1.嫁を見つけるべきだった……! 反省……!
ここに虚しい男がいた。
男の名前はレイジ。職業は冒険家。
冒険家とは、世界にある迷宮を探索し、最下層まで攻略する誇り高い仕事である。
命の危険がつきまとうが、見返りとして迷宮の資源が手に入る。
それは世の中になくてはならないものだ。
そんな冒険家のレイジだが、おりしも五十歳の誕生日を迎え、最強の魔法剣士なんて呼ばれていたりした。二つ名は《孤高》
そんなレイジは、悩みを抱えている。
そう、《孤高》の二つ名が示す通り、独身なのだ。
「レイジへ、子供が産まれました。最高に幸せです! これもレイジのおかげです!」
レイジは、甘ったるい蜂蜜ドリンクをゴクゴクと飲みながら、手紙を涙で濡らした。
レイジと一緒に冒険した経験のあるバトルマスターのエイトからの手紙だった。手紙は女性の柔らかい文字で書かれており、エイトの奥さんがしたためたものだとわかる。
「糞ったれめ~、命を助けてやった恩も忘れて、こんな幸せそうな手紙を寄こしてきやがって~、クゥゥ」
レイジは泣いていた。号泣といってもいい。レイジの独身生活歴は五十年。女の子と全くの縁のない生活を送っていた。嫁がほしい。それがレイジの望みだったが、叶う見通しはない。
レイジは自身の何がダメだったのかと人生を振り返る。
最強を目指して、幼い頃から魔法剣士の師匠(♂)に弟子入りし、ひたすらに鍛錬を続けた。
レイジは厳しい鍛錬を積めば積むのがお気に入りだった。成長と強さを実感できて楽しかった。
おわかりいただけるだろうか。レイジは青春を鍛錬に捧げた。
気が付けばレイジは二十歳を過ぎて、成人になっていた。
いつしか、一流の冒険家である師匠に憧れて、真似をするように冒険家になっていた。
パーティを組んで冒険にでては、失敗や成功を繰り返した。それら全ては消え失せる事のない素晴らしい思い出だ。
レイジにとってまずかったのは、野郎ばかりのパーティで冒険に出かけた事だろう。
レイジは冒険に夢中になっていたが、パーティメンバーは、嫁を見つけて結婚していった。
そしてレイジ三十歳、「次は俺が結婚する番だな!」と笑い続けて、気が付けばレイジだけが結婚しなかった。レイジ以外のメンバーは、どこで見つけたのか知らないが、とにかく嫁を見つけていたのだ。
レイジにとっては、抜け駆けされた気分だった。
「皆死ぬときは一緒だぜ」
そう誓っていたにも関わらず!
だからレイジは、仲間から逃げるようにソロで冒険を続けるようになった。
三十歳を過ぎた頃に、魔力の質と剣筋が格段に良くなり、気が付けば《孤高》と呼ばれるようになっていた。
レイジは二つ名を気に入り、冒険にのめり込んだ。レイジは愚かだったのだ。《孤高》と呼ばれて、独身であることを焦るべきだった。
四十歳を過ぎるころ、ついにレイジは焦った!
このまま独り身のまま死ぬのではないかと。
冒険で名を上げたレイジは、世界に知られる最強の剣士だったので、富と名声は十分にあった。
レイジだって、できることなら女の子といちゃいちゃしたい。
そんな気持ちを心の奥底に秘めていた。
だがその下心が良くなかった。
レイジは、とりあえず行動を起こして、見合いを始めた。だがレイジの下に来るのは、名声やお金目当ての女性ばかりだった。それにレイジは四十歳で恋愛経験なし。良い巡り合わせもあるわけもなく……。
そして気が付けばレイジは五十歳だ。恋愛経験も皆無だから、もはや絶望的だ。大人としての分別がついてしまった。……死ぬまで独身に違いない。
レイジは、バトルマスターのエイトの手紙を読み返した。手紙からは幸せをいっぱいに感じる。女性の香水の匂いが手紙に付着し、それがまだレイジを刺激した。
レイジはその人生に後悔はない。最強を目指し、鍛錬と冒険を続けた。一本筋を通して生きたと振り返る。
ただ、人生を反省するとすれば、恋愛をして嫁を見つけるべきだった。
自由に冒険するのも悪くないが、傍にいてくれる女性がほしかった。
もうレイジは限界だった。だが、レイジにはどうすることもできない。
レイジは寂しさを紛らわすためにも、冒険を続けるしかなかった。