十四話 どうせ駄目なら前のめりで
「少し考え方を変えた方がよさそうね」
タカナとノワールのやり取りを見て私は発想を転換することにした。私は最初タカナに現実を直視させようと考えていたが、それは多分よい結果に繋がらないと思えたのだ。
実際のところアキへの感情を認めさせて今の彼氏から彼に乗り換えさせるのが一番簡単ではある。しかし常識的であろうとするタカナの真面目さがそれに反発するのは明らかだし私も親友をライバルとして増やしたくはない。
「それはどういう意味だ」
「ものの捉え方の話よ」
私は自分の中で考えを整理しながら答える。
「私はアキのそれを洗脳系の能力ではないと説明したし実際にそうなんだけど…………そういう能力だと考えた方が受け入れやすいかと思ったのよ」
「つまり?」
「アキは特定の対象にだけ刺さる魅了系の能力を持っているけど、それを制御できていない…………そう考えればあんたも納得しやすいんじゃない?」
なんの能力でもない自然なもの。そう考えるからこそタカナは抵抗してしまうのだ…………だってそれではタカナが自分の意思で今の彼氏を裏切ったことになってしまう。
彼女からしてみれば今の気持ちは外部的な要因あってのものであって欲しいのだ。しかし単純にアキの能力としてしまってはタカナが彼を敵視したままになってしまう…………だからその能力は制御できていないものとした。
「詭弁だな」
「でも事実でもあるわよ」
確かにアキは洗脳系の能力も魅了系の能力も持ってはいない…………しかし特定の異性を惹きつける奇跡の造形を持って生まれているのだ。
それは確かに魔法やチートのような力ではないけれど、それも当人が備えている能力であるといえる。そしてアキがそれを制御できないでいるのも事実だ。
「能動的にその力を使用したわけではないのだから、彼に罪はないと言いたいのだな」
「そりゃなんの自覚もなしに人前に出てるんなら問題だと思うけど、散々私が警告したうえで彼に会おうとしたのはあんただからね」
それであればアキに責任はなくタカナの自己責任と断じても咎められまい。
「わかった。それが正しい」
タカナは認めて唇を閉じる。それに私はようやく一区切りが付けられたと息を吐くが…………まだこれからなのだ。
「それなら納得できたところで今後の話をしましょう」
今の話は現状の整理ができたに過ぎない。重要なのはここからの話だ。
「…………正直に言えば私にはどうすればいいかわからない」
タカナにしては珍しく弱気な表情を彼女は浮かべた。先ほどまではアキへの敵意で気勢を保っていたのだけど、それができなくなったからだろうか。
「お姉さんは正しい選択肢を選べるんじゃないの?」
そこへ不思議そうにアリサが口を挟む。先ほどまでは黙っていたが、タカナが現状を認めて態度を軟化させたので会話に参加しやすくなったのだろう。
「生憎と私の力はそこまで便利なものじゃなくてね」
「そうなの?」
「正しさを判別する対象によっては大きな反動があるのよ」
傍目から見れば地味だが便利で正確な力なのだが、その反動というのが厄介だった。どうにもタカナのその力は正しさを判定するために必要な情報を世界そのものから収集しているらしく、その必要な情報が大きければ大きいほど彼女への負担も大きくなってしまうのだ。
例えば目の目で伏せられたコインが表であるかという判別であれば大した反動はない。それはその場にある僅かな情報を収集するだけで正しさを判定できるからだ。
しかしそれが例えば競馬でどの馬が勝つのが正しいかを判別するとなると話が変わる。レースに参加する馬の能力に騎手の能力、その日の天候や競技場の状態など必要な情報は跳ね上がるからだ。
だから私たちが魔王討伐に赴く際にも、この戦力が魔王討伐に足る正しい戦力であるかを私たちはタカナに判別させなかった…………彼女自身はするべきだと主張したけれど、私たちが強硬に反対したのだ。
