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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

毒舌ヒーロー

作者: claque

俺が初めて勇気振り絞って告白した相手は、絶望と憎しみを与えてくれました。


「はぁ?ありえんしぃww」


ヒトの告白笑い飛ばすってなんなんだそれ。

俺がどんな思いでいたと思ってんだ。


「エリナのこと好きとか、きんもww」


こんな女だと見抜けなかった自分に腹が立った。それと同時に女に抱いていた幻想も捨て去った。もう恋なんてしないなんて、言わないけども心には誓ったよ絶対。


そんな俺の暗い心も、数日後には晴れることとなった。


「鏡見てからもの言えよ。不細工」


俺を最低な言葉で振った女が、こっぴどく振られる現場を目撃したのだ。


「化粧すりゃ誰でも可愛くなれると思ってんの?全然カバーできてねーよ。ケバいしくせーし、気持ちわりぃ。付き合うなんて死んでも無理」


あまりの衝撃に動悸がした。


「とりあえず風呂入って全部洗い流してきたら?不細工にできることなんて清潔にすることくらいだろ」


彼は見事に、彼女のプライドを叩き割ってみせた。バッキバキのコんナゴナに。

この時の俺の快感たるや。その場に飛び出してもいいなら、彼に抱き着いてほお擦りしたいくらいだった。そして「有難う」と「よくやった」を最低20回ずつは聞かせたかった。


上原っていうクラスメイト。それ以上のことは知らなかったし、知ろうと思ったこともなかった。


それが、一瞬にして彼の虜になってしまったのだ。



上原は窓際の、一番後ろの席だ。

休み時間も誰かと話していることはない。一匹狼ってやつだ。

俺からしたら、何気取ってんの、って感じだが、顔がいいせいで女子には何故か人気があるらしい。要するに男の敵だ。


そんな上原を観察していると、何日かに一度は誰かから告白されていることがわかった。以前の俺ならそんなことを知ったら腹を立ててただろう。

告白される度に上原の毒舌が炸裂して、そっと陰でそれを聞く俺はゾクゾクした。クラスメイトも他学年の知らない女も、上原にとっては関係なかった。他人に万遍なく興味がない上原には誰であろうと同じだった。


「ふーん。そんな顔のくせに頭ん中では男のことばっか考えてんだな。まずは勉強したら?地味なくせに勉強もできないんじゃ取り柄ないじゃん」


派手な女も大人しい女も、等しくぶった切る。


「なんでそんな喋り方してんの?吐き気するんだけど。もう聞きたくないから俺の前で声出すのやめてくれる?」


上原の毒舌が聞きたくて、彼が女子に呼び出される度にストーキングした。


「俺、男は無理なんだけど。…え?男じゃないの?…ごめん、もっと無理。…性転換すればモテるんじゃないの?」


バレー部だとかいう同学年の女にこう言い放ったときは、吹き出すかと思った。


しかしさすがに半年もそれを繰り返していると、上原の毒舌っぷりは「あいつ最低!」という上から目線の感想と共に学校中に知れ渡り、上原に告白しようという者はあらわれなくなった。


上原にとっては穏やかな日々が訪れた。

だが、わかるだろうか?俺にとってそれがどれだけ辛いことなのか。


一年以上も耐えて我慢してきた俺は、もう禁断症状が出そうだった。


そして、思い立った。俺自身が告白してみようと。そうして上原に酷い言葉を浴びせられたら、渇きは癒えるに違いないと。


倒錯しているような気もしたが、もはや抑えることはできなかった。


二年生最後の日、俺は上原を呼び出した。


放課後、人気のない屋上。数え切れないほどここへ呼び出された経験がある上原は、すぐにピンときただろう。


「上原が好きだ。男同士だけど、好きなんだ。付き合ってほしい」


さあ、上原。俺を罵倒して。


期待に満ちた目で上原をじっと見た。


上原は整った顔を嫌悪に歪めた。ああ、たまらない。


「………」


上原はだが、何も言わずに俺に背を向けた。そしてそのまま帰って行った。


俺は、一言も貰えなかった。


……なんで?


もしかして、俺が何を望んでいるか、お見通しだった?だから、何も与えてくれなかったの?アンタ、天性のサド?


気づいたら、笑っていた。


上原、すげーな。流石だよ。




それ以来、俺は上原ストーキングをやめた。もう告白してくる勇者なんていなくなったから、あの痺れる毒舌は聞けないし。


三年になって、ちょうどクラスも離れた。物足りなさを感じながらも、思い出だけで日々を過ごした。


しかし、卒業式の日には上原のネームプレートを欲しがる下級生が校門前に大勢群がった。こいつら、上原の噂を知らないのか?めでたいな。


上原はハサミを借りるとネームプレートを学ランに縫い付けていた糸を切った。


まさか誰かに渡すのか?と思った瞬間、上原は道路側を向いてネームプレートを全力投球していた。ネームプレートは綺麗な弧を描いて汚水の流れる(どぶ)に着水した。

下級生たちの悲鳴が響き渡る中、上原は笑いもせずにふん、と一つ鼻を鳴らして母校を後にした。


上原は最後まで上原だった。




地元の大学の入学式で上原を見かけたときは、胸が高鳴った。


同じ高校から大勢進学しているので、運命の再会だとかいうようなもんじゃない。

だけど、それでも俺は嬉しかった。また、上原の毒舌が聞けるかもしれないと期待したのだ。


期待が打ち砕かれるのは直ぐだった。


信じられないことに、上原は大学ではほとんど毎日とある女にべったりだった。しかも、高校では見せたことなんてあるのか?と疑問に思うような笑顔を、その女にだけは見せるのだ。


どの女にも全く興味がなかったのは、外に女がいたからなのか。


絶望した。知りたくなんかなかった、上原のそんな顔。


俺が知ってる、あのかっこいい上原はどこへ行ったんだよ。…いや、そんなものは最初からいなかったのか?俺はまた、幻想を見ていたのか?


