八話 何をしようが回避できないものはある
「連れて来たわ」
マナカが戻って来たのは友人を連れてくるといって三十分ほど経ってからだった。
「それじゃあタカナも入って」
最初にマナカが入って来て、続いてその友人を招き入れる。長い黒髪に眼鏡をした少女だった。容姿は整っているように見えるけれど、気難しそうな性格が表情に出ているようで一歩踏み込みがたい印象を受ける。
マナカは真面目と評していたけれどまさにそんな感じだった。
「初めまして。イタガキタカナだ。マナカの友人で国家連合軍では主に人員の管理を統括する立場にある」
個々を見回すことなくまず全体に対して彼女はそう自己紹介した。
「まあ、見ての通りの奴よ。でも悪い奴じゃないから」
そう付け加えるマナカの表情は少しほっとするようでもあった。まだ僕を直視していないといってもアリサの例がある。マナカの友人ともなれば実力も相応にあるだろうから、気配だけでも反応があってもおかしくはない…………それが今のところ何の反応も見せていないのだからもう大丈夫である可能性は高い。
「時間かかるのもあれだから私から手短に紹介していくわね。そっちのちんまいのがアリサで私の弟子よ」
「ほう、君が」
「ちんまくないけどアリサです!」
視線を向けられてアリサが愛想よく笑みを返す。普段の彼女であればちんまいという表現に反発しそうだけれど、事前にマナカから言い含められたこともあって流石に空気を呼んだのだろう…………アリサも少しは成長したのかもしれない。
「で、その隣がイリーナで元魔族よ」
「うー!」
イリーナの方は多分状況をわかっていないけれど、アリサを真似てか同じように元気のいい返事をした。
「すまない…………今おかしな単語が聞こえた気がしたのだが」
「聞き間違いじゃないわよ。元魔族よ、イリーナは」
「それが正しいとわかるから私は困惑してるんだ」
まあ、普通はそういう反応になるのだろう。タカナの困惑は至極真っ当なものだと思う。
「そもそも元魔族というのはどういうことなんだ?」
「魔王の命令系統から外れて人種への敵意もないならもう魔族じゃないでしょ」
「そんなことがありえるのか?」
「見ればわかるでしょ」
「…………」
言われてタカナはイリーナをじっと見るが、それにイリーナは首を傾げて不思議そうに彼女を見返す。それは状況を理解できていない純真無垢な子供といった反応で、とてもじゃないが人種の天敵である魔族には見えないだろう。
「イリーナといったか…………君は本当に僕ら人種への敵意はないのかい?」
「うー?」
何を言われているのかわからないという表情をイリーナは返した。
「一体何がどうなったら魔族がこうなるんだ」
「…………愛の奇跡ってやつかしらね」
マナカ自身もうんざりとしたような表情で答える。
「つまり彼女も件の彼氏に影響を受けたということか」
「そういうことよ」
頷くマナカにタカナは頭痛を覚えたように額を抑える。
「納得しなら次よ」
しかしそんな彼女に構う事無くマナカは話を進める。
「そこに座っている長命種がノワール…………この島の支配者よ」
「支配は、していないかしら」
穏やかな声でノワールさんが訂正する。実際に彼女はこの島を支配などしていない。客観的にはそう見えるだろうけど、あくまで彼女はこの島に他者が済むことを許容しているだけで搾取はしていない。町に制限はかけているけれどそれも彼女がこの島を去る基準であって過大な要求をしているわけではない。
「入念に説明したけど、触れるな危険の生き物よ」
「ずいぶんな言い方、なのね」
「事実でしょ」
確かにまあ、ノワールさんに関わらないで済むならそれが一番いいかもしれない。僕には好意的でいてくれるけれど、それ以外に対しては決して好意的ではないことを僕も知っている。
「で、最後に彼がアサガアキよ」
ノワールさんに関わらせないためかさっさと切り上げてマナカは最後の僕の紹介へと移る。そこでようやく僕はタカナと正面から視線を合わせた。
「なるほど、君がマナカの彼氏というわけだね」
「…………ええとまあ、はい」
歯切れが悪くなったのは僕の中でその辺りがはっきりと定まっていないからだ。僕はここのいるタカナ以外の四人から好意を持たれているけれど、そのうちの誰かとはっきり恋人関係になったわけではない…………ノワールさんとはそういう関係になろうとしているし、それと同じことをマナカから要求されてはいるけれどまだ、なのだ。
しかしこの口ぶりだとマナカは僕を彼氏だとして説明したのだろうか…………友人の彼氏というそれが、多少なりともタカナの心理的な障壁になることを期待したのかもしれない。
「そしてタカナだけではなくいたいけな少女に長命種に魔族までも」
「…………そうなります、かね」
マナカが止める様子はない…………つまりはそういうことにしておけということなのだろうと判断して僕は頷く。客観的には最低だろうと思うけれど、最低と思われるくらいの方が僕にはちょうどいいのかもしれない。
「そうか、まあ拘泥せずに潔く見とめたことは評価しよう」
落ち着いた様子でタカナはそう言うと目を伏せ…………開いた。
「っ」
「では死ね」
言葉と共に僕へと向かって何かが飛来したのだと辛うじてわかる。多分魔法なのだろうけど僕には目視も感知もできず、回避行動をする余裕もなかった…………しかし僕には何も到達することはない。
この場には世界最強の僕の守り手がいるのだ。心配するべきはその報復が行われるかどうかだ。
「タカナッ!」
だからなのか真っ先に動いたのはマナカだった。友人に過剰な報復をされないためか彼女はタカナへと体当たりをするように突っ込み、そのまま僕の家の壁を突き破って外へと彼女を押し出した。
「あ、壁が…………」
半ば現実逃避するように僕は呟く。力任せにぶち破られた壁は盛大に穴が開いていてまともに修復できそうな状態ではない。
「それくらいお姉さんが直してあげる、からね」
「え、あ…………ありがとうございます」
考えてみればこの家は元々ノワールさんの魔法で建てられたものだ。直すのだって簡単なことだろう…………って、そうじゃない。
「あの、ノワールさん!」
「大丈夫。お姉さんは手を、出さないわ」
僕の言いたいことを先回りするようにノワールさんが答える。
「ええとその、ありがとうございます」
「お礼を言われるようなことじゃ、ないかしら」
ふふふ、と微笑ましくノワールさんが僕を見る。
「それにしても相変わらず、アキ君は罪な男ね」
それはつまり、これはやはり僕が原因ということなのでしょうか?
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