7話 引きこもりの奇策
探索者になった。
ロカの話曰く、基本的に行動は自由なのでとにかく頑張れと言うことだ。
ここで一つ、ダンジョンについての歴史を振り返る必要があると思う。
ダンジョンがこの世界に出現したのは三十年前の事。
世界中にダンジョンへと繋がる門が現れ、人が魔法に目覚めるようになった。
そしてダンジョンの登場と同時に神とその使徒であるアセット達が現れた。アセットらはダンジョンについての説明を行い、人類に協力関係を結ぶことになる。
そして人類が得られた情報は以下の通りである。
曰く、ダンジョンは百階層まである。
曰く、新たなダンジョンの階層へと到達したものに、願い事を一つ叶える権利が与えられる。
曰く、定期的にダンジョンは『スタンピード』という現象を起こす。
曰く、ダンジョンのモンスターは魔法でしか倒せない。
曰く、魔法の素質に目覚めるものは限られている。
世界が注目したのは、この『願い事』という権利だった。
踏破した階層の深さによって願い事の自由度は変わるそうだが、それでも十分すぎた。
最初に一階層を踏破したアメリカは、軍事力の強化を願った。すると神によってアメリカに数百の戦闘機や戦艦、核、更には一世紀は先であろう文明の新兵器まで贈られた。
当然この動きを見て、世界はダンジョンというものについての認識の甘さを理解することになる。
一瞬で、国を世界を変えられるほどの力。
アセット達はそんな慌てふためく人類の様子を見て笑った。
もし最深部の百階層まで踏破できれば。
人類は──死を克服することすら可能になる。
……不老不死、誰もが求める死の恐怖からの脱却。
それがダンジョンにはある。
そこからはすぐだった。
どの国も、我らこそが不老不死を手に入れたいと、ダンジョンの攻略に乗り出す。
そして日本も例に漏れず、ダンジョン攻略に乗り出す。魔法に目覚めたならば一般人さえも探索者として雇用することになるまで、そう時間はかからなかったのは現状を見れば明らかだろう。
──そうして作られたのが、今の探索者協会なのである。
『ところで貴様、何かアテはあるのか?』
ロカに聞かれた言葉が蘇る。
質問の意図が分からず問い返した俺に、ロカはこう答えた。
『現状、探索者はその道一筋で食べている人間はほぼいない。回復薬、装備、武器、何にも金がかかる。だからスポンサーだとか契約してくれそうな企業だとか、そういったアテはあるのかと聞いてる』
そもそも何故、人々の夢を背負っている筈の探索者が稼げないのか。
それは、現在日本が比較的平和であるというのと、日本が最後に階層踏破を成し遂げてから既に十二年が経過しているからである。
つまり日本は現状、国民が熱中するほど叶えたい願いがある訳でもなく、しかもダンジョンで取れる魔石やアイテムの価値の低下から稼げなくなっているのだ。
「まあ……だからこその配信、か」
配信。それは現状、事務所等に所属していない個人が稼ぐ手段の第一選択肢だ。
ゲームやスポーツ、歌、なんだってそうだが、ただ芸を極めるだけでは金にはならない。スポンサーなどの、お金を払ってくれる第三者が必要なのだ。
その点で、ダンジョンという刺激を動画に収める配信は現在中々の人気を博している。特に神が運営する『DEV』というプラットフォームの利用には、ダンジョン協会も金銭的な支援を出すなど、何故かかなり積極的だ。
かくいう俺もこのダンジョン配信を行うことを考えている。
『そうか……配信か。まあ、良い手段ではあろう。人気が出ずとも、そこから実力を買われて企業と契約する道もあるしな』
ロカにそう言われ、俺は改めて人気のダンジョン配信を見ていたのだが。
「やっぱ流行りの企画をパクるのが手っ取り早いのかなぁ……」
今から始める以上、全部が手探りになる。
とりあえずアカウントだけ作ったが、投稿するものは何も決めていない。
事務所からデビューしたり、初っ端からコラボで伸ばすみたいな手法が使えない以上、何かしらの武器が必要だ。
探索者といえども、やることは普通のコンテンツ投稿者と変わらない。
労力と時間が有限な以上、初動で伸びて良い波に乗りたい。
「ダンジョン攻略系、雑談兼豆知識系、魔法披露系……大抵企画に絡めた配信が多いな」
パッと見、人気なジャンルがこれらだ。
でもこれらは大手もやってるし、特に一番人気の探索時のスリルと迫力を魅力にした『ガチダンジョン攻略』は同業者が死ぬほど多い。
ならばトークを武器にするか?
いや、俺にトーク力を武器にできるほどの才能もないか。
となればやっぱり、分かりやすく画面的な配信映えのする攻略系かな……。
後はサムネとかチャンネルアイコンとか配信名とか決めなきゃいけないのか。
……てか待てよ。
そもそも、近場のダンジョン門まで行かないとダンジョンには潜れないよな。
うん。
早速お先真っ暗だなぁ……。
「えっとぉ……初めまして。今日からダンジョン配信者になったツーシーです。えっと基本的にタイトル通りの活動を行おうと思ってます」
数日後。
計画が上手く行き、家から出ることなくダンジョンへと来ていた俺は、人生初の配信を行っていた。
空中に浮かぶのは、ダンジョン配信を行う魔法『神の遠眼』。
配信に来てくれている視聴者は二人。
チャンネル登録者はゼロ。
コメントは一つもない。
それでもこの日、俺はダンジョン配信者になった。
【初配信】家から一切出ずに始めるダンジョン配信者道#1
2人が視聴中
『引きこもりのツーシー』チャンネル登録者0人




