イベント攻略?
「次のステージ開始まであと1日です。明日18:00から開始予定です。次のゲームも楽しんで下さい」
俺達のスマホに無機質なメッセージが届く。
俺は仲間達を見た。
抱きしめ合っている九段下とスザンヌ。
その二人に重なるように神楽坂達が泣きながら抱きついていた。
ちゃんと着物を着たフルモンティは悲しそうな顔をしている。
メイドとアリスはただ俺の横に寄り添ってくれている。
ーー全員体験したんだな……
「きゅ……、きゅきゅう……」
「ああ、少しだけ思い出せたな……」
「きゅきゅー、きゅきゅ?」
「この後どうする? そうだな……とりあえず今はみんな無事を喜ぼう」
「きゅ!」
メイドは黙ったままだ。
「…………」
メイドは俺の手を握ってきた。
無表情なメイドがひどく優しい笑顔とともに言った。
「……大丈夫だ」
俺たちは崩壊した城を後にした。
無事だった外車に全員乗り込む。
街にモンスターはいない。
膜は無くならない。
次のステージが明日開始する。
九段下さんは苦し気な顔をしている。
俺は静かな車内の中で一人呟いた。
「……拠点で食事をしながら今後の事を話しましょう」
俺たちはララポーティの映画館拠点に戻った。
いつも通りメイドとスザンヌが食事を用意してくれて、レストランで話し合いが始まった。
九段下さんはいまだ苦し気な顔だ。
俺たちは素直に勝利を喜べないでいた。
あの特別報酬のせいだ。
「みんな、特別報酬で何を見た?」
ぽつぽつと語りだす。
「……あれは過去なのか? お前らと仲良くなって……裏切って……」
「私たちは転移させられて……塔っていうのを攻略してた」
「わらわは……独りぼっちでずっと家にいたのじゃ」
「私はあきらと一緒に戦っていたわ。神楽坂さん達と……」
「きゅきゅーー、きゅきゅ、きゅきゅきゅーーい、きゅい……」
「アリスは俺と一緒にいたのか……そのあと俺を守って……」
「……ご飯を……春樹とアリスと……食べていた」
ーー俺の体験が一番長かったのか?
俺はみんなに俺の体験を話した。
みんな驚きの表情を浮かべていた。
そこまで長くあの空間に滞在していなかったみたいだ。
そして悪役令嬢をわかるのがメイドとアリスだけだった。
「悪役令嬢との約束か……世界を壊せ……か」
九段下さんはため息をつく。
スザンヌが九段下さんの肩を優しく撫でる。
「そう……このゲームを攻略するんじゃなくて、壊せって言うのね? でも攻略しないと始まらないわ……」
神楽坂達も頷いて同意する。
「そうだぞ春樹。攻略してレベルを上げて強くならないと勝てないぞ?」
俺は立ち上がった。
「そうです。俺たちは一緒にいました。過去か前世か平行世界かわかりません。でも一緒にいました。……アリスやメイドを見た時の既視感の説明もつきます」
「デスモンスターゲーム、難易度ルナティック、さっき見た体験と色々類似点はあります」
「仮定の話ですが、俺たちはもしかしたらずっとこのゲームに参加しているかもしれません」
「ずっと? なんなのじゃ、それは? とりあえず攻略に専念すればいいのじゃ!」
フルモンティはアリスを抱えてモフモフしている。
アリスも頷いている。
「あの空間での俺も……既視感を感じていたからです」
九段下さんが疲れた声で言った。
「色々この世界の事を考えるよりも、次のゲームの準備をした方がいいんじゃねえのか? どうせまた凶悪な難易度だろう……」
「そうだ。レベル上げは強くなる第一歩だ。春樹一緒にレベルを上げるぞ!」
メイドが高らかと声を上げる。
ーーおかしい?
「……攻略しても死んでも……またこの世界を繰り返すとしたら? 九段下さん、また悲しい事がたくさん起こりますよ?」
九段下さんが怒気をあらわに立ち上がった。
「ああ! うるせえよ! いいから攻略しろって言ってんだろ! 年長者の言う事聞けよ!」
隣のスザンヌは機械みたいに頷いている。
ーー顕現ダンジョンキラー。
俺はためらいもなく九段下さんを剣で貫いた。
「……は、春樹? 何すんだ! いてーだろ! あれ? 痛くない?」
九段下さんの表情が元に戻る。
俺はそのまま回転をして全員を切り裂いた。
全員が驚いた表情をした後、すっきりとした顔になる。
「……あれ」
「きゅきゅ?」
「わらわは一体?」
ーーやっぱり。ダンジョンの何かが俺たちに攻略を促していた。
九段下さんが呆けた顔をしている。
ちょっとイラっとした。
「九段下さん!」
「ん? ばっふっ!!」
俺はビンタを食らわした。
九段下さんがきりもみで宙に舞う。
ーーこれくらい大丈夫だろう。良い気つけになる。
「いいか! みんなよく聞け! 俺は悪役令嬢と約束をした! この世界をぶっ壊すって! 俺たちは監視されている。いまこの瞬間もだ! 低位のダンジョン憑依者が俺たちに取り付いていて全て把握してる」
俺はレストランから見える謎の建造物を睨みつけた。
「あそこに悪役令嬢がいる。あそこから力を何度も感じた」
「今のままじゃ駄目だ。レベル? スキル? スマホからアイテム購入? ポイント? ダンジョンに関わる物を使っちゃ駄目だったんだ」
「みんな自分の事を信じろ! 九段下! あんた勇者だろ! なんで元の世界の勇者の技を使わない?」
スマホの勇者スキルとは別物のはずだ。
九段下さんが驚愕の表情をする。
「あ、俺の勇者スキル……異世界のスキル……どんなんだっけ?」
ーーやっぱり。
「おかしいんだよ! レベルってなんだよ! スキルってなんだよ! みんな思い出すんだ!」
みんな真剣な顔で自分を見つめなおしてる。
「準備が出来てない? レベルが低い? これはそういう問題じゃない」
アリスがタブレットを出した。
「きゅ……、きゅきゅーー!!」
俺を鋭い眼差しで見る。
「ああ、そうしよう」
俺もスマホを出した。
メイドも躊躇なく出す。
みんなスマホを机の上に置いた。
「----顕現ダンジョンキラーー!!!」
俺はダンジョンキラーをスマホに叩きつけた。
スマホは砕け散った……
ーー砕け散ったスマホが再生する!?
スマホに虫みたいな足が生えてよろよろと逃げ出そうとした。
「----魔法剣フレア!!」
九段下さんが青い剣に魔法を通して振るう。
スマホ虫は二回目の死を迎えて完全に蒸発した。
九段下さんは俺にハイタッチを求める。
ーーボッチだった人間にはレベルが高い……
俺は軽くタッチをする。
九段下さんは勢いよく俺の手をはじいた。
「ハルキ!! ありがとな! やっと思い出したぜ!!」
晴れやかな表情には生贄の紋様が無い。
みんなを見ると紋様が消えていた。
アリスのドレスも溶けてなくなっている。が、新しいドレスを纏っている。
みんなも顔つきと姿が変わる
レベルが無くなる。
アイテムが無くなる。
武器が無くなる。
でも、俺たちは力を思い出した。
「ここはすぐにばれる! あいつらダンジョン執行者が来る! 移動するぞ! これは始まりだ! 俺達の戦いは今から開始するんだ! この世界をぶっ壊すぞーー!!」
俺達の本当の戦いが始まった。
各キャラの変化は次で出します。
俺達の戦いはこれからだ!エンドではないです。
ちゃんと続きます。
よろしくお願いいたします。




