六話 見た目の年齢は役に立たない
マナカが戻って来たのは彼女が町長さんの家に滞在することを決めて三日目の朝だった。しかしその表情は芳しいものではなく、何かトラブルがあったのだと思わせる。
「面倒なことになったわ」
「また、なのかしら?」
「…………仕方ないでしょ」
ノワールさんの皮肉にマナカは顔をしかめる。
「ええと、マナカの友人には会えたんだよね?」
「会えたわ」
元々こちらにいきなりその友人が来てしまうことがないようにとマナカは町長さんの屋敷に滞在することにしていたのだ。それであれば最悪の想定は避けられたのではないだろうか。
「何とか面倒になりそうな部分ははぐらかして説明しようとしたんだけど…………結局全部話すハメになっちゃったのよ」
「えー、ダメじゃん!」
信じられないというようにアリサが不満の声を上げる。
「適当に言いくるめればよかったのに!」
「タカナには嘘が通用しないんだからしょうがないでしょ」
僕らのことを隠そうとすればどうしても嘘は必要になる…………それが使えないとなればマナカも苦労したことだろう。
「その、嘘が使えないっていうのは転生者だから?」
「そうよ、そういう力をあの子は貰ってるの」
もしかしてと確認するとやはり神から与えられたチート能力絡みのようだ。
「それ、すっごい地味!」
「そう思うならそう思っときなさい」
適当にあしらうようにマナカがアリサにひらひらと手を振る。それはつまり単純に嘘を見抜くという能力ではないか、応用によってなにかすごい使い方もできる力ということなのだろう…………ちらりとノワールさんの表情を伺ってみるが変化はない。それでもノワールさんにとっては気にするほどでもないということなのだろうか。
「それで私の友達…………タカナはアキに会いたいらしいのよ」
「えーっ!」
アリサが大声を上げる。
「駄目! それは駄目だよー!」
「うー!」
わかっているのかいないのか、アリサと一緒にイリーナも叫ぶ。
「まあ、事情を知ったならそういう反応になるよね」
しかし僕としては予想通りというか想定内の反応だ。マナカ自身ですら洗脳されたと疑って僕を襲ったのだ、傍から聞かされれば僕の魅力というやつはまともなものとは思えない。直接本人に会って確認しようと思うのは当然のことだ。
「そんなわけだから、会わせていいか許可を貰いに来たの」
その視線は僕ではなくノワールさんに向けられていた…………まあ、ノワールさんは僕の保護者だし許可をとる優先順位としては間違っていない。もやっとはするけど。
「好きにしたら、いいんじゃないかしら?」
そしてノワールさんは特に止めるつもりもないようだった。マナカやアリサにイリーナもノワールさんはあっさりと認めていたし、さらに増えることになるのだとしても気にしないのかもしれない…………僕は気にするけれど。
「あのさ、僕に会わせて大丈夫なの?」
不本意ではあるが僕には特定の異性を引き付ける魅力があるらしい。それは能力が高く性格に難のある異性であることが多いらしい…………マナカの友人をそう判断するのは悪いとは思うのだけど、僕としては不安が大きい。
「私もそれで会わせたくなかったし、そのことも説明したのよ」
「納得してくれなかったの?」
「その辺り頑固なのよ、あの子は」
そこが良い面でもあるのだけどと呟いてマナカは息を吐く。
「それに絶対に大丈夫だっていう根拠も説明されて?」
「根拠?」
「…………最近恋人ができたらしいの」
「それは…………」
どうなんだろうかと僕は思う。もちろんマナカの友人自身としてはそれが確固たる根拠ではあるのだろう。僕としてもそれは信じたい…………信じたい、のだけれど。思わずノワールさんを確認するように見てしまう。
「すでに伴侶がいるから目移りしないなら…………世の中に浮気は存在しない、わよね?」
「…………そうですね」
「結局はより魅力的な異性がいれば本能はそれに従う、のよね」
「…………」
つまりマナカの友人が僕に惹かれる条件を満たしていればどうなるかわからないということだ。その恋人が僕より魅力あふれる人なら問題はないだろうし、見知らぬ僕と違いそれまでの愛情の加味もあるだろうから大丈夫かもしれない…………しかしマナカやアリサにイリーナという前例を見ていることもあって不安がぬぐえない。
「マナカはそれで納得したの?」
「単純に普通の恋人だっていうのなら私だって納得しなかったわよ」
「…………つまりその恋人は普通じゃないってこと?」
今の言い方ならそうなる。
「まず、タカナは私やアキと同じように転生してきた人間なの」
「うん」
つまりこの世界で赤子から生まれ直すことを選ばなかった転生者ということだ。それは元の年齢やそれに近い年齢の姿で転生することができる代わりに、この世界で一から生まれることで両親などの身内や戸籍を持たずに生活基盤を整えなくてはならない。
「タカナも年齢的には前世含めて私たちと変わらないくらいよ…………見た目もまあ、同じくらいね」
僕らと変わらないくらいということは前世との合算で三十は超えているということだけど、僕やマナカがそうであるようにこの世界では見た目の年齢を若くする手段はいくらでもある。
「で、その恋人っていうのも転生者」
それは可能性としては高い話だ。転生者というのはこの世界では特別視されるものであるらしいし、恋愛ごとは同じ立場同士の方が発展しやすい。
「ただ、その転生者はこの世界で一から生まれ直すことを選んでたのよね」
「え」
それはつまり僕らとは違う転生の仕方を選んだ転生者ということだ。彼らは僕らがこの世界に転生してきた時期に赤子としてこの世界で生を受けている…………つまり、だ。
「その恋人の年齢って」
「そうね、この世界の実年齢は十歳くらいよ」
「アリサより年下じゃない!」
「そうなるわね」
驚くアリサに答えるマナカの表情は憮然としたものだった…………それはまあ、そうもなるだろう。友人に恋人ができたと知らされて祝福するべきところで相手の素性を知らされれば僕でも笑顔は維持できない。
「ええとでも、転生者なんだよね?」
「ええ、向こう側での年齢は私たちより上だったらしいわ」
「そ、それなら…………まあ、いいのかな?」
中身は一応大人ではあるのだし。絵面としては良くないのは間違いないけれど。
「でも最初は一目惚れに近かったって言ってるのよね」
「…………それは」
中身ではなく見た目に惹かれたというのはかなり問題がある。
「ああでもそれで大丈夫って根拠に…………」
「そうなのよ」
少なくとも僕は少年といえる見た目ではない。マナカの友人がその年齢の見た目の相手に惹かれたのだというのなら確かに僕に惹かれる可能性は低いかもしれない。
しかしそれが喜ばしいともいえずマナカは微妙な表情を浮かべていた。
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