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10話 二度目の特殊部屋 ダンジョン配信#1

 特殊部屋に踏み入れた瞬間、空気に張り詰める圧のような物が変わった。


 広い部屋の中央に佇む圧倒的な存在に、視線が釘付けになる。


 真っ黒な長い体毛、太く膨張した筋肉のついた足。鋭く伸びた二本の犬歯。

 充血した目、闇を纏った身体。


「ダークボア……」


 敵は大型の猪だった。もはや軽自動車ほどのサイズにまで達したそいつは、こちらを捉えた瞬間、狩りを行う獣の目に変わった。


 ダークボア。闇属性のモンスターだ。

 このモンスター、探索者の中では食人樹と同じFランクのモンスターながらも、その厄介さは全く違うと言われる相手だという話を聞いたことがある。


 そしてその話に納得できるくらいには、俺は敵から肌をピリピリと刺す強い圧を感じていた。


 警戒から、俺は重心を後ろに置く。その瞬間、ダークボアが力強く地面に踏み込んだ動作が見えた。

 

 ほんの一瞬の間。

 その隙に二十メートルほど離れた距離から、一気に巨体が突っ込んできた。


 余裕と構えていた距離が一瞬のうちに消え、俺は急いで身体強化魔法を駆使して突進を避ける。


「やばっ、速ぇ!!」

 

 体勢を崩され、俺は急いで展開を立て直す。

 魔法を構築し攻撃に転じようとするが、先ほど躱した筈のダークボアは既に目の前であった。


「クソっ!」


 ゼロ距離で『炎球』を展開し、至近距離で爆発させる。俺自身は魔盾で爆発を防御したものの、衝撃波で後ろに転がった。


 素早く立ち上がり敵の様子を伺う。直前で直撃を避けたのか、ダークボアはピンピンしているようだ。ただ爆発による火傷を負わせられたようだった。焦げた匂いが鼻に刺さる。


 

【コメント】

・うわこれ勝てなくね?

・ダークボアはF級でも強い方だからな。ゴブリン相手に無双するのとは訳がちがうわ

・こいつ光属性の魔法が弱点だぞ


「残念、光魔法は苦手だから使えないんだわ。他になんか効く攻撃ある?」


【コメント】

・ない

・これ一回引き返した方がいいんじゃ

・領域は? 使わないの?


「領域は一発で四割くらい魔力消費するし使いたくない。撤退はもう少し粘ってから! って訳で攻撃続行!!」


 コメントをチラッと確認して返信しながら、俺は相手との距離を保って火系統の魔法を連射し続ける。


 火矢。当たるけどダメージが少ない。

 炎弾。当たれば効きそうだけど、避けられる。

 炎壁。距離を保つには便利だけど最悪突っ切られる可能性があって有用性は低い。


 しばらく打ちあって情報を掴む。

 魔力は残り七割ほど、現状有効な手段は作れていないと言っていい。

 

【コメント】

・違う属性の攻撃は?

・炎あんま効いてなくね

・てかダークボア硬ったいね


 違う属性の攻撃……そう言われても、炎が現状出せる最大火力だ。

 そもそも強い魔法を使うにはどうすればいいか。答えは、知識の量である。


 イメージするのは俺がよく見ていた三倉火 アマネの火魔法。

 あの温度を出すには、どうすればいいか。あの弾丸を形作るには、あの速度で連射するには。


 想像する。構築する。模倣する。


『炎弾』


 手のひらの上で炎が燃え盛る。その炎に風属性で酸素を混ぜ、温度をぶち上げた。

 熱が空気を歪ませる。


「喰らえ」


 炎の弾を撃ち抜いた。


 破裂音が響く。

 空気が裂かれた音だ。


 俺の炎の弾は不恰好な形のまま飛んでいく。

 すると通常とは違う手順で魔法を構築したからか、魔法が固形的な形を保てずに崩れた。手にすくった水を投げた時、ある程度の距離から水が崩れて広がるように、俺の炎もまた崩れて気体としてダークボアを飲み込んだ。


──+!$”