二度目の告白を決意したのは、諦めきれなかったからだ。もう一度、あの頃の上原が見たかった。


「やっぱり上原のこと、忘れられなくて。どうしても、付き合ってはもらえないかな…?」


9号棟の外階段の踊り場。

灰皿と一緒に設置されている剥げたベンチに座って、休憩しているのかあの女を待っているのかよくわからない上原に、そう言った。


上原の口が開いた。


「………誰?」


沈黙する二人の間を、爽やかな五月の風が駆け抜ける。


どっちに取ったらいいのかわからなかったが、毒舌にしてはぬるい気がする。


「…えーと、高校で二年間同じクラスだった柿田です…」


上原は俺から視線を逸らして少し考えてから、言った。


「…へー。」


…え?そんだけ?

もしかして、本気で俺のこと覚えてないとか?二年間同じクラスだったのに?…告白までしたのに?


上原にとって俺って、クラスメイトって、なんだったの…と思ったとき、甲高い笑い声が聞こえてきた。


「あっはっはっは!いいじゃん!面白い!ケイ、付き合っちゃえば?」


振り返ると、扉のところに上原の彼女が立っていた。


この女、彼氏に男との二股すすめるなんて頭がおかしいのか?


上原も、何とも言えない渋い顔をして「何言ってんの?」と言った。だが女は全く気にしなかった。


「だってこの子、ケイのこと忘れられないくらい大好きなんでしょ?いいじゃん別に、彼女もいないんだし」


はい?今何とおっしゃいました?


「ありがとねー、ウチのケイのこと好きになってくれて。この子いつまでも彼女もつくらないから心配してたのよー」


ウチのケイ、ってなんだ。アンタは何なんだ。


「…えーと、上原のお母様ですか?」


軽く嫌味を込めたつもりが流された。


「あははっ!ううんー、いとこだよー!」


いとこ?


「…彼女じゃなくて?」


「はぁ!?彼女!?ないない!それはないっ!」


あっさりと完全否定される。


「というわけで、カップル成立ね!おめでとー!」


なんだこのいとこは…。




上原の強引ないとこの働き掛けで、めでたく付き合うことになった俺と上原。


……付き合ってみて、上原に幻滅することしかなかった。


付き合ったといっても、恋人らしいことは一切なく、ただ俺が彼らの輪に加えてもらっただけみたいな状態だ。手を握ったこともない、どころか二人きりになることすらあまりない。


強引ないとこの名前は春香さん。上原より三つ年上の四年生だった。


上原は春香さんといるときは普通に笑い、普通にしゃべった。俺に話し掛けることはほとんどない。誰が好きなのかは一目瞭然だ。春香さんにその気が全くないとわかっていても、傍にいられればいいようだった。


俺はそろそろ嫌気がさしていた。

単純に面白いというだけで、従兄弟に俺と付き合うように言った春香さんのことが嫌だったし、春香さんに言われたからって断らずに俺と付き合う上原も嫌だった。


今日はたまたま、春香さんが就活でいない。


二人になったチャンスに、俺は前から考えていたことを言ってみた。


「上原、別れよう」


上原は俺の方を向いた。


「俺は上原の毒舌が好きなんだ。上原が好きなんじゃない。毒舌じゃない上原といても楽しくない」


上原は黙っていた。


「上原だって俺には興味ないみたいだし。春香さんに言われたから付き合ってるんだよな。春香さんの言うことは全部聞きたいんだろ?それくらい、好きなんだろ?」


否定しない。やっぱりな。


「お互いに好きじゃないなら付き合う意味なんてない。だから別れよう」


これで、本当に終わりだ。

楽しくなかったけど…ほんの少し、残念だな。


しばらくの沈黙したあと、上原が言った。


「俺が好きじゃない…?好きじゃないのに付き合えって言ったのか?」


「うん、」


「嘘だったのかよ。最低だな。しかも、何?毒舌が好き?毒舌じゃない俺といても楽しくない?ただの変態じゃねーか、気持ちわりぃな。」


「…え」


「それで別れようって?お前、何様なの?大した顔でもないくせに、調子こいてんじゃねーぞ」


「う、上原…?」


「てめぇに指図されるなんて冗談じゃねーんだよ。別れるか別れないか決めんのはてめぇじゃねえ。俺だ」


上原は蔑んだ目で俺を見ている。


「とりあえず生意気な口きいた罰としてそこの川にダイブしろ、変態」


……ああ、夢でも見ているんだろうか。

上原が、春香さんには見せない笑顔で笑ってる。


やっぱり上原は、こうでなくっちゃ。

補足:ネームプレート→第二ボタンと同じ意味。




ここまでお読みいただき、有難うございました。

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[良い点] オチが/// [一言] 真正だ・・・・・・! 真正のSだよこの人!! 巧くまとまっていて面白かったです♪
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