A-1
目を開けたら、そこは一面の暗闇だった。まだ夜なのか、そう思って二度寝しようとするも。両手がやけに動かしにくいことに気付いた。動かすとジャラジャラと手から変な音がきこえてくる。ひんやりしている。目を凝らすと、そこには手錠がかかっていた。両足からも同じ感触がする。
おかしい。一気に目が覚めた。自分はホテルの一室に泊まり、そこのベッドで眠りにおちたはずだ。それがいつの間にか、錠をかけられて床で寝ている。ここはある程度の広さを有した地下室なのだろう。水の滴る音が遠くから響き渡ってきた。まだ暗闇に慣れていない目で見渡すと、ふいに後ろから肩をたたかれた。
「うわぁっ!」
「静かにしろ。」
そこには一人の女性がいた。歳は20代前半といったところだろうか。シルエットで彼女も錠をかけられていることに気付く。とりあえずは安心する。
「驚かさないでよ」
さっきのはホントに驚いた。状況が状況だ、笑いごとでは済まない。ただ、彼女も錠をつけていたということは、ここには集団で監禁されているのかも知れない。耳を澄ましてみると、今更ながらガサガサという物音に気付く。他の人たちも起きてきたらしい。ところどころで欠伸や錠を外そうといじる金属音がきこえてきた。
突然。電気がついた。そこで4、5人の人が悲鳴をあげた。そこには首を吊った人がぶら下がっていた。血が垂れている、さっき聞こえた水の音はどうやら血だったらしい。頭が追い付かず、悲鳴すらあげられなかった。
「あれは人形だ。」
誰かがそう呟いた途端、どこからともなく安堵の息があがった。確かによく見たらテルテル坊主のようでもあった。
部屋は四角形で出入口は2つ。部屋の中央に首吊りがあり、その周りを囲うかのように人が11人、錠に繋がれ座っていた。(簡略図参照)
―――――――――――出入口――――――――――
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―――――――――――出入口――――――――――
まだ何も起こらない、そのことに不安を感じはじめた人たちは、誰からともなくここに至るまでの経緯を話し始めた。大体の人が同じような感じだった。
半年前ほどのことだった。あるメッセージが中高生の間に湧いて出た。湧いたというと変に思われるかも知れないが、その言い方が最も的を射ていた。ある日突然、あらゆるところにそのメッセージが姿を現したのである。
“天使になってみませんか?”
普通の人がみたら、一笑して終わる事柄だろう。しかし、そうはならなかった。翌日、メッセージを見た人の中にはそのメッセージがポケットに入っている人もいたのである。見ず知らずの紙がそこにはあり、同じメッセージが記されていたのだ。神のお告げにちがいない。そんな憶測が飛び交い、無用の混乱を招いた。
それから一定期間ごとにメッセージはポケットに現れた。天使に興味をもった者だけが、そしてその中でも天使に選ばれた者だけがそれを手にしたのである。ふるいにかけるがごとく、選ばれしものは限定されていった。
そして、1ヵ月前。最後のメッセージがポケットに現れた。そこにはこうあったのだ。“悴墜の都”を開催する。興味があるものは指定されたホテルに泊まれ、と。
「そこで泊まるとこんな場所に連れ去られた訳だ。」
左斜め前方の男が愚痴をこぼした。確かに酷いかも知れないが、こんなことに首を突っ込んだ時点で人のせいにはできない。僕だって、こんな目にあうとは思っていなかった。園芸部で花壇をうろついていた時に拾った紙がこんなに深刻なものだとは思ってもいなかったのだ。とことん運が悪い、思わず愚痴りたくなる思いを抑えた。
「おい、とりあえず自己紹介しようぜ。俺はライだ、よろしく。」
「私はミキ。ライの友達」
「ミキのメル友、メイ。」
「ヨウ、普通の中学生だ。」
「ザイ、ドイツ人だ。」
「鳴哭学院高等部のリン、バラモン」
「鳴哭のスズカです」
「Qです」
「Yです」
僕はキョウ、この中に知り合いがいないのは珍しい方なのか。左をみたら、さっきの女がそこにいた。こいつも知り合いいなさそうだと、勝手に決めつけてみる。
「ユキノ、22歳。」
これで11人全員なのだが。こいつだけ一人、中高生ではなかった。ここにいるのは皆騙された中高生なはずだ。何故こんなところに大人がいるんだ。その点に周りも気づいたらしい。
「お前だけ怪しいぞ、大人なんて」
ライが言及したが、ユキノは答えなかった。もしかして、僕のように紙を拾ったのかも知れない、それなら大人がまぎれるのも理解できる。
「おい、こたえろよ。」
ライは殴ろうとしたが、錠で手が届かず床を代わりに殴りはじめた。さっきまでの和やかな雰囲気が一瞬にして消える。それもそうだろう。誰もが状況を理解し、不安から苛立ちへと感情が変化している。そして考えられる限り、怪しいのはユキノくらいだ。空気が険悪になるのもしょうがないことなのかも知れない。
【オマタセ。GMノからすまくんダヨ!返事ヲシロヨ・クズドモ】
そして、そのまま最悪のゲームは幕をあけた。




