第4話
自宅に帰ると、浩二の車があり、家には明かりがついていた。玄関の鍵を開けて入ると、浩二がダイニングルームにいるのがわかった。
貴之はコートを脱ぐと、そのままダイニングルームに入っていった。
「ただいま」
と貴之が言うと、テーブルでコンビニの弁当を食べ散らかし、缶ビールを飲んでいる浩二が振り向いた。
「おかえり」
浩二は疲労でぐったりとしていた。貴之もテーブルの椅子に座った。
「今日はおどろいたよ」
と貴之が言った。
「浩二、どういうことだ。美沙さんに別れ話をもちかけるなんて」
と貴之が言ったが、浩二は返事をしなかった。さらに貴之は言った。
「好きな女ができたと言ったそうじゃないか。本当にいるのか」
と貴之が言うと、浩二の目が真剣になった。
「ああそうだ。本当だ」
と浩二は静かに言った。貴之は怒りが胸元までこみあげてくるのを感じた。
「お前、それがとおると思っているのか。美沙さんはお前を愛しているんだぞ」
「わかっているさ。だけどそれだからといって、彼女と結婚するかどうかは俺が決めることだろう」
と浩二は強く言った。貴之は浩二の顔を見つめた。
「なるほど、それならその好きになった女というのは誰なんだ」
と貴之は言った。浩二は少し間をおいて言った。
「澤田由依子だ」
澤田由依子、それはあの由依子か。貴之はおとなしい内気な娘の顔を思い浮かべた。
「突然どうして・・」
貴之は言葉が続かなかった。
「美沙のパーティで知り合ってから、つき合うようになった。そして由依子を愛してしまった。もう美沙には心が戻らないんだよ」
と浩二は言うと、うなだれた。貴之は考えこんだ。弟の様子からして、どうも本気らしい。だが、このまま由依子と関係を続けさせるわけにはいかない。
「今、美沙さんは大変な状態だ。お前には責任がある。ひとまず澤田由依子には会うな」
と貴之は言った。
「そんな約束はできない」
と浩二は貴之に向かって言った。
「浩二、今の状態では美沙さんは破滅してしまうかもしれないんだぞ。彼女の打撃は大きい。彼女が落ち着くまで何も言うな。澤田由依子と会うのもだめだ」
浩二は黙りこんだ。
「浩二、とにかく人としての責任をまっとうしなければならない。美沙さんのことを少しは考えろ」
と貴之は言った。
「ああ、わかった」
と浩二は力なくこたえた。