 ダークボアが身悶えている。

 状況を見るに、全身に火傷を負ったようだ。


 しかしそれでも尚立っており、その目に宿る戦意は喪失していない。


「外した……いや、多分魔法の構築が間違ってたのかな……気体だけじゃダメ……うん、次は形を保てる土魔法と併用して──」


 失敗原因を思案していると、ダークボアが突進してきた。

 流石にそろそろ速度にも慣れてきたので、落ち着いて距離を取って攻撃を放つ。


『炎石弾』


 前回の反省を生かし、高温に熱された石の弾を放つ攻撃に変える。

 しかし炎と風属性で作った魔法より炎の燃えが弱い。だがこれも試行錯誤だと考えて、そのまま炎に包まれた石を敵の胴体を狙って打ち込む。


 だがそんな俺の攻撃を見越してか、ダークボアは回避を最小限に、捨て身で突っ込んできた。


「なっ、クソ……ぐっ」


 慌てて魔盾を手の先に展開し、ダークボアの突進を受け止める。

 瞬間、強い衝撃に襲われて身体が宙を待った。


 受け身を取るが、容赦無く地面に背中が打ちつけられる。急いで立ち上がるが、じんじんとした痛みが背中に広がる。


 しかも──


「痛ぇ……おい、嘘だろ……お前回復してね?」


 察するにドレイン的な魔法だろうか。

 ダークボアは火傷後がいくらか消え、ポタポタと流していた筈の血もいつの間にか止まっている。


 回復して元気が蘇ったのか、そいつは再びこちらに突っ込んできた。


【コメント】

・これやばくない?

・頑張って!

・こんな様子じゃ階層踏破とか夢のまた夢すぎる。素直に撤退した方がいい

・てかなんでこんな無茶な目標掲げたんや。二回目で階層踏破とか、三倉火アマネレベルの才能ないと無理だろ。


 コメント欄に否定的な空気が流れる。

 少し増えてくれた視聴者の中に、苛立つコメントも混ざる。


 俺は敵の突進を避けて、再び立て直す。


【コメント】

・んー、同意。流石に一回立て直した方がいいってこれ

・そもそも企画が頭悪いわ。探索者になって数日だっけ? それで一階層突破って、そんな事できる訳時ないじゃん

・今来たけど、こいつざっこww

 

 否定的なコメントが流れ続ける。

 喉の奥が熱い。


【コメント】

・あーもう死ねよお前

・夢見たツケやな

・死亡配信ここでおk?

・お前はもう無理^^


「あー、お前ら言ってくれるじゃねぇの!! 無理? んなの関係ねぇ。俺が!! お前らに何があろうと全部逆転できるのが人生だって、証明してやる!!」


 痛みと苛立ちが心の中を駆け巡る。


 改めて顔を上げた。ダークボアは既に目の前だ。鳥肌が立つような迫力の突進だ。もう多少なダメージは負おうと俺を確実に仕留める気なのだろう。


 そんな状況に、どうしてか笑みが浮かんだ。


「あー、痛ぇ。なあ、知ってたか猪。炎の糧は激情なんだぜ。今、クッソ燃えてるからよ……ぶっ殺してやるわ」


 手のひらを構えた。その中に炎を作る。先ほどから比べて何倍も勢いのある炎だ。明らかに変化している熱の強さを認識してか、突っ込んできたダークボアが一瞬怯む。


 その隙を見逃さない。


「『爆炎弾』」


 火が龍のようなうねりを持って、全てを焼き尽くす。

 部屋が溶けるくらいの温度まで上昇し、俺が放った魔法は真っ直ぐダークボアへと向かっていった。


 ボオッ、と物質が火に包まれて燃えた音が耳に響いた。

 炎で目の前は何も見えない。ただ、焦げた匂いがした。そして尚もこちらへ向かってくる地響きのような足音が、二回聞こえた。


 三回目は、足音ではなかった。

 何かが倒れる音だった。ドサっと力なく倒れたのは、黒焦げになったダークボアだった。


「タフなやつ……」


 ゆっくりと倒れたダークボアを見下ろす。

 焦げたその体はやがて塵に変わって痕跡も残さずに消えた。


 完全に倒したのを確認して、俺はようやく息を吐いた。







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