一夜明けて
パーティーが結成したその夜、俺達は色々な疑問を残しつつも早めに寝床に着くことにした。疲れが一気に出てきた。
「わらわは春樹と一緒に寝るのじゃーー!!」
フルモンティは神楽坂達に連行された……
俺はアリスと一緒に映画館の中で布団を敷いてぐっすり眠りに着いた。
翌朝7時、俺達は起床してレストランで朝食兼作戦会議の続きをすることにした。
朝食はスザンヌさんとメイドが作ってくれた。
「じゃあ早速今後のことを話し合おうか?」
俺はみんなを見渡した。フルモンティの前で視線を止める。
「……いや、その前に、フルモンティ……お前は何者なんだ?」
フルモンティっていう名前自体おかしい。
寝ぼけ眼のフルモンティがあくびをしながら答える。
「んん、なんじゃ? 何者とは? ……わらわは追い出されたのじゃ……」
フルモンティはミルクを飲みながら俺達に話し始めた。
「あーー、もう言っても大丈夫だと思うのじゃ……。わららは13匹目のSTMじゃ……」
「え、マジで!」
「きゅ!」
「あいつらわらわをハブにして追い出したのじゃ! 憤慨ものなのじゃ!」
ーーいや、ちょっとまて、STMって事はこの状況の説明が出来るかもしれない。
「モンスターってなんだ? STMってなんだ? この頭がおかしいゲームはなんだ?」
フルモンティが頭を抱える。
「……わらわはずっとハブなのじゃ。詳しい事は誰も教えてくれなかった。だから、この世界のこのデスゲームについてはよくわからんのじゃ。わらわは元いた世界から召喚された存在なのじゃ」
「元いた世界?」
「そうなのじゃ。わらわは吸血鬼が蔓延る世界にいた女王吸血鬼なのじゃ! 偉いのじゃ!」
九段下さんが細い目でみる。
「吸血鬼? 俺のいた異世界では討伐ランクSSSの超大物だぞ!」
ーーあんたも一体何者だよ!
「この世界に召喚される時に全力で抵抗したら、力がかなりなくなってしまったのじゃ……」
ーーそれでもあの強さか。
「了解、フルモンティありがとう」
「なのじゃ!」
フルモンティはアリスを遊び始めた。
「えっと、じゃあ次は九段下さん」
「ん、俺がなんだ?」
「いや異世界ってなんですか!?」
九段下さんが遠い目をする。
「俺が18歳の頃だ。子供が道路に飛び出してそれを助けようとしたら俺がトラックに轢かれた。そしたら異世界へ転移していたんだ。ざっくり話すと異世界で勇者をやっていて、魔王とかをぶっ飛ばしていた」
ーー言葉もない。
「どうにか現実世界に帰ったんだがな、誰も異世界に言った事を信じてくれなくてな。結局スザンヌだけは信じてくれて俺についてきてくれたんだ」
九段下さんがスザンヌさんを笑顔で見る。
「……あんた、この世界の常識が全く無かったもの。危なっかしかったのよ」
スザンヌさんの顔が赤くなる。
「俺もかなり弱体化してるぜ!」
ーー偉そうに言うなよ!
「次は神楽坂達とスザンヌさんだ。生贄になって変化はあったのか?」
4人は顔を見合わせる。
「……紋様が出ていた」
「あら、よくわからないスキルがありましたわ」
「あんまり変わらないよ!」
「……昔の力かどうかわからないけど、魔術の力が大幅に強化されたわ」
ーー変化はあったな。生贄は特殊な力が得られるのか。
「了解。4人は強くなったとしてもレベルが低いから当面はレベル上げに専念しよう」
各々返事をした。
「じゃあ次だ。ポイントの分配をしようと思う。ポイントでスキルを買うことによって強化が出来る。俺達はSTMを狩ったから高ポイントを保有している。それでみんなで相談しながら有効なスキルを買おう」
メイドが深く頷く。
「……まさか私の拳で破れないスキルがあるとはな」
身を持って経験した者の言葉は重い。
俺は続ける。
「今後の事だけど、スマホを確認しながら言うね」
スマホを机の上に出す。
モンスター数:5430/28322
STM:3/12
「モンスターがかなり減ってきた。人間立ちも強くなってきてSTMの数も減ってきた。このまま待てばモンスターも全滅するかもしれないけど、俺達は人間からも襲われる。強くなる必要がある」
「可能な限りモンスターを倒してレベルとポイントを稼ごう」
「そして、話しが通じそうな人間グループと対話ができればいいんだけどね……」
みんなの顔が曇る。
難しいよな……
「あと、動画を見て強いパーティーをチェックしておこう。アリス頼む」
アリスはタブレットを取り出した。
大きいタブレットならみんなで見れる。
動画サイトみたいに動画が一覧になって一杯でてきた。
主に場面と人を中心とした動画多い。
検索機能とランキングがある?
