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けんせい師匠

 俺の制服が大きな人狼の返り血で染まっている。


 ーーどっかで服着替えるか?


 俺は大きな人狼どもを仕留めて武器を手に入れた。

 デカいこん棒とか錆びついた剣とか、使えない物ばかりだったが、1本だけまともな武器があった。


 黒い刀身の日本刀だ。



 俺はグラウンドの隅にある体育倉庫で一旦隠れる事にした。

 行動の指針が必要だ。


 俺は考える。


 何故この状況になったのかは一旦置いておこう。

 どうすればこの状況を乗り切れるか?

 モンスターを全滅させるというが、湾岸地区は広い。


 ーー俺の拠点は2年A組。他のクラスの奴らも生贄がいたから、拠点はたくさんあるはずだ。


 拠点にいる奴らは職業と武器を持っている。戦う力があるってことだ。

 ーーでも拠点に引きこもっている奴らが多そうだな。


 拠点に入らなかった奴らが化け物にされた。


 今日は平日だ。お台場の観光客はそこまでいない。


 何が基準で拠点かわからないが、拠点に集まった者たちが協力して化け物を少しずつ退治していけばどうにかなりそうな感じがする。


 ーー無理か。化け物相手に戦う訓練なんて普通はしてない。


 警察はどうだ? 湾岸警察署がある。拠点からモンスターを退治しているかも知れない。


 ーースマホを確認するか。


 スマホでアプリを立ち上げる。

 メニューが表示された。

 クエストの項目をタッチする。


 ・クエスト

 イベントレベル0【デスモンスターゲーム】

 湾岸エリア

 モンスター数27884/28322

 STM(すごい強いモンスター)12/12

 ボスモンスター1/1


  ーーモンスターの数も減っている。俺以外に戦っている者もいるって事か。良かった……


 ーーSTM? 強敵って事か。ボスもいるのか……


 俺は違うメニューを開いた。


 ・持ち主情報

 藤崎春樹

 職業:「」

 レベル:11

 ステータス:E


 思ったより項目が少ないな……

 ステータスの意味が分からん。

 職業も分からん。


 動画のメニューもあるな。

 俺はタッチしてみると、とある動画サイトみたいな画面に移動した。

 動画がずらっと並んでいる。学校1、学校2、ダイバーシティー1階……

 細かい場所ごとに動画がある。


 ……まだ時間がたってないが、過去の動画もあるぞ。

 これは便利な機能だ。場所の状況が判断できる。



 俺は次に地図をチェックした。

 膜に覆われている湾岸全域の地図がでる。


 画面をちゃんと見ると、右上にモンスターという文字が書いてある。

 モンスターの文字をタッチする。

 すると地図上に大量の小さな赤い光と12個の大きな赤い光が浮かび上がった。


 ーーこれはモンスターの居場所だ!


 重要な情報だ。これを頼りにモンスターを殺していけば……

 地図を拡大してもっと詳細を見ようとする。

 学校……グラウンド……!?

 大きな赤い光が近いぞ!



 その時、体育倉庫に大きな衝撃が走った。


 倉庫に亀裂が走る。体育倉庫が音を立てて崩れ始める。

 俺は崩れる前に壁を拳でぶち破り、体育倉庫を脱出した。


 崩れ去った体育倉庫の前に一人の男がいる。

 スマホのチラ見すると、その男がいる場所で大きな赤い光がともっている。


「ふはははは!! なんじゃ? 驚いているのか? 儂じゃよ、お前の師匠、剣正けんせいじゃ!!」


 師匠の身体はいつもよりも二回り大きくなっている。闘気も尋常じゃない。

 大きな熊みたいな顔が若返っている!? 瞳の色が赤い。


「う~ん? なに不思議そうな顔をしているんじゃ? 儂は神様から力をもらったんじゃい! この力があれば誰にも負けないんじゃ! お主ら【プレイヤー】とやらをぶち殺すのが仕事じゃ!」


 若い師匠が嬉しそうにパンプアップをする。

 いつもの袴を着ているその姿は化け物以上に化け物だ……


「……化け物になったのですか? 拠点に逃げなかったのですか?」


「拠点? ああ、無視したわい! 儂は神の使いになったのじゃ!」


 師匠は言葉を言い終わると、さらにパンプアップを始めた。


「ぬおおおぉぉぉーーーー!!! 最高のパンプアッップ!!」


 師匠のその筋肉の圧力に耐えきれず、袴はパンッとはじけ飛んでしまった。


「儂はお前が嫌いじゃ! 大っ嫌いじゃ! 今ここでぶち殺してくれるわ!」


 ーー俺もお前が嫌いだよ!!


