誤魔化すように急いで、床に布団を敷く。
そのまま布団に入って、顔を隠すしかできなかったのだ。
独身五十歳、誘惑の時!!!
「ほんま、初心やねぇ。可愛いわぁ」
そう銀弧はつぶやいて、彼女の布団へと入っていった。




