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異世界転生してエルフのお姉さんにお世話になったら激重感情抱かれてた  作者: 火海坂猫
二章 不純愛編

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二十一話 下げられないなら上げればいい

「じゃあヒントの、お時間ね」


 ノワールさんとの抱擁はきっちり回復したアリサが戻って来る寸前まで続いた。離れると彼女は何事もなかったように僕を見て口を開く。その取り繕いの速さは長い人生経験によるものなのだろうけど、こうもあっさりと取り繕われると僕は寂しく思える。


 もっとも僕だってアリサに悟られぬよう表情を取り繕っているのは同じだ。そのことをノワールさんも寂しく思ってくれているだろうか?


「教えてください」


 しかしそれはそれとしてヒントも大切だ。僕は状況をよく理解せずとりあえず構ってくれと寄って来るイリーナと、特訓の後遺症か普段の感情を出す態度が鳴り潜めて無言で寄って来るアリサの二人の頭を撫でて誤魔化しつつ尋ねる。


「マナカは方向性を間違えて、いるのね」

「方向性、ですか?」


 それはつまり今のやり方が完全に間違っているということだ。


「さっきも話したけれどアキ君への感情は、減らせないのよね」


 ノワールさんが言うには僕に対する感情は一度生まれたらどうしようもないものであるらしい。それこそ以前に聞いた話では今の人格を消して元と同じ人格を入れ直すくらいのことをしない限り対処不可能なのだと…………一応僕への好意を憎悪へと反転させることは可能らしいけれどそれも大きなリスクだ。

 結局のところ僕への執着という意味ではそれを減らすことはできないのである。


 それでも試してみたのが今回のマナカによる特訓だけど、実際に効果はなくむしろタカナが僕への好意を肯定してしまうような結果となってしまった。


「でも、それだとどうしようもなくないですか?」


 だからこそマナカは無理だと言われたことをあえて試しもしたのだ。親友が今の恋人と破局して恋敵となるのを認めるか、自分の愛する相手を殺したいほど憎悪するかの二択しかないのであれば無理だと言われても試したくもなるだろう。


「減らせないなら増やせばいい、だけよね?」

「え」


 それは逆転の発想ではあるが、逆転しているだけで逆効果にもなってしまうのではないかと僕は戸惑う。


「タカナさんにより僕を好かせるってことですか?」


 確認するように僕は尋ねながらその場合どうなるかを考える…………僕をより好かせるという点に抵抗を覚えたのはイリーナの前例があるからだろう。僕が目的の為に自分を好かせようとしてイリーナはああなった。もちろんタカナとは条件が違うけれど、それでも僕自身の好意に関係なく相手を好かせるということには抵抗を覚える。


 ただ、倫理を無視すればそれは確かに一つの解決法ではあるのだろう。


 恋は盲目というし、僕のいうことであれば何でも聞いてくれるくらいに僕を好きになってくれればどうとでもなりはする。


 もちろん全くフォローなしとはいかないだろうけど、そんな状態であれば僕の迷惑にならないよう元の生活に戻るように頼めば従ってくれるはずだ…………問題は想像するだけで最低だなと自分でも思えてしまうことだけど。


「そういう方法も、あるわね」


 しかしどうやら僕が思いついたものはノワールさんの想定とは違うらしい。


「えっと、じゃあノワールさんが考えた方法っていうのは?」

「…………」


 尋ねるもノワールさんはニコニコと微笑んで僕を見つめ返すだけだった。


「あの」

「お姉さんがあげるのはヒント、だけなのよ」

「あ」


 方法まで言ってしまえば答えそのものだ。あくまでノワールさんは僕にヒントを与えるだけで答えは教えないという話だった。


「そうでしたね。後は自分で考えます」

「頑張って、ね」

「はい」


 僕は頷く。ここから先は自分で考えなくてはいけない。


 僕だって男なのだ。あまりノワールさんに頼る姿ばかり見せていられない。


                ◇


「下げるんじゃなくて上げる、ねえ」


 決意は固めたものの僕一人で考えるより二人の方がいいのは確かだ。翌日の朝にマナカが尋ねて来てすぐにノワールさんから聞いたヒントを彼女とも共有した。


 マナカの方も想定とは違う方向の納得をしてしまったタカナをあの後説得し損ねたようで、ノワールさんからのヒントは渡りに船であったようだった。


「アキをより好きにさせるって意味じゃないのよね?」

「それも一つの方法とは言われたけど…………ノワールさんの考えてたものとは違っていたみたいだよ」

「ふむ」

 

 それを聞いてマナカは頬に手を当てる。


「下げられないけど上げられる…………けれどそれはアキへの好意ではない」


 じっとマナカが僕を見た。


「つまりは違うもの…………ああ」


 思い当たったようにマナカは口を空けた。


「なるほど、確かにそちらを上げるというのはありね」

「わかったの?」


 マナカは納得したような表情を浮かべるが、僕はまだ思い当たるものがない。


「タカナからの好意を上げて問題ない相手が一人いるでしょう?」

「一人…………あ」


 確かにいた。考えてみれば実に単純な話だったのだ。


「タカナさんの…………彼氏」

「そうよ」


 マナカが頷く。僕に対する好意がタカナさんの彼氏を上回ってしまったことが問題の発端なのだから、その彼氏に対するタカナの好意を上げて僕に対するものを上回ってしまえば元の状態に戻る。


「問題はアキに対する好意が大きすぎることだけど…………」

「それはより彼氏さんの方を好きになって貰えば」

「まあ、それしかないわよね」


 他にどうしようもないとマナカは息を吐く。


「とりあえず、試してみる価値はあるわね」

「…………でもどうやって?」

「どうやってって…………それはまずタカナの彼氏をここに呼んで」


 そこまで口にしたところでタカナが止まる。


「呼べるわけがないわね」

「…………だよね」


 仮に僕がタカナの彼氏であれば、事情を知った時点でまず僕を殺すことを考えるかもしれない。


「でも本人不在で好意を上げるのって難しいわよ…………そもそも私はその彼氏との面識もないわけだし」


 彼氏のことを持ち上げて好意を高めようにも、面識のない僕らの言葉では何の意味もないだろう。


「それならまず、その彼氏のことを聞いてみる?」

「それは悪くないわね。上手くいけば好きになった時の気持ちを思い出すかもしれないし」


 好意を高めることではないかもしれないが、好意を思い出すことも効果はあるはずだ。


「その方向でやって見ましょう」


 とりあえず、僕らはそれに一縷の望みをかけることにしたのだった。



 お読み頂きありがとうございます。

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