腹ペコ
ジャストは魔物の巣窟と化していた。
アリスが先行して魔物を屠る。
「きゅっきゅきゅ!」
俺がクナイを魔物に投げる。
「アリス! 雑魚は無視して3階に行くぞ!」
「きゅ!」
俺とアリスは階段を駆け上がり、3階フードコートを目指す。
ーー人がちらほらいるな。
1階の食料品売り場で魔物と戦っている人が見えた。
ーー注意が必要だ。……人間も味方じゃない。
「アリス! 近くに来て!」
「きゅ!」
アリスは俺の肩に飛び乗った。
「ーースキル隠密」
俺たちの気配が消える。スマホの地図を確認すると俺たちの緑の光が消えた。
ーー!? これは使える。九段下さんにも伝えておこう。
俺はスマホでメッセージを送りながら3階フードコートにたどり着いた。
フードコートは大量の魔物で埋め尽くされている。
魔物は俺たちに気づいていない。
ーー魔物が多すぎて生贄が見えない! 強行排除だ!
俺とアリスは魔物の群れに突っ込んだ。
「ーーファイアー!」
「ーーきゅきゅ!」
俺とアリスの魔術が魔物を襲う。
豚型の魔物が丸焦げになる。
鳥頭の魔物が風で切り刻まれる。
魔物は俺たちに気づいた。
「ぐおぉぉぉーーん!」
「きゃしゃーー!!」
「ぐっふ、ぐっふ……」
「雑魚は引っ込んでいろ!」
「きゅきゅきゅ!」
俺とアリスの剣と爪の乱舞が始まる。
レベルが上がり体力が無尽蔵にある。
攻撃力も上がっている。魔物から攻撃を食らっても傷がつかない。
ーーこれがレベルか。
アリスも飛んで跳ねて縦横無尽に敵を屠る。
爪以外に風の刃と暴風で魔物を翻弄する。
フードコート全体を埋め尽くす魔物の数が徐々に減っていく。
「アリス! あそこだ! マックドナルディ店舗の中に女の子がいる!」
ーー変わった服を着てるな??
女の子は店舗の中に隠れていたのか、マクドナルディ店舗カウンター内で絶望的な表情をしていた。
ーーくそ! 戦えないのか!
女の子が何か喋っている。
「......私のご飯が。......私のご飯が」
人狼が爪で女の子の顔を切り裂こうとした。
ーー間に合え!
俺はクナイを投げる。
魔物が多すぎて人狼に当たる前に違う魔物に当たってしまう。
「せっかくパラダイスだったのに......。私のダブルチーズ......。私のマクディ......」
ーー人狼の爪が当たっていない!?
女の子の身体がぶれる様に動く。
攻撃をした人狼が不思議がっている。
女の子に魔物がどんどん殺到していく。
揺れる様に攻撃をかわす女の子。
だが、魔物の数が尋常じゃない。やがて女の子を中心に魔物の山ができた。
ーー圧殺する気か!?
俺とアリスも数が多過ぎる魔物に動きを阻まれている。
殺しても殺しても魔物がわき出る。
ーーあと少し!
俺は目の前の魔物を蹴散らして魔物の山を切り崩そうとした。
「.........」
魔物の山から光が漏れだす。
ーーなんかヤバイ!?
魔物の山が破裂した。
中央には女の子が拳を高々と挙げて立っている。
拳が光輝いている。
その女の子は変わった服を着ていた。
メイド服だ。
絶望の表情から怒りの表情へ変わる。
黒髪の肩まであるショートヘアが顔を包む。意思が強く感じる瞳はとても美しい。
メイド服に包まれている身体はしなやかさがあり、胸の部分がとてつもなく大きい。
短いスカートから出ている足は細く、太ももには生贄の紋様がある。
全体のアンバランスさが醸し出す雰囲気が女の子の魅力を引き上げている。
ーーすごく綺麗だ。
戦闘中なのに思わずみとれてしまう美しさ。
なんだろう。あの子からすごく懐かしい感じがする……
俺の胸が跳ねるのを感じる。
フードコートの空気が変わった。
メイドが叫ぶ。
「……私の怒りを受けてみろ!」
両腕に光った拳を握り、魔物たちに襲いかかった。
まるで演舞のような美しい動き。魔物たちが一撃で葬られる。
「アリス! 一気に殲滅するぞ!」
「きゅきゅ!!」
俺とアリスもどんどん魔物を倒していく。
メイドも俺たちと変わらない速度で魔物を倒す。
やがて魔物たちは全滅した。
俺とアリスはメイド服の女の子に近づいた。
「ん、お前らは何だ?」
メイド服の女の子が首をかしげる。
「……俺たちは生贄の助けにきたんだ。君は生贄だろ?」
「何を言っているんだ? 私……私は……」
メイドが頭を抱えている。
俺とアリスが顔を見合わせる。
メイドが俺たちに問うた。
「私は誰だ?」
俺たちは魔物がいなくなったフードコートで話し合った。
隠密スキルは周囲2メートルに効果があるみたいだ。
手近なテーブルに座る俺たち。
俺たちは簡単な自己紹介をする。
どうやら女の子は記憶をなくしているらしい。
一般的な事やこの世界の常識は理解出来るみたいだ。
自分の名前や所属、状況がわからないみたいだ。
少女はマクディのポテトをひたすら食べながら話してくれた。
「……そうか。そんな状況になっていたとはな……。私は気がついたらこの街を彷徨っていた。魔物っていうのか? あいつらに襲われり、人間から襲われたりもしたが全部返り討ちにした。……お腹が腹ペコでな、そんな時にこの建物を見つけてな」
「全く記憶がないのか? 名前も? 所属も? スマホは持ってる?」
「ああ、名前もわからん。所属も状況がわからん。スマホってこれか?」
メイドは俺にスマホを見せる。
「ちょっと操作していいか?」
「ああ、私には使い方がわからん。教えてくれ」
俺はスマホの操作を教えながら、メイドの持ち主情報を一緒に見た。
メイド(??)
職業:メイド
レベル:70
スキル:メイド、武術
生贄中、記憶喪失中
ポイント 603329P
ーーまた俺よりレベルが高い。
俺はメイドに質問した。
「……でかい魔物を倒した?」
「ああ、このショッピングセンターにいたやつの事か? 2匹いたが倒したぞ。あいつらがショッピングセンターの入り口を塞いでいたからな。お腹が極限に空いている時にあいつら邪魔しやがって……」
ーーSTMを単独で倒したのか! しかも2匹!
これで俺とアリスで3匹、メイドが2匹。あとは知らない誰かが1匹か……
「きゅきゅ??」
「ああ、そうだな。君の事をなんて呼べばいい?」
メイド服の女の子は少し考えてから言った。
「……メイド? そうだ、メイドと呼んでくれ」
「え、本当にそれでいいの?」
「きゅ??」
俺とアリスが戸惑っている。
「ああ、最初からこの服を着ていたし……何故かしっくりくる」
メイドは手を叩いた。
「よし! 私は行く当てがない。……春樹とアリスに付いて行くことにした!」
メイドが俺たちに微笑む。
「よろしく頼むぞ!」
俺はその笑顔に心が満たされていく感じがした。
アリスも嬉しそうに跳ねている。
これで東雲地区の生贄の保護が終わった。
後は九段下さん達の豊洲地区だな。
もしかしたら隠密スキルで隠れている生贄もいるかも知れない。
とりあえず九段下さんに連絡を取るか。
俺はスマホを取ろうとすると、スマホに通知が来た。
『モンスター、STMの討伐数が一定数を超えました。上位モンスターの解禁が始まります』
「なんだと!」
状況がひどくなるばっかりだ。
そんな中でメイドを助けられた? のは良かった。
状況を打破するしかない。
改めて九段下に電話をした。
「…………出ないな、あ、出た。…………」
…………
…………
俺はスマホを切った。
「すぐに豊洲のショッピングセンター、ララポーティへ行くぞ……。九段下さんたちが大量の人間に襲われている!」
二人は頷く。
俺たちはフードコートを後にした。
ショッピングセンターを出ると後ろから大声が聞こえてきた。
「春樹ーーーーーー!!」
「あら、ハーくんーー!!」
「藤崎ーーーーーー!!」
神楽坂達がすごい勢いで走ってきた!




