クラス追放
スマホでニュースを見る。
どこの番組も緊急特番を組んでいる。正確な情報は出ていない……
日本中のとある地域が膜に覆われたこと、東京湾に巨大な建造物が出来たこと。
膜から出れないこと、電波は届くこと。
膜が覆われた地域は新宿、お台場、鎌倉、博多、札幌……
面積的には小さいが多数の街が膜に覆われているようだ。
日本中が混乱している。
ここお台場も膜に覆われてしまった地域だ。
さっきの緊急警報の画面は……同じ画面を移している。
あ、勝手にアプリがダウンロードされた。
アプリを開くと少し情報が足されていた。
『拠点に戻り、職業と武器をゲットしてください。今から1時間後18:00から開始いたします』
職業? 開始? 武器?
拠点ってどこだ?
ここはお台場のど真ん中。臨海公園や商業施設が沢山ある、俺たちのお台場高校は海沿いにある。臨海公園駅が一番近い。
街にいる人も困惑の表情だ。
観光に来ている外国人に至っては状況がわからないのか、普通に観光している。
俺のスマホがピコーンと鳴った。
『藤崎春樹:所属拠点お台場高校2年A組』
俺は来た道を引き返し、学校へ向かった。
ーー状況はわからないけど今は従った方がいい。俺の勘が告げる!
学校に向かっている途中、多数の生徒とすれ違った。
「なんだろーね、これ?」
「映画の撮影?」
「馬鹿らしーから家でモントレしよーぜ!!」
「俺、学校行くよ……」
「うーん悩むな」
俺は生徒達を抜き去り、教室へ戻った。
クラスメイト達はちらほら戻ってきている。
みんなこの状況について話し合っている。
お台場の外から来ている学生も多い。すでにお台場を出てしまった生徒も多いだろう。
リア充恵比寿君の周りにクラスメイトたちが集まっている。
「すっげー! 恵比寿君、勇者じゃん!!」
「かーー、俺なんて盗賊だよ!」
「職業選んだら机の上に武器が出てきたぞ!」
「私こわーい!! 危なくなったら恵比寿君助けてね!!」
神楽坂や豊洲、東雲も戻ってきた。
「お父さん達ダイジョーブかな??」
「あら、わたくしは戦闘魔術師」
「……ふん、侍か」
俺もスマホを確認する。
スマホが点滅をしている。
『拠点に到着確認出来ました。あと30分後にイベントが起こります。お早めの準備を推奨します』
ーーイベント?
俺は窓から街を見る。
困惑していた人々はスマホに書かれていた拠点に移動する。もしくは無視して家へ帰宅する。
俺は再びスマホに視線を落とした。
『藤崎春樹の職業……「」です。武器は有りません』
ーーああ、そうだな。
俺はあまり驚かない。
俺は徐ろにロッカーを開けた。
掃除用具が入っている。モップを取り出した。俺の武器だ。
「ぷぷっ、藤崎を見ろよ! 武器がモップだぜ!」
「あいつチラッとスマホ見たけど無職だぜ!!」
「ざまあみろだな、はは!!」
クラスメイトはゲームみたいなイベントが起きてはしゃぎ気味だ。
そんな中、神楽坂だけは真剣な表情をしている。
どう考えても異常な状況だろ……
最悪この膜から出れないんだぜ?
でも俺はどうせボッチだ。
仲間もいない。クラスメイトは仲間じゃない。
何が起きても俺は自分の力で頑張るしか無い。
時間がゆっくりと過ぎる。
流石に生徒達も緊張してきたようだ。
豊洲が俺に話しかけてきた。
「ね、ねえ、藤崎雰囲気変わった??」
いや、俺は変わらんぞ? 今でも弱気な……
弱気???
俺は弱気なのか??
「あ、いや、多分変わっていないぞ」
豊洲に適当に返事をする。
「そうなの? うーん、何かさっきと違う気がする?? うん、藤崎のくせに生意気だーー!」
突然俺を蹴る豊洲。
俺のわき腹に蹴りが入る。
もちろん痛い。でも俺は何も言わない。
「…………」
「ばっか! 何で避けないのよ!」
ーー俺が悪いのか?
とりあえずそろそろ時間だから無視をしよう。
豊洲が何か言いかけた時、スマホがピコーンと鳴り響いた。
『準備時間終了。それでは皆様準備はいいですか? レベル0イベント【デスモンスターゲーム】が開催されます』
『ルールは簡単。モンスターを倒してください。全モンスターを倒せたらそのエリアは終了となり次のステップに進みます。また、モンスターを多く倒した人にはご褒美が有ります』
ーーモンスターの殲滅? モンスター??
『エリアにいながらも、開始時間まで拠点にたどり着かなかった人は残念ながら……モンスターに変化しました。モンスターは拠点には入って来れません』
ーー人が化け物になる……だと?
『また、拠点の機能を発揮させるためには生贄が必要です。この後、生贄アンケートを取ります。選ばれた生贄はこのイベント中、拠点の中に入れません。誰も選ばれなかったら全員拠点に入れません。それではアンケートスタート』
ーー生贄だと。
その時恵比寿は叫んだ。
「藤崎春樹ーー!!」
憎しみの目で俺を見る。
取り巻きのリア充共も俺を白い目で見る。
俺は生徒達の視線に晒された。
長い沈黙が起こる。スマホを無言で打つ生徒達。俺は動くことが出来なかった。
『はい、終了です。お台場高校2年A組の生贄は【藤崎春樹】です』
俺の身体が強い不思議な力によって支配される。
教室の外まで吹き飛ばされた。
豊洲が青い顔をしている。
神楽坂が怒号を上げている。
東雲は冷たい目をしている。
教室の扉が閉まった。青い粒子が扉の周りを漂っている。
周りを見ると、生贄にされた生徒達が同じように尻もちをついていた。
怒っているもの、泣いているもの、呆然としているもの、この状況をバカにしているもの。
様々な反応だ。
俺は……ただモップを手に取って、構えた。
獣の唸り声が聞こえる。
ドタバタ足音が聞こえる。
階下から悲鳴が聞こえる……
足音が階段を登りきった。
唸り声が聞こえる。
「グルルルゥゥゥ……」
そこに現れたのは化け物であった。
獣と呼べない……
筋肉隆々な人の身体があり、頭が狼の頭を被っている。
いや違う、あれは本物の狼の頭だ。
人狼。
元人間か……
人狼は近くにいた生徒を強靭な爪で切り裂いた。
「ギャーーーー!!!」
悲鳴が起こる。
拠点の中から外を覗き込む生徒達。
反対側の階段から人狼が続々現れた。
阿鼻叫喚の地獄絵図が俺の前で起こった。
俺は……それでもモップを構えた。
やがて俺に人狼が襲いかかって来た。
俺はモップの部分を後ろにして、槍の要領で高速の突きを放った。
モップから伝わる肉の感触。
モップは人狼の口から貫通して飛び出した。
俺の胸が高鳴る。
俺の鼓動が早くなる。
力が湧いてくる。
俺は叫んだ。
「うおおおおぉぉぉーー!! ご、ごほ、ごほ。久しぶりに声出したらむせちまったよ。化け物だぁ? 上等だ! 俺が殺る!!」
廊下のガラスで映る俺の姿。
前髪が邪魔だ。長い前髪をバンドで止める。
ギラギラした目は赤くなっている。
猫背だった俺の体型が、綺麗な構えによって美しい姿になる。
俺の殺戮が開始する。