五話 正しいことがわかっても正しい判断はできない
私、イタガキタカナが神から与えられたチート能力は実に地味なものである。なぜならそれは他の転生者のように直接的な現象を引き起こすものではなく、すでに存在するものの情報を精査するものであったからだ。
正しさの判定
それが私に与えられたチート能力だった。いかなる物事であろうとも私はそれが正しいかどうかを判定できる。それは言葉や物の真贋を見抜けるから便利…………というわけでもない。
私に判定できるのはあくまで正しいかどうかだけで、例えば魔道具の鑑定であればそれが本物か偽物かを判断できてもそれ以上の情報が得られるわけではない。その魔道具が本物であることは判定できても、どういう使い方や効果を持つものかまではわからないのだ。
ただ、神から与えられたものだけあってその効果は非常に正確だ。私の力でなくとも魔法による真偽判断は可能な世界ではあるが、同時にそれを誤魔化すための魔法も存在する。そんな中で百パーセントの信頼を持つ真偽判断というのは非常に価値のあるものだった。
それに私が正しさを判定できるのは人や物の真偽だけではない。それに気づいてからは私の力は転生者の行動を決める大きな指針となった…………それと同時にこの力の大きなデメリットも明らかになってしまったが。
とにかくだ、私は相手が嘘を吐いているかどうか性格に判断できる。正確に言えば相手が正しいことを言っているかどうかを判断できるのだ…………その私の力によればマナカは正しいことを言っているらしい。言っているらしいから私はどんどんと困っている。
「ええと、それは本当なのかい?」
思わずそう口にしてしまうくらい私は判断に困っていた。
「あなたの力はどう判定してるのよ?」
「君は正しいことを言っていると判定している」
「ならそれが真実よ」
「…………」
その返しに私は思わず沈黙してしまう。
「君がその…………アサガアキ君だったか? 使命を受け入れなかった転生者を好きになったことは別にいい。君の精神状態が落ち着いてそういうことを考えられるようになった証拠と思えば喜ばしいものだし、神からチート能力を貰ったうえで使命を放棄した転生者も多いのだからその彼に対して私が思うところはない」
むしろ使命を果たさないのだからチートも貰わないという潔さには好感が持てる。その代わりに現地の実力者から保護を受けることになったという話だが、この世界の実情を知っている私からすれば妥当なところだと思う…………この世界に無能力で放り出されればすぐに死ぬだけだ。
「しかし、しかしだ」
だがそれはそれとして納得しがたい話を私は聞かされてしまったのだ。
「他者を物理的に排除してまでも独占したくなったり、一目惚れどころか気配を認識しただけでそこまでの好意を抱いてしまうような魅力というものは信じ難い」
それこそそれが神から与えられたチート能力だというのなら納得するが、チート能力は拒否していてただ前世から引き継いだ魅力であるというのは流石に信じ難い。
「まあ、そういう反応になるわよね」
だから言わずに誤魔化したかったのだというようにマナカは息を吐く。
「いっそ君が洗脳でそう信じ込まされていると言ってくれた方が納得できるよ」
「だから最初に私が洗脳されているかどうかを判定するように言ったんじゃない」
「ああ、君は間違いなくシロだ」
洗脳系の厄介なところは洗脳されている本人の言葉が真偽判定の魔法では判断しづらい点である。ああいった魔法は当人が嘘を嘘として認識していなければ見抜けない。洗脳によってそれが真実であると思い込まされていると判別できないのだ。
しかし私のチート能力は例え当人が洗脳されていることを自覚していなかったとしても正しい答えを教えてくれる…………そして残念ながらマナカの判定はシロ。
つまり洗脳などされていないわけで、さらに嘘を吐いていないとなれば真実を語っているとしか判断できない。
「だがまだ君が単純に騙されている可能性だってあるだろう?」
「ならそれが正しいかどうか判定して見なさいよ」
洗脳ならずとも人を騙すことは可能だ。間違った情報をマナカが与えられているのなら嘘を吐かずとも真実を誤魔化せる…………しかしマナカはあっさりとそれならそれも正しいかどうか判定すればいいだろうと言ってくる。その通りだ。
私は世界に問いかける。
マナカが口にしたことはこの世界にとって正しいことであるかを。
答えはすぐに返ってきた。
「…………正しい」
私はその答えを呟いて思わず額を抑える。頭痛を覚えた気がした。
「それは反動?」
「いや、ただの精神的なストレスだよ」
私の力には相応の反動がある。それを心配するマナカにただの気疲れだと私は返した…………いやもうここ最近は君にまつわる頭の痛いことばかりだよ、本当に。
「なんにせよ、そのアキ君に一回会わせてもらうしかないね…………後その保護者であるという長命種の女性にも」
「え、なんでよ」
「なんでもなにも当然のことだろう?」
どうしてこれで会わせないで済むと思ったのか。普通に考えれば直接会って判断するしかない流れだろうに。
「上に報告するにしてもアキ君を私が直接判定したという事実は必要だし、報告はしないにしても友人としてその人間性を見定めておきたいというのは当然だろう?」
「報告は止めて」
「ならば猶更直接確認する必要があるね」
友人としてそこは譲れない。
「…………保護者の方にまで会う必要ある?」
「保護者の許可もとらず保護対象に会うわけにもいかないじゃないか…………それに話に聞く限りそのノワールという長命種はこの楽園の実質的な支配者だろう? 無理な勧誘はしないにせよ此処にしばらく滞在するのだから挨拶するのは礼儀だ」
「あー、もう…………そういうところは変わらないわね」
「こういうことをおろそかにする方が面倒になることを理解しているだけだよ」
この頑固者め、とでも言わんばかりにマナカが睨みつけてくるがこればかりは性分なので変えようがない。
「説明したと思うけど、会うだけで危険なのよ?」
「君が正しく事実を伝えているのはわかるのだけど、どうしてもその表現は過剰に聞こえる」
「実際に私自身が暴走したから言っているの」
マナカの話だとその自分の抱いたあまりの好意の大きさに洗脳を疑ってアキ君を襲ってしまったのだという…………人を好きになる感情は私も理解できるが、そこまでの好意を抱いてしまうというのがどうにも私には想像できない。
もちろん、今私の胸の内にあるこの感情は決して小さなものではないと自負しているのだが。それでも私は私自身を律しきれている自覚がある。
「誰も彼もそのアキ君に惹かれるわけではないのだろう?」
「そうだけど…………タカナは条件を満たしている可能性があるわ」
確か実力があって性格に問題がある異性が惹かれやすいのだったか…………まあ、私の性格に問題があるのは認めるしかないだろう。悪人であるつもりはないが我ながら面倒な性格をしている自覚はあるのだから。
「それなんだがね、恐らく大丈夫だと思う」
「根拠は?」
「実はね、君が旅に出てから恋人ができたんだ」
それを明かすのは友人とはいえ少し気恥しい。思わず顔を赤らめてしまった私をマナカが信じられないものでも見るように顔をしかめていた…………流石にちょっとその反応はどうかと思うよ?
「…………最悪の可能性があるのは分かってる?」
少しして、マナカはそう尋ねて来た…………最悪、今の恋人に対する感情がそのアキ君への好意で塗り潰される可能性だろう。しかしそれは私の想像なら低いはずだ。
「大丈夫だよ、多分ね」
アキ君とやらの容姿を私はマナカから詳しく聞いている。
それは多分、私の好みから大きく外れているはずだ。
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