仮面の執行者
くそ、足止めにもならない。
所詮プレイヤー風情に期待出来ないか……
繰り返される世界でも忘れるならそれでいいだろ?
ゲームを楽しめよ……
あの世界は外と違って幸せだせ?
俺達が動くしか無いな。
このゲームは抜けられ無いんだよ……
何度試しても勝てなかった……
……現実をみろ。
どんだけ強大な組織だと思ってんだよ。
俺も勝てるかもって最初は思ったよ。
でもな……これはゲームじゃないんだ。
現実なんだよ。
……いつしか俺は運営側で働くようになっていた。
ゲームの外側に一歩足を踏み入れただけの新参者ごときが意気がるんじゃねえ……
本当の地獄はこれからだ。
黒いスーツを着込み、仮面を着けて素顔を隠している仲間に告げた。
「初っぱなから全力でいく。優しい世界にいたやつらだ……苦しませずに一瞬で殺すぞ……」
仲間達は無言で頷く。
俺も懐から仮面を取り出し……装着した。
「仮面の執行者! 出るぞ! ……クソッタレな運営どものリクエストだ! 秩序を正すぞ!」
静かに頷く仲間達とともに、崩壊するお台場のビル群から飛び出した。
**********
海まで目と鼻の先だ。
俺は襲いかかってくる生徒や警察官、騎士達を一蹴して進んできた。
高レベルの戦士達と戦ってもすでに俺達は次元が違う。
かすり傷一つ負うことが無かった。
いつしか襲いかかって来る者がいなくなった。
恵比寿達リーダー格も姿を表さなかった。
ーー静か過ぎる。
フルモンティが全員分の飛行魔法の準備に取り掛かる。
他の者は辺りを警戒している。
ーーアリスの耳が動いた。
「きゅきゅ!! きゅーー!」
「上から何かが来るぞ!」
真帆が素早く防御結界を展開した。
結界が俺達を包む。
強固な結界は周囲を破壊しつくす爆炎を防いでくれた。
「やっば! 今のギリギリセーフだったよ!! ーーオールレンジ! ーートリプルブースト!」
属性魔術が使えなかった真帆は補助魔法のスペシャリストに変化した。
パーティーの盾を作り、攻撃を補助魔法で支える強力な職業だ。
なぜか職業名は【女子高生】だけど……
その名の通り真帆は女子高生の格好をしている。
いつも着ていた制服とそんなに変わりばえがない。ただ、可愛らしい制服に変化した事を本人は大層喜んでいる。ちなみにルーズソックスを履いている。
武器はない。その両手には大きな腕輪をしているだけだ。
パーティーの中で最も攻撃力がない。でも、いなかったらパーティーの力が半減する位、真帆は重要な仲間だ。
「へっへーー! 藤崎、見た! 私の勇姿を! あ、後で褒めてね!」
ーーそうだな、よくやった! でも今はそれどころじゃないな!
爆炎を放った敵がゆっくりと空中から降りてきた。
俺達から20メートル離れた距離にいる。
「……予想以上にこっち側に来てるのか? あれで全滅すると思ったがな」
男が一人で喋り始めた。
リーダー格のようで貫禄がある。
ダークスーツに変な仮面をつけている。
無手だ。
「執行者……か?」
俺の問いに律儀に答えてくれた。
「ああ、そうだ。お前らを止めるために来た」
男はそのまま続けて喋り始めた。
「俺としては……お前らがおとなしく死んで、またゲームに参加してくれる事を祈っている。できるならば……穏便に死んでくれ。ゲームに戻るならどうせ復活する」
「ーー復活?」
「ああ、お前たちが反逆を続けたまま死んだら復活することはないだろう。……運営は気まぐれだから何とも言えないがな」
淡々と喋り続ける男。
男の後ろから同じダークスーツと仮面をつけた奴らが現れた。
男も入れば女もいる。妙に背が低い者もいたり、隠れている者もいる。
ーー怪しすぎるだろ!
「……執行者って何者なんだ?」
「あん、そんな事言えるわけねえだろ? 俺達がクソッタレな運営に消されるぞ?」
ーー嫌々なのか?
「あれだぜ? 時間稼ぎと情報を引き出すつもりなら意味ねえよ。俺はこれ以上喋らないし、喋れない。あの女の魔法で空へ行こうったって、俺達が追撃するのは目に見えているな?」
男はフルモンティに向けて指を差す。
「あ、あの女? 女として認められたのじゃ! わらわはセクシーな大人な女なのじゃ!!」
「あらあら、良かったですね。私よりチンチクリンですけどね」
「むっきー!!」
フルモンティと七海が珍しくじゃれている。
男はなぜか優しそうな目をしている。
「おい、そこの超いい女。ああ、お前だ。あらあら、って言っているお前だ。……お前は今幸せか? 辛くないのか?」
七海は不思議そうな顔で男を見た。
「あらあら、私はハーくんがいてくれたら幸せよ。あなたは何で嬉しそうで悲しそうな顔をしているのかしら?」
「……いや何でもねえ。幸せならそれでいい。……後悔はないはずだ。俺は後悔していない……」
男は一人ブツブツ言っている。
黒いスーツを着た10歳位の小さな女の子が突然男に抱きついた。
「え! まだ未練あるの! 私がいるじゃん! 浮気は駄目だよ〜〜!」
「うっせー、黙れポンコツ!!」
俺はどうしても男に一言言いたくなった。
「……お前ロリコン??」
「ちげーよ! 俺は清楚で黒髪ロングの美少女が大好きだよ!」
俺は小さい女の子を見る。
「小さいけど、黒い髪を綺麗に伸ばしてて清楚でとっても美幼女が隣にいるけど……」
女の子は俺にサムズアップをする。
「ああ、くそ! なんでこうなるんだよ!」
男のスマホから着信があった。
男は懐からスマホを取り出し誰かと話し始めた。
「ん…………ああ、分かった。とっとと始める」
盛大なため息とともにスマホを切った。
「はぁーーああ、くそ! どうせ止まるわけねえと思っていたがな……」
男は先走ろうとする仲間達を手で制する。
「……ここは俺が行く。お前たちも因縁があるだろうけどな。……いやだから行くなって! わかるよ? お前が行きたい気持ちも! でもちょっと待てって! なんでいつも言うこと聞かねえんだよ!」
男が仲間を無理やり下がらせた。
男だけ前に出る。
「……名乗らなきゃいけないんだよな。この世界のルールでは……それが力になる」
男は凄く嫌そうに俺を見て再度ため息を吐いた。
「はぁーー、どうせこの世界でも俺は敵役だったんだろ? まあしゃーないか。じゃあ行くぜ? ……苦しまず一瞬で死んでくれ。ーー召喚【魔剣ティルフィング】」
男が何もないところから剣を出した。
その剣は見ただけで強大な力を秘めているのがわかる。
呪われた禍々しい魔剣だ。
男はスーツ姿のまま構えた。
九段下さんが驚愕の声を上げる。
「え、勇者剣術!?」
男の覇気が大きくなる。
「俺はクールでニヒルなハードボイルド風の孤高のイケメン戦士! 最強の職業【クズ勇者】恵比寿達也だーーーー!!」
恵比寿の名乗りが海に響き渡った。




