十一話 助けが来たから悪化する
「おや、観念したのかい?」
壊れた壁から僕が外に出ると意外そうなタカナの声が響く。僕としてはあのまま部屋で暴れられても困るからなのだけど、彼女は別の意味に受け取ったようだ。僕が観念してそれで済むならいっそ構わないような気もするけれど…………多分それは誰も幸せにならない結末を招くのだろう。
「僕は話し合いがしたいだけです」
とにかく落ち着いてもらわなければ誤解も晴らせない。マナカのように実力行使もできない僕には話をする以外に方法がなかった。
「なるほど、それは君の手管というわけだ…………会話の中で少しずつ相手に力を浸透させていくやり方かな?」
しかし僕を洗脳のチート能力持ちと疑うタカナは素直に応じてはくれない。マナカもそうだったけれど僕への好意という強い感情を打ち消すためにはその真逆に振り切れるしかないらしい。
少しでも僕に気を許せばそこから付け込まれる…………そう思い込んでいるのだ。
「僕には洗脳の力なんてありません…………それにその理屈が正しいならあの時点で僕はタカナさんとほとんど会話をしていなかったはずです」
そう、僕はタカナとはほとんど会話らしい会話もしていない。その前に彼女が襲い掛かってきたのだからその理屈は成立しないのだ。
「なら他の方法か? いずれにせよ私はその検証をするつもりはない。原因の究明は君を消した後にすればいいのだからね」
「ちょっと待ってください!」
「待つつもりはない。君は時間を稼ぎたいのだろうが、マナカへの足止めもそう長くは持たないだろうからね」
タカナがそういうと同時に森の方から無数の光の筋が放たれたのが見えた。森中に飛んでいくそれは恐らくマナカの魔法で生み出されたレーザーのようなものなのだろう。それが何の目的なのかは僕にはわからないけれど、タカナの足止めに対抗するものと考えるのが妥当だ。
「初回分のダミーは潰されたか、判断が早い」
しかしそう口にするタカナの声色には動揺がない。想定の範囲内と言わんばかりだ。
「死ね」
そしてタカナ自身の判断も早い。マナカが駆けつけるまでの時間も縮まり僕自身と会話することも危険…………だからさっさと殺す。しかしその言葉に反して僕には何も起こることはなく、先ほどのように何かされたという感じすらしなかった。
「僕は殺せませんよ」
だから僕はそう彼女に告げる。タカナが何もしなかったわけではない、したけれどノワールさんが防いだのだろう。そのことを彼女が認識しているかどうかはわからないけれど、無駄であることを悟ってくれれば話し合いに応じてくれる可能性はある。
「原子分解を防いだ? 防御魔法ごと対象を分解する原子分解は防御不可能なはず…………いや、これも洗脳の影響か?」
物騒な単語が動揺と共に聞こえる。もしもノワールさんが防いでくれなかったら僕はこの世に死体すら残らなかったのかもしれない。
「それならば外しようのない広範囲で……っ!」
何かに驚いたようにタカナの言葉が止まる。彼女の首筋辺り、そこに何か衝撃が走ったように僕には感じられた。
「嘘っ、防がれた!?」
続いて聞こえてきたのはアリサの声だった…………その姿は見えないが、その言葉から察するに彼女がタカナに攻撃を仕掛けたらしい。
「なるほどマナカが太鼓判を押すだけあって大した才能だ。攻撃されるまで私ですら気づかなかった…………が、いきなり急所を狙う前に考えるべきだったな。そこが急所だからこそ不意打ちを警戒して重点的に防御を固めているものだと」
「このっ!」
アリサの悔しげな声と共にタカナの全身のいたるところで衝撃が走る。どこか攻撃の通る箇所がないかアリサが探っているのだろう…………って、そんな風に眺めている場合じゃなかった。
「アリサ! そんなことしちゃ駄目だよ!」
確かに僕はタカナに襲われているがそれは誤解があるからだ。それでなくともいきなり相手を殺しにかかるのは道徳的にもよろしくない。
「でもこいつお兄ちゃんを殺そうとしてるんだよ!」
「でも駄目だ!」
僕は叫んで返す。それでも恐らく悪いのは僕の方なのだ。
「やれやれ、隠形は見事だがそれだけだな」
呆れるようなタカナの声。
「隠匿看破」
その言葉と共に虚空にナイフを持ったアリサの姿が浮かびあがる。
「嘘!」
驚いてアリサの動きが止まる。てっきり僕はアリサが隠れてどこかから魔法で攻撃しているのだと思っていたけれど、魔法で姿を消して直接タカナを狙っていたらしい…………そんな魔法をアリサは教えていなかったと思うけれど、いつ覚えたのか。
「くっ」
しかしすぐに冷静になると即座にアリサは後方へと跳んだ。一旦森に潜んで姿を消して仕切り直そうとしたのだろう…………しかし彼女はほとんど移動することなく何かにぶつかったように後頭部を強打し、その反動で前に倒れた。
「い、いったーい! なに!? 見えない壁がある!?」
「孤牢結界だ。範囲は狭いから下手に動くとまた頭をぶつけることになる」
「このっ…………固いじゃない!」
「そんなもので破れるほど柔なものじゃないに決まっているだろう」
ナイフで見えない壁を穿とうとするアリサをタカナは呆れるように見やる。
「ならっ!」
するとアリサはナイフを放り捨てて両手をかざす。しかしすぐに何も起こらないのは彼女が、魔法を放つための術式を構築しているからだろう。時間がかかるのはアリサが未熟なのもあるが恐らく強力な魔法を構築しているせいだ。
「やめておけ。その中で爆裂系の魔法を使っても自爆するだけだぞ」
「ぶち破るもん!」
「やれやれ」
忠告に耳を貸さないアリサにタカナは疲れたように額を抑える。
「こんなのすぐ、に…………ふにゃ」
「ようやく効いたか。子供にしては耐性もずいぶんと高い」
不意に倒れ伏したアリサを感心したようにタカナが見やる。
「なに、を」
「彼女を結界に閉じ込めると同時に魔法で眠りガスを発生させておいただけだとも」
殺したわけではないことに僕はほっとするけれど、冷静に彼女の口にしたことを鑑みて驚愕する。
「しかしまだあんな年齢の子供を自爆を覚悟させるほどに自分に入れこませるか……………その力も人格もやはり危険だな」
「それは誤解です!」
「どのあたりが?」
「っ……………」
冷静に聞き返されて僕は言葉に詰まる。客観的に見ればそうとしか見られないのは事実でどう反論すればいいのかわからなかった。アリサが勝手に僕を好きになって自主的にやっただけと口にするのはそれが事実であっても最低にしか聞こえない。
「やはり君は死ぬべき人間のようだ」
冷たい視線が僕へと向けられる。
つらい…………しかしここで僕が心折れるわけにはいかないのだ。
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