 俺の胸の鼓動が速くなる。


 業界最強の男と呼ばれた剣正師匠。


 本性はただのクズ男だ。ギャンブルが好きで、女に養われていて、弱い者を嬲り、自分が一番偉いと思っている。

 俺を罵倒し、稽古という名の暴力をふるう男。


 俺は静かに刀を構えた。


 師匠……剣正は俺に向かって猛烈な勢いで向かってきた。







 剣正の打ち下ろしの拳が地面に突き刺さる。

 俺は拳をかわしながら剣で鋭く首を狙う。

 肥大化した肩の筋肉に刃が阻まれる。


 ーー刀で筋肉が切れないだと!?


 一瞬の硬直を剣正は見逃さない。

 俺の腹に鉄の塊のような拳が突き刺さった。


 俺は血を吐きながら宙を舞った。

 グラウンドのフェンスに突き刺さる。


「がははは!! ただでは殺さんぞ! 貴様の無様な姿は全国中継されてるのじゃ!!」


 剣正がスマホを取り出して見ている。


「お、コメント来ておるな……なになに……むっかー!! キモイ親父消えろだと!! 儂は若いだろ!」


 ーーふざけた男だが、やっぱ強いな。


 俺は剣正の強さに憧れていた。クズな男だけど強さは本物だった。

 優しい時もあった。俺に武術を教えてくれた。俺が強くなったら褒めてくれた。


 ラーメンをおごってもらった。施設の大人たちをぶちのめしてくれた。俺の保護者として名乗り出てくれた。……俺の持っている金目当てだって知っていたよ。

 あんたはクズだけど、俺の一番身近にいた大人だ。


 でもな、あんたはもう人間じゃない。悪魔だか神だか得体のしれない奴に魂を売ってバケモンに成り下がっちまった。



 ーー俺が引導を渡してやるよ。






 俺は突き刺さったフェンスから抜け出し、ゆっくり歩いて剣正に向かって行った。


「ん、なんじゃ? まだ元気なのか? 次は手足をもぎ取って公開処刑じゃ!」

 剣正は手を振り回して大声を上げる。


 手を突き出して力をためる剣正。


「儂のとっておきじゃ!! 剣正拳!!」


 手のひらから黒い闘気の塊が渦巻く。黒い闘気の塊が俺に襲いかかった。

 黒い闘気をその身で受ける。闘気が身体を蹂躙する。


 俺の身体が壊される。


「はは! ざまぁじゃ!! ん!?」


 ボロボロの身体で剣正に歩み寄る。


「…………これで最後じゃ。一撃で苦しまずに殺してやる」


 もう一度闘気を放とうとする剣正。







 ーー俺は藤崎春樹17歳。


 ーー気弱なボッチだ。


 ーー孤独なボッチだ。


 ーー俺に仲間なんていない。


 ーー俺は一人だ。


 ーー本当にそうか?


 ーー俺は助けられなかった人がいる?


 ーーその人とまた会うためだったら地獄だって行ってやる。


 ーー自分でも何を言っているかわからん。


 ーー俺は進むと決めた。


 ーー本気を出す時が来たようだ。








 俺は生まれて初めて本気を出すことにした。






 目を閉じる。

 心が軽い。

 心と身体が一致する。

 俺の中で記憶が少しだけ蘇る。

 俺は戦っていた。ずっと戦っていた。今よりももっと強かった。


 昔の俺を思い出すんだ。


 ーー最強だった頃の俺を!!!


 俺は目を開けた。

 剣正が黒い闘気を放つ。

 俺の刀はさっきの攻撃で落とした。


 ーー武器が無ければ作ればいい。


 俺は右手に力を集中させた。

 イメージは短刀。


 半透明のガラス細工のような短刀が右手から生れ落ちる。

 短刀を剣正の闘気に合わせる。


 闘気と短刀が衝突した。


「小刀ごと壊してやるわい! ……え」


 俺は短刀を振りぬく。


 剣正の身体中に光が見える。

 黒い闘気も部分的に光が見える。


 光の箇所を短刀で切り裂く。

 黒い闘気はあっけなく霧散した。


 俺は一瞬で間合いを詰め、剣正の光っている部分を切り裂いた。

 黒い刀身でさえも切れなかった剣正の筋肉があっけなく切り裂かれる。


 剣正の右腕が宙へ飛ぶ。

 返す刀で胸に光っている部分を突き、そのまま切り上げる。


「……あっ、ぐふっ」


 首まで切り裂かれた剣正は小さく声をこぼしてその場に崩れ落ちた。

 剣正はあっけなく死亡した。



 頭の中でピコーンという音が鳴り響く。

 俺はその場に座り込んだ。


 ーーぎりぎりだった……死ぬかと思った。師匠……これでオサラバだ。


 俺は光の粒子となって消えていく師匠を見守った。



 その後、俺のレベルが急激に上がった。

 スマホが鳴り響く。画面を見る。


『STMの討伐が確認されました。討伐ボーナス獲得しました』


 俺は刀を拾ってその場を離れた。







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