ララポーティ
3人娘が俺の元へ全速力で駆けつけてくる。
アリスは驚いて俺の後ろへ隠れた。
ーーまた面倒な時に面倒な奴らが来たな……
「はあ、はあ、はあ、は、春樹……。無事だったか……。良かった」
「……ちょっと、さち! 早いよ!」
「あらあら、ハーくんだぁ」
ーーん、なんで俺の心配をしているんだ?
「お前らなんでこんなところまで来た? お台場からはだいぶ距離があるだろ?」
息を整えた神楽坂がゆっくりと喋る。
「……教室は恵比寿が支配した。私は……春樹が生贄になって……心配で追いかけて来た!」
「ん~、わ、私はさちが心配だったからよ! あ、あんたもちょっと心配だったのよ!」
「あらあら、わたくし達はカップルですよ。ハーくんに会いに行くのは当たり前じゃない」
ーー理解が追い付かない。
こいつらは俺を無視したり、いじったり、利用してきた奴らだ。
この状況で俺を心配になって?
意味が分からないが……生贄の俺をどうこうする気配は無い。
「俺の心配をしたのはわかった。恵比寿がクラスを支配? なんだそれ?」
神楽坂が質問に答える。
「今の恵比寿は……私より強い。私たちは春樹を追うって言ったら追い出された……」
ーー恵比寿が? 神楽坂は俺よりも強かったんだぞ? 特殊な職業でもついたか?
3人を見る。泣きそうな顔をしている。
こいつらは生贄である俺を追って、危険な街に飛び出した。
ーー過去の事は色々あるが、今は信用してもいいだろう。
「……色々腑に落ちない感情もあるが、今は考えないでおこう」
3人娘がいきなり土下座をする。
ーーええ!!
アリスの目が光る。
「春樹! 今まですまなかった! どうしても素直になれなくて冷たい態度をとってしまう自分がいた……。この状況で気づいた! 私の過ちを許してくれ!」
「私もいつも強く当たってごめん! あんたが何もしないのをいい事に蹴ったり殴ったり……かまってほしかったのよ!」
「あらあら、わたくしたちは一生添い遂げる仲よ……。でも仮面カップルなんて回りくどい事をしてごめんなさい。これからは正式に付きあいましょう!」
ーー七海だけなんか違う!
神楽坂と真帆が七海を罵倒している。
「お前抜け駆けは無しって言っただろ!」
「ななみん、ずるっ子だ!」
「あらあら、ごめんあそばせ」
アリスが前にでる。
「あ、可愛い!!」
真帆の顔がほころぶ。
アリスの口角が不敵に上がる。
「きゅっきゅっきゅっきゅっきゅ!」
上から目線で3人を見下ろす。
胴に入っているその姿は貫禄がある。
「な、なんだこのうさぎは……」
見下ろした後アリスは俺の胸に飛び込んできた。
「きゅ!」
「あ、ああ、よしよし」
撫でろ! って要求されて俺はアリスを撫でる。
「むきーー! なんか悔しい!」
「くっ!」
「あら、この糞うさぎが」
ーーってこんなことやっている場合じゃない。
「お前ら3人の心意気はわかったけど、今は時間が無い! 俺はすぐにララポーティに行かなければならない」
黙っていたメイドが口を開く。
「さっさと行くぞ。人間どもも強くなっているはずだ。何が起こるかわからん」
ーー時間が惜しい!
「お前らレベルは?」
「28だ」
「26だよ!」
「33ですわ」
ーー連れていけないレベルじゃないが……どうする?
俺はアリスとメイドを見る。
俺に任せるようだ。
「わかった。ついてこい。だが、俺たちはお前らよりもレベルが高い。基本置いてけぼりになると思え、ほら俺の番号だ。はぐれたら連絡しろ」
3人は嬉しそうに立ち上がる。
「うおぉぉぉーーーー!!」
「やったーー! 連絡先ゲット!」
「ふふふ……」
「アリス! メイド! 全速力で行くぞ!」
「きゅ!」
「了解だ!」
俺とアリスとメイドが飛ぶように走り始めた。
「ええーー!! 早すぎだよ!」
「くっ! 追うぞ! やっと会えたんだ! ここで逃がすな!」
「ふ、ふふふ!」
3人も俺たちの後を大きく遅れながらついてきた。
豊洲にあるララポーティは巨大なショッピングセンターだ。
九段下さんの電話では生贄が襲われているところを保護して、魔物と人間から逃げ回っているところだった。
1階にいるとしか聞けなかった。
俺とアリスとメイドはショッピングセンター1階に突入した。
神楽坂たちは後ろの方でモンスターと戦っている。
ーーそんなに数が多くない、大丈夫そうだ。とりあえず九段下さんたちと合流するまで放置だ。
1階に入った瞬間、一斉に人間の目が俺たちに向けられた。
数は20人ほどいる。
「あーー! こいつらも生贄だ! 紋様がある!」
「反応無かったぞ? なんかのスキルか?」
「正龍様に捧げるんだ!」
「正龍様万歳!」
ーーこいつらは生贄を人と見ていない奴らか。正龍様?
俺のスマホから通知が来た。九段下さんからだ。
『1階の奥にあるレストランで隠れている。ここの人間は強いから気をつけろ。特に正龍ってやつに』
ーー奥か。
アリスとメイドにメッセージを見せる。
二人は頷いた。
「おらーー!!」
「----ファイアーセカンド!」
「----連撃弓!」
「----魔人剣!」
以前戦った人間よりも格段に鋭い攻撃が飛んできた。
アリスが風の魔術で対抗する。
俺はガラスの短剣を生成して、黒い刀と二刀流になる。
「春樹! 雑魚は任せろ! 私は九段下の顔がわからん。あとから追う!」
俺たちはアイコンタクトをして二手に分かれた。
ーーメイド、頼んだぞ!
俺とアリスはブランド店が立ち並ぶ通りを駆け抜けた。
*******
「おい! 2匹逃げたぞ!」
「追え! 正龍様への貢ぎ物だ!」
こいつらは人を人として見ていないのか?
状況が人を変えさせるのか?
生贄とはなんだ?
私は誰なんだ?
私の中で疑問が渦巻く。
ただわかることがある。
ーー春樹とアリスといると暖かい気持ちになれた。
ーー初めて会った気がしない。
ーー仲間……そう、仲間だ。
下品な顔で男たちが近づいてくる。
「へへ、役得だぜ!」
「自分から残ってくれるとはな!」
ーークズに人権は無い。
「お前らはここで死ね」
私は両手両足に力を流した。拳が光る。
迫りくる男に正拳突きを顔面に食らわした。
男の顔面が消えてなくなる。
「ひええーー、こいつ強いぞ! 囲め! 遠距離攻撃だ! スキルと魔術で動けなくしろ!」
茨と触手が飛んできて、私の足に絡まる。
ーー姑息な手だな。
「よし! 放てーー!!」
魔術とスキルの遠距離攻撃が私を襲う。
私は深く呼吸をした……
ーーーーメイドの力を見せてやる!
足に絡まる茨と触手を強引に引きちぎる。
飛んでくる魔術とスキルに拳を合わせる。
魔術が私の拳に当たり爆散する。
気合を入れる。
「はあぁぁーー!」
男たちとの間合いを縮地で一瞬で0にする。
「な、なんで」
私の蹴りが男の腹を突き破る。
手刀が首を落とす。
逃げようとする男の背中に、転がっていた武器を投げる。
「逃げられるとは思うなよ……」
私の殺戮が止まらない。
男たちは声を出す暇もなく死んでいった。
20人近くいた男たちの死骸が転がっている。
「さて、春樹たちを追うか。うん?」
3人娘がやっと追い付いてきたようだ。
 