俺はランキングをタッチした。
すると、個人ランキングとパーティーランキングが出てきた。
個人ランキング1位になんと俺の名前がある……
他にもアリスやメイドが上位にいる。
アリスは俺の動画を勝手に再生した。
すると、俺の戦闘動画が始まった。
人狼戦、師匠戦、STM戦……、全ての戦いの動画がある。
「これは厄介だな……、手の内がバレるってことか……」
九段下さんが動画を観ながら呟く。
「そうですね……、でも俺達も他のパーティーをチェックできる訳ですし……」
「きゅきゅ!」
アリスがパーティーランキング画面をタッチした。
パーティーランキング
1位 2年A組勇者連合
2位 オートマティックガールズ
3位 湾岸警察署
……
……
俺は2年A組勇者連合の最新動画を再生をした。
場所はお台場にあるショッピングセンター【ダイバシティ】前。
画面一杯に巨大なモンスターが翼を広げている。
漫画やアニメでしか見たことがないドラゴンだ。
巨大なSTMは20メートルを超えているだろう。
唸り声を上げて威嚇をしている。
引きの画面になった。
これが恵比寿率いる2年A組勇者連合か……
ダイバシティ前の道路で綺麗な隊列を組んでいる。
その数は……500人はくだらない。
学生だけではなく、鎧を着ている騎士みたいな者も多い。
隊列の先頭に1人の学生と1人の騎士? がいる。
音声が出てきた。
学生は恵比寿だ。
緑色の鎧を着た一際目立つ騎士が恵比寿に話しかけている。
「達也君! こいつはレッドドラゴンだ! 討伐ランクS級の大物だ!」
恵比寿は不敵に笑う。
「あせんなよ、レオン。俺達は勇者だろ? お前と俺が入れば怖いものなんてないだろ?」
恵比寿の身体から灰色の闘気が流れる。
「そうだったね……、緑の勇者の僕と灰の勇者の君がいて……」
レオンといった人物が後ろを振り向く。
「聖女セーラ! 賢者ミミ! 剣聖ナディア!」
3人の女の子が媚びたように返事をする。
恵比寿も後ろを振り向く。
「剣聖モコ! 賢者エリ! 聖女アイコ!」
恵比寿の取り巻き達が甘い声で返事をする。
「よし……、行くぜーー!! 俺は灰色の勇者、恵比寿達也だーー!!」
「「「「うおぉぉぉぉーーーー!!」」」」
恵比寿の軍団がレッドドラゴンを蹂躙した。
動画はそこで終了した。
レストランの空気が固まる。
そんな中、九段下さんが驚いた顔をしている。
「……アレフガル帝国最強の緑の勇者レオンハートと取り巻き達」
九段下さんは考え込んだままだ。
アリスの様子もおかしい。
「きゅきゅーー!! きゅききゅきゅーーい!!」
目を真っ赤にしてひどく憤慨している。
俺はアリスを膝の上に乗せてゆっくり撫でてあげる。
少しずつアリスは落ち着いてきた。
帝国と何か因縁があるのかもしれない……
フルモンティがいきなり叫びだした。
自分のスマホで勝手に2位のパーティの動画を見ている。
「ぎゃーーーーーー!! こ、こいつらこの世界に来ちゃったのじゃ! やばいのじゃ! やばいのじゃ! わらわの世界の魔女狩りっ娘! 【機械乙女】たちじゃ!!」
チラッと、動画を見ると、凄く綺麗な子が機械の身体で戦っている。
モンスター達を機械の腕で引きちぎっている……
どうやら俺達以外のパーティーも人外揃いのようだ……
敵になるか味方になるかわからない。
今は俺達の強化を最優先にしよう。
俺達は動画の事は一旦置いといて、ポイントによる強化とレベル上げをすることにした。




