約束
意識が覚醒する。
俺は目覚めた。
辺りを見渡すとどうやら教室のようだ。
「おい! 藤崎! 何ボケっとしてんのよ!」
豊洲真帆が俺の肩をパンチする。
ーー俺は何をしていた?
「…………ああ」
「ああじゃないでしょ!? なんなのこの状況は? いきなり真っ白になって先生たちも見当たらなくて……」
真帆の手にはタブレットが握られている。
「これには戦えって書いてあるし……」
「パーティー組まなきゃだね……ねえ、藤崎……もしよかったら……」
豊洲の声は生徒たちの悲鳴で遮られた。
「きゃーー!! 変な生き物が校庭にいるわ!」
「な、なんだあれ? 見たことない……」
「あれ、あれ、人を食べてない??」
「化け物だーー!! 逃げろーー!!」
クラスが騒然となる。
ーー俺は何をしているんだ? ここはどこだ? 記憶がおぼろげだ……
豊洲は友達に手を引かれて教室から出て行った。
恵比寿達也が俺の見る。
「けっ! 冷静ぶりやがってよ! てめえは化け物に殺されちまえ! みんなーー!! 俺は勇者だ! 俺に任せろーー!!」
ーー頭が痛い。視界がぼやける。
次の瞬間、俺は化け物を惨殺していた。
「レベルが上がる! これは強くなれるんだ! レベルアップで身体の傷が回復する! 行くぜ!」
俺は気分が高揚して殺戮を繰り広げていた。
ーーくっ、なんだこれは?
場面が学校の中庭へと移る。
「なんだよ……首狩りうさぎの群れか!」
高レベルモンスターの大群に襲われる俺。
「きゅきゅーーきゅ!!」
ピンク色のうさぎが首狩りうさぎに追われている。
「……敵じゃないのか? なら……」
俺はピンクうさぎと共闘を始めた。
ーーこれはアリスなのか? 声が全部聞こえない……また場面が変わる。
「ピンクうさぎーー!! 合わせろ!!」
「きゅきゅ!!」
大きな狛犬に乗った仁王像と激戦を繰り広げる俺たち。
やがてモンスターたちは俺たちの手によって消滅した。
「やったな! 俺たちボッチ同士で頑張ったな!」
ーーあのモンスター……駄目だ、頭が働かない。
「きゅ……」
「ピンクうさぎ!! くそ! 俺は強くなるんだ! こんなところで負けるか!」
追加のモンスターに殺されそうになる俺たち。
「タブレットのいう事なんて聞かねえ! 俺はこいつを守るんだ!」
俺は拳でタブレットを破壊した。
「うおぉぉぉぉーーーー!!」
バグまがいの力を発揮してモンスターを殲滅した。
ーーガラスの剣を生成した? なんでタブレットを壊した?
「これからもよろしくな! --!」
「きゅきゅーーきゅい!!」
俺たちは巨大な扉を開けた。
「お前らは弱い。私が強くする。ご飯を食わせろ」
メイドと朝食を食べている。
メイドと森を探索してモンスターを狩る。
ドラゴンを一撃で葬るメイドに尊敬の念を送る俺たちがいる。
「ふん、私は最強のメイドだ」
ーー頭の中で砂嵐みたいなものが起こって不明瞭になる。
「俺はクズ勇者だ!!」
「ハルキ!! 心配したぞ!」
「ハーくん、私とランデブーしましょう」
「ばっか! 藤崎は私と行くの!」
恵比寿が床に転がっている。
3人娘が死闘を広げている。
ーー大切な事がわからない。なんでーーがいないんだ?
「ういーす! 今から俺たちはお前らの敵だぜ! よろしくな!」
チャラい男がマイク片手に立ちふさがる。
ーー面影が九段下さんに似ている。
「開幕の花火よ!! ----火炎球!!」
美熟女なエルフが魔術を行使する。
大きな火の玉が俺たちに襲いかかる。
戦争が起こったみたいに大勢の人とモンスターが争っている。
「死ぬ気で戦うぞ!! あいつらに見せてやれーー!!」
凛々しい神楽坂が大声で叫ぶ。
ーー俺はどこだ?
「来たか……私が相手だ!!」
メイドが俺の前に立ちふさがる。
「わらわの出番じゃ!!! メイトメアバージョンじゃ! もう戦うしかないのじゃ……」
フルモンティが空を自由に飛び回り、俺たちと対峙する。
「儂を倒せるかのう? ハルキよ」
クズ師匠が俺たちの街を破壊する。
ーーどこだ! どこにいる! --はどこだ!!
大きな宮殿にいる。
俺は一人ボッチだ。
ピンクうさぎもいない。
メイドもいない。
九段下も美熟女もいない。
3馬鹿娘もいない。
フルモンティもいない。
ーーなんでだ?
「おほほほーー!! よくぞ来ましたわ! ハルキ! それでこそわたくしの好敵手ですわ!」
俺の前に悪役令嬢がいる。
ーーあ。
俺と悪役令嬢は激戦を繰り広げた。
「なんで、なんでお前と戦うんだよ! みんなが犠牲になってまで……」
「……わたくしとハルキの宿命ですわ!」
視界が暗転する。
頭が痛い。
俺は誰だ?
あいつは誰だ?
悪役令嬢の胸に俺の……剣が刺さっていた。
「……………………で…………そう……………約束…………忘れない……で」
俺は慟哭を上げていた。
「……忘れない! 必ず、必ず叶える! 何があろうと俺の心に刻み込む!」
俺は自分の剣で自分を刺した。
怒りの形相のまま生き絶えた……
頭の中でガラスが割れるような音が鳴った。
ーー約束。悪役令嬢。忘れるな。叶える。俺は何をすればいい?
ーー思い出せない。
ーー俺は。
俺は壊れた城内に立っていた。俺の仲間たちも立ち尽くしている。
頭をフル回転させる。
ーー俺は何を見ていたんだ? 過去? 記憶? 断片的過ぎてわからない……
顔が濡れていることに気が付く。
俺は……涙を流している。
止まらない。
心が壊れそうになる。
俺はみんなを殺したのか?
なにが起こったんだ?
これが特別報酬だと?
ふざけるな!!
(…………約束を……思い出して……わたくしは……まだ囚われていますわ)
あの声が頭の中に響く。
急速に心が落ち着きを取り戻す。
ーーそうだった。俺は身体に刻み込んでいる。
思い出せ!
「ーー顕現【ダンジョンキラー】……」
俺はダンジョンキラーを自分の腹に刺した。
ダンジョンキラーが俺の中にある【何か】を壊す。
痛みはない……
爽快感すらある。
頭のモヤがかかっていた部分が少しだけ晴れる。
俺の頭にある言葉が浮かんだ。
全てじゃない。でも少しだけ思い出せた……
『……このふざけた世界を……次で……壊しておしまい!』
ーー世界を壊す? そうだ世界を攻略するんじゃない…………世界をぶっ壊すんだ!!
ーーあいつらのオモチャになるな! 言いなりになるな!
ーー世界に反逆しろ!!




