三話 考えてもどうにもならないことはある
何とかする、とは言ったものの私は自室で頭を抱えていた…………一番いいのはタカナがこの島に辿り着く前に私の方から会いに行くことだ。この島までタカナがやって来てしまうと誤魔化すのが難しいものも多いが、その前に会う事が出来るなら誤魔化せる。
「問題はタカナがどうやって来るつもりなのかわからないことなのよね」
単純に考えるなら私がこの島に来る前に滞在した本土最北端の港で待つのが一番だろう。普通にこの島に来ようと思えばあの港で船を手配して北上するしかないからだ…………しかしそれはあくまで普通に来ようとすれば、なのである。
その方法をとればタカナがこの島に辿り着くのには二月はかかるだろう。この島の位置がわからなければさらに時間はかかるが、恐らく彼女のことだから私と繋がっていた魔力の糸でこの島の位置は掴み取っていることだろう。そうでなくとも彼女の力を使えばこの島の位置を導き出すのは難しくない。
問題は恐らくタカナはその二か月という時間を看過しないということだ。念話が途切れたのが私の身に危険が迫ったのだと想定し、自分にできる最善最速の手段をとることは間違いない…………そしてその場合私が港でのんびりと待っているとすれ違いになる可能性が高いはずだ。
そうすると私が知らないままにタカナはこの島へと踏み込んで、なんのフォローもなくアキ達に遭ってしまうことになる、それは最悪だ。
「結局水際で何とかするしかないわけね」
他にいい方法が浮かばない。手っ取り早いのはノワールに頼んでタカナの元まで飛ばしてもらうことだ。私の知る限りこの世界に転移魔法なんてものは存在しないが、彼女であればたぶん似たようなことをやれるだろう…………ただそれをやるとタカナに彼女の力を知られてしまうことになる。
ノワールのことは紹介するにしても辺境の実力者程度としてタカナには認識しておいて欲しいのだ。そうでなくては私以上に真面目なタカナのことだから熱心にノワールを勧誘しようとしてしまうだろう…………それだけならまだしも彼女の性格を考えると世界の為に何かしようとしないノワールを悪として糾弾しだす可能性もある。
それでノワールの機嫌を損ねれば、面倒を避けようと彼女はアキを連れて姿を消してしまうかもしれない。
けれどそんなことは絶対に許されないのだ。
もしもそんなことになれば、私は怒りでタカナを殺してしまうかもしれない。
「…………いけない」
想像の果てに無用な憎悪を抱きそうになった自分を私は戒める。想像。それはあくまで想像しただけの可能性の話なのだ。まだ現実ではない。しかしそれは私のアキへの好意がきっかけ一つで果てしない憎悪へと置き換わるという一つの現実でもあった…………その現実がやって来ないようにしないといけないわ。
「当分は気を張って過ごすしかないわね」
どんな方法でタカナが来るにせよ、まともな方法で来ないのだから気を張っていないと見逃す可能性は高い。こちらから何とか情報の制限出来る優位な場で彼女を出迎えなくてはならないのだ。
「とりあえず、町長さんに頭を下げてまた宿を借りるとするからしら」
早急にできることはそれくらいだった。
◇
「マナカの友人ってどんな人なんだろう」
僕がそう呟いたのは特別な意味があってのことではなかった。マナカは自分の部屋…………子供部屋と同様に増設されて彼女が自分の部屋にしてしまったそこで対策を考えるといって不在だ。しかし自然と思考はやはりその問題が浮かんでしまってそれが今しがた僕の口にしたことに繋がっている。
「とっても怖い人だとアリサは思うの」
先ほどからイリーナとおままごとのようなことしているアリサが、子供と見立てたぬいぐるみを抱えたままで口を開く。
「うー!」
イリーナもそれに賛同しているのか何やら呻いた。
「どうしてそう思うの?」
「そうじゃなきゃマナカがあんなに慌てて困ったりしないと思う」
マナカにとって頭が上がらないくらい怖い相手、アリサはそう予想しているらしい。
「怖いという様子では、なかったわね」
しかしノワールさんはそれに異論があるように優しく口にする。
「どちらかと言えば面倒、というように見えたわ」
「面倒、ですか」
「もちろんその友人のことを嫌いなわけではないのでしょうけど、こういう状況では面倒な相手ということ、なのでしょうね」
つまりは友人であってもなあなあで誤魔化せない相手ということなのだろう。そして誤魔化せないのであれば僕やノワールさんにイリーナという存在は説明に困る…………なんだかマナカには申し訳ない気分になる。
「それにしてもどうしてアキ君はマナカの友人のことが気になったの、かしら?」
「え」
「やっぱり相手が女性だから、かしら?」
「いやそれはもちろん気になる理由ではありますけど…………