恐らく反動が大きすぎてその結果を伝える前に彼女は死ぬ。それでは無駄死にだからと。
実際にどれほどの反動が出るかを私たちは知らなかったが、後方で重要な立ち位置にある彼女をとにかく危険に晒せなかったのだ。
「それってものすごく不便じゃん」
「使い方を選べば物凄い便利なのよ」
例えば内通者を判別するのはものすごく簡単だ。なにせ相手が裏切っているのは正しいかを判定するだけでいい。その情報はその相手だけで完結するから反動はほとんどない。
必要な情報は無意識に処理されてタカナに伝わるので正しさの判別以外彼女に残るものはないが、内通者であるとさえ確信できればその裏取りなどどうとでもなる。
それに魔法の術式の正しさを判別することで多重詠唱を使いこなす等、その力の汎用性はタカナ自身で証明している。
「とにかくよ、下手にタカナの力は使わせられないから私が方針を示すわね」
タカナ自身でもどうすればわからないと言っているのだから、私が決める他ないだろう。
「提案そのものはまず聞こう」
タカナはそれに反対しなかった…………というか聞くだけ聞いてそれを受け入れるかどうかは自分次第のつもりだからだろう。あくまで私のそれは提案であって強制ではない。
「まず一つはすぐにこの島から出て連合本部に戻ることよ」
「つまりは距離をとって彼のことを忘れろと」
「そういうことね」
単純な手ではあるが定番の手段だ。
「そもそもの話だが、私はもとよりこの島に長期滞在はできない」
「でしょうね」
戦闘要員である私と違ってタカナは戦時も平時も変わらぬ重要な立場にいる。特に人事面で貢献が大きく、連合軍の人事権は彼女が握っているといっても過言ではない。
その彼女が不在では追加の人員の補充や削減も行えず、また瘴気に近い前線勤務の人員の管理体制も維持できないだろう。
「一応こちらに赴くにあたって出来る限りの準備はしておいたが…………滞在できてもせいぜい三週間といったところだ」
それは長くもあり短くもある期間だ。彼女の立場を考えればそれだけ長く空けられるのは驚嘆すべき点だが、その期間で問題が解決できるかといえば疑問も感じる期間だ。
「その期間をフルに使うか、それとも今すぐゼロにして帰るかって話よ」
「…………帰らなかった場合はどうするつもりだ?」
「それは当然特訓よ」
「なんの特訓だ」
「そんなものアキの魅力に抵抗する特訓に決まってるでしょ」
それ以外にない。
「つまりここから逃げて忘れることを選ぶか、正面から立ち向かうかを選べってことよ」
「なるほどな」
納得し、思考するようにタカナはその目を閉じる。
「あなたがどちらを選ぶにしても私は全力で協力するし、どちらの場合でも帰る際には私も同行するわ…………一度は弟子の顔見せもしなくちゃいけないし、何かあった時のフォローは私がするべきでしょうしね」
この島に来たことで精神が錯乱したと思われても困る。
「いいのか?」
「いい…………というかこれもある種の証明ね。私もあなたと同じように暴走はしたけれど、今は多少アキと離れても大丈夫に思えるくらいには落ち着いているわ」
もちろん長期で離れることなど考えたくはないが、一週間程度なら多分大丈夫だ。我慢できると思う…………多分。
「ある程度は慣れることができるという証明か」
「そういうことよ」
私は頷く。もちろんそれはアキへの好意を否定する形ではないのだが、今のタカナにとってはそれでも希望に繋がる話ではあるだろう。
「弟子ってアリサのこと!? やだ! お兄ちゃんと離れたくない!」
しかしそんな私達の話を聞いてアリサが叫んでいた。
「…………あんなことを言っているが?」
「あれはまだ子供だから」
あんたは違うでしょう?
そう問いかけるように私はタカナを見た…………決してこれはごまかしの意味ではない。
お読み頂きありがとうございます。
励みになりますのでご評価、ブックマーク、感想等を頂けるとありがたいです。




