激闘! 俺の本気
「俺の本気だあ? 今更何言ってんだか? そんなボロボロの身体で何ができる? 限界見極めろってんだよ。もういいから死ねよ」
フルモンティの姿で喚く得体のしれない者。
ーーこいつは憑依者だ。今ならわかる。ダンジョン運営上位種族だ。
「…………」
「あん、聞こえねえよ! こっちはデスマーチなんだよ!」
俺は身体に刺さった針を抜いた。
回復魔法を身体にかける。身体が淡く発光する。
針で出来た穴がふさがっていく。
右腕が無い。
ーー無ければ作ればいい。
「----生体生成!」
右腕からガラスが飛び出る。すぐに腕の形に変わる。
透明のガラスの腕が出来上がった。
しばらくするとガラスの腕が肌色になる。
俺は感触を確かめる。
ーー問題ない。
「……なんだ? まあいいか。死ね」
フルモンティもどきの魔術が俺に襲いかかる。
あの見えない魔術だ。
ーー俺はダンジョンスレイヤー。
ーー俺はダンジョンを狩りし者。
ーー俺にとってあいつは獲物だ。
魔術の強烈な一撃が俺の前で爆発する。
瞬時に生成した盾が砕け散った。
「あん、俺の魔術が止められただと? レベル500近くあるんだぜ? バグか?」
俺は一瞬のスキをついて間合いをゼロにした。
「----顕現【ムラマサブレード】!!」
俺の右手に妖気を漂わせる刀を握る。
神速の突きをフルモンティもどきに食らわす。
「……遅いぜ」
フルモンティもどきは横っ飛びで躱したが、背中から俺の刀が突き刺さった。
ーー俺の武器はすべてだ! 避けるなら空間をずらす。
俺は渾身の連撃をする。
刀が空間を捻じ曲げて至るところから切り刻む。
「くそっ! うぜえな。 --障壁展開」
全ての剣撃を障壁で防御するフルモンティもどき。
初めの一撃で空いた腹の傷も回復してきた。
「消えてなくなれ! ----固有魔術エンシェントフレア!」
空に光が集まる。
光が巨大な質量を伴い、俺に向かって雨のように降り注いだ。
「----顕現【イージスの盾】!」
俺と仲間たちの前に傘のような巨大なバリアが生成される。
傘から優しい回復の力が流れ出て仲間たちを癒す。
傘は凶悪な光の雨を防いでくれる。
「----魔法リバース!」
傘に当たった光が溜められていく。
やがて光が大きくなりフルモンティに襲いかかった。
凶悪な光がフルモンティの障壁を壊す。
「ああ、面倒くせー!! 切り刻んでやる」
フルモンティは間合いを詰めた。
ーー見える。さっきは全く見えなかったに……
フルモンティは槍を空間から出して俺に連撃を繰り出した。
「----生成【赤い刀レベル10】」
二刀流で迎え撃つ。
俺たちは高速で動きながら剣と槍の乱舞を繰り返す。
あまりの速さに風切り音が遅れて響く。
「----生成【赤い鎧レベル10】」
槍の攻撃で破損した鎧を新しく着け替える。
高レベルの鎧は身体能力も上げる。身体が軽くなる。
槍の速度が上がる。
「あぁーー!! 雑魚が粋がるなーー!! --多段切り! --稲妻突き! --ムソウ5段! ゲイボルグ!! --ダークフレア! --サンダーボルト!」
魔術と複合して連撃をするフルモンティもどき。
俺も魔法を複合して対抗する。
「--五月雨突き! ーー残像切り! ーーカスミ二段! ーー十字切り! --ディストラクション! --ワームホール!」
お互いの一撃一撃が致死の攻撃。
死と隣り合わせの乱舞が続く。
二人の身体がボロボロに切り刻まれる。
ーーまだまだ。
「----生成【無限の彼方】」
俺の周りから赤い刀が生成される。
刀が浮かび上がってフルモンティに切りかかる。
生成が止まらない。
10本の刀が20本なり、いつの間にか100本の刀が衛星軌道のように空を飛びフルモンティもどきを翻弄する。
槍と魔術で対抗し続けるフルモンティもどき。
「あーーっ、面倒くせーー!! ----【血の呪い】」
自ら首を切り裂くフルモンティもどき
大量の血しぶきが飛び出る。
止まらない。
血が辺り一面に付着する。
俺の刀や鎧、宙に浮いている刀にも血が付く。
「死ねや! ----血の爆炎!!!」
血が小刻みに震える。
小さな破裂音がした。
それをきっかけに血が踊り出して爆発を起こした。
俺たちがいた周囲全体が尋常じゃない威力の破壊の連鎖が起こる。
「ぎゃーー!! これ自爆だから痛んだよ!!」
床も破壊され、俺達は下の階に落下した。
ボロボロになりながらもどうにか着地をする。
俺の身体は傷だらけだ。
フルモンティもどきも傷だらけだ。
「はあ、はあ、くそ、そろそろ回復だ」
フルモンティもどきの傷が一瞬で消えた。
俺の傷も淡い光とともに徐々に回復していく。
「LPがヤバイな……なんだ? てめえのその力は? さっきと全然違うぞ?」
俺は新しい鎧と刀を生成する。
「…………」
フルモンティもどきの顔が苛立ちで歪む。
「あん、さっきから無視すんな、こら。……次で終わらしてやるよ」
フルモンティもどきが宙に浮かび上がる。
「------固有魔術【夜の領域】」
辺りが一面暗くなる。
周りの景色が変わる。空に月が見える。
串刺しにされた人間たちが墓標のように突き刺さっている。
「これで俺の力が最大限発揮されるぜ! ----固有魔術【血の槍】」
フルモンティもどきが血で出来た巨大な槍を構える。
「死ねーーーーっ!!」
血を撒き散らしながら、強大な力を秘める槍が俺に襲いかかる。
これは湾岸地域一体がクレーターになる威力だ。
でも。
ーー俺の本気を見せるって言っただろ?
「----真心眼」
「----顕現【ダンジョンキラー】」
俺は叫んだ。
「--俺は塔を殺す者だ!!!」
ーーダンジョン種族を殺すことに特化した職業だ!
俺の手には俺の背丈の2倍はある大剣が顕現した。
俺はダンジョンキラーを振りかぶった。
俺目掛けて飛来する血の槍とダンジョンキラーがぶつかる。
一瞬、拮抗のしたあと、凄まじいエネルギーの衝撃波が辺りを襲う。
ダンジョンキラーが......血の槍を打ち砕く!
「え、マジで……」
「うおぉぉぉぉぉーーーー!!」
そのまま俺はダンジョンキラーを思いっきり投げつけた。
フルモンティもどきの身体の中心から赤い光が見える。
ーーそこだ!
ダンジョンキラーは流星となってフルモンティもどきに突き刺さった。
「ぐぼ……か、回復を……回復……回復……できない!? くそ、この剣のせいか! だが、まだLPは残ってる。……撤退だ」
ーー殺しきれなかったか!
闇の固有結界が晴れる。
俺はダンジョンキラーを顕現させたからか……身体が動かない。顕現させた負担が一気に吹き出した。
ーーまだ俺には最高位武器は早かったのか……逃がすか……
その時、ピンク色の影が見えた。
言霊からなにかを受け取ったアリスがカン高く泣いている。
「…………きゅ、きゅ、きゅきゅっきゅ、きゅーーーーーー!!」
目にも止まらぬ速さでピンクのうさぎがフルモンティに迫る。
フルモンティがダンジョンキラーから無理矢理逃れようとする。
「……ああ、くそ痛え……絶対てめえら許さねえ。塔に来たら覚えてろ…………そんなウサギごときじゃ俺にダメージ入れられねえよ」
アリスは首を傾げる。
顔の片側の広角がつり上がる。
短い手を首に持っていき、首を跳ねる仕草を取った。
「きゅい? ーーーーきゅーきゅっ!!!」
アリスの身体が震える。
アリスが2人になる?
3人、4人、5人............数えきれないアリスが周囲を埋め尽くした。
「「「「きゅきゅきゅきゅきゅきゅーーーー!!!」」」」
一斉にアリス達がフルモンティもどきに襲いかかった。
一撃一撃はいつもよりも鋭い。
魔術も強力だ。
早すぎて目で追えない。
「や、やめろ......俺は......せっかく管理職に......」
アリスの魔術が身体を押さえる。
アリスの爪が首を刈る。足を刈る。腕を刈る。
フルモンティもどきは再生ができない。
「きゅっきゅきゃーい!!」
アリス達が消える……
沢山のアリス達が一つになった。
アリス達が消えた後には、全身細切れになったフルモンティもどきがあった……
ーーこれは……完全に殺しきったか!?
「きゅい!」
動けない俺をアリスが風でフルモンティの元へ移動してくれた。
俺の血が必要だって言ってたな……
足元にはフルモンティの残骸がある。
俺は動かない身体を無理矢理動かす。
俺の全身から血が吹き出した。
フルモンティの残骸が血を浴びる……
残骸が蠢く。
血を求めるように地面を這う残骸。
だんだん人の形になってきた。
足が再生する。
太ももが再生する。
胴体が再生する。
両腕が再生する。
頭が再生する。
人の身体に戻った……
ーーやったか?
フルモンティが目をゆっくりと開ける……
「……わらわは……戻って……来れたのじゃ……」
何故か10歳位になってしまった全裸のフルモンティが泣きながら俺に抱きついてきた!
ーーい、痛い。
俺は出血し過ぎて気を失いそうになる……
「きゅーーーー!」
アリスがフルモンティを吹き飛ばし、俺に回復魔術をかけてくれる。
「あっ! あそこだ! 春樹ーー!」
九段下さん達と回復したメイドが駆け寄ってきた。
ーー良かった……みんな無事だ……
アリスは俺の横にいてくれる。
心が安らぐ。
ーー今はこのままで……
『裏ボスモンスター討伐確認いたしました。湾岸エリアのイベントレベル0モンスターデスゲームを終了いたします』
『サクリファイス・ナインの皆様には特別報酬を差し上げます……自分を振り返って下さい』
ーーえ!?
突然、辺り一面が真っ白になった。




