リボルバー
雨は、嫌いだ——
アメリカ、ニュージャージー州、ニューアーク。
冷たい雨が降り注ぐ。
古いレンガ造りのアパートの壁面には《異星人は出て行け》と落書きが書かれいる。
アパートの中で温かいシャワーを浴びるアフリカ系の美しい女性。
真っ直ぐ伸びた長いプラチナシルバーの髪。
シャワーを浴び終わるとバスルームから出る。
右手の肘から先がない。
ベッドに腰掛け、右手に黄金色の義手を装着すると小さく呟いた。
「雨の日は右手がうずく。雨は、嫌いだ……。」
黄金色の義手を見つめると、雨の音だけが聞こえた。
10年前、雨の中央アジア、宿舎。
体格のいいアフリカ系の男性が女性に話しかけた。
「お前がアイリスだな。ついてこい。」
アフリカ系の男性の後ろをついていくアイリス。
「ミラー軍曹、新人を連れてきました。」
40代の白人男性がテーブルに座りパンを食べている。
「ご苦労、バローズ伍長。」
バローズ伍長にそう言うとアイリスを見つめミラー軍曹が言う。
「若いな。なぜ軍人になった?」
直立不動でアイリスが軍曹に答える。
「大学進学の奨学金が目当てです。」
ミラー軍曹が指にベタリとついたバターを舐めると話した。
「なるほど、ついてないな異星人と戦争なんて。」
宿舎に若い男性隊が員入ってくる。
「軍曹、時間です。」
雨の中央アジア、森林。
M4カービンの銃声が鳴り響く雨の中央アジア。
タタタタン!!
「撃たれたっ。」
右手で左腕を押さえるバローズ伍長。
薄暗い森の中、銃声の音が止む。
ミラー軍曹が構えていたM4カービンを降ろすと振り向きバローズ伍長を見た。
「逃げやがったな、異星人め!!」
ミラー軍曹がバローズ伍長を見ながら顎で指示をする。
「救護班、こいつを見てやれ。新人、お前は俺についてこい。」
暗く静かな森の中、ミラー軍曹の後をついていくアイリス。
黒いトカゲのような異星人が見える。
「いたぞ新人。俺が前、お前がバックアップ。ついてこい。」
黄色い縦瞳でアイリス達を見ると森の奥に消える異星人。
異星人の後を追うアイリス達。
ドゴーン!!
ミラー軍曹の足下から音がした。
異星人が仕掛けた地雷を踏み、倒れているミラー軍曹。
「軍曹!!」
倒れているミラー軍曹に右手を伸ばすアイリス。
(……。)
周りを見るアイリス。
自身の右手が落ちている。
膝を落とし、右手を押さえ雨が降る薄暗い空を見上げ叫ぶ。
「あぁぁぁぁ——。」
冷たい雨がアイリスに降り注ぐ。
(雨は、嫌いだ……。)
アイリスの自宅、アパート。
「あれさえなければ、私は……。」
そう言うとベッドに倒れ込み、天井の照明を見つめるアイリス。
「私は、迷っているのか。」
薄暗い部屋の天井に右手を伸ばすと、黄金色の右の指から照明の光が漏れた。
トゥルル。
ベッドの上のスマホが鳴る。
ボンネットにNPDと書かれた黒いSUVを運転する三十半ばのヘッドセットをした白人男性。
「アイリス、ケインだ。テレビをつけてみろ。」
リモコンを操作し、テレビをつけるアイリス。
ニュースではラトガーズ大学での立てこもりを報道している。
車を運転しながら話すケイン。
「これから迎えに行く。詳しいことはそれからだ。」
ネイビーのシングルトレンチを着ると、腰にコルト・パイソンを装着するアイリス。
準備を終え表に出ると黒いSUVがアイリスを待っていた。
「何があった?」
アイリスが黒いSUVのドアを開け、助手席に乗り込む。
「ラトガーズ大学で立てこもりだ。犯人は異星人。」
ギュッと義手を握りしめるアイリス。
「異星人……。」
雨の中のラトガーズ大学。
傘を差し、NPDと書かれたビニールのコートを着たケインが若い警官に話しかけた。
「NPD異星人課だ。状況は?」
若い警官がケインに答える。
「詳しいことはわかりません。ただ、犯人は人質を盾にしているようです。」
話を終えるとアイリスに話しかけるケイン。
「行くぞ、アイリス。俺が前で、お前がバックアップ。」
「私は……。」
少し考え、アイリスが答えた。
「迷わない。前に出る。」
アイリスの顔を見るとケインが言う。
「わかった。フォローに回る。」
大学の建物内に侵入する2人。
バン!!
「聞こえたかアイリス?左側みたいだ。」
ケインが銃声のした方を見ると、女学生達が逃げてくる。
「助けて!!」
アイリスにぶつかると、無視するように走り去る女学生達。
右手の義手をギュッと握りしめるアイリス。
「どうする、アイリス。」
「……行こう。」
奥へと向かう2人。
「嫌……。」
奥の部屋から女学生の声が聞こえた。
アイリスが黄金色の義手でリボルバーのハンマーを起こす。
2人が部屋へと突入する。
部屋にはブロンドの女学生にテック9を突きつける黒いトカゲのような異星人がいる。
涙を流し、鼻水を垂らす白人の女学生がアイリス達を見て叫ぶ。
「私のパパは上院議員なのよ!!早く汚らわしい異星人から助けなさい、そこの刑事達!!」
「やれやれ、本音を言ってくれる。」
ケインがそう言うと、アイリスがチッと軽く舌打ちをした。
アイリスのリボルバーが火を吹く!!
「知るか!!」
異星人の黒い右手が打ち抜かれる。
異星人の背後のアメリカ国旗に飛び散る緑色の体液。
雨が降るラトガーズ大学、入り口。
アイリスの背後から警官の声が聞こえる。
「犯人は無事確保、右手に怪我。」
雨が降る薄暗い空を見上げるアイリス。
「雨は、嫌いだ……。」
雨に打たれるアイリスの後ろから、そっと傘を差し出すケイン。
「ああ、知ってる。」
SUVに乗り込むと現場を後にする2人。
私達は暗い雨の中、迷う人——
ただ、独りじゃない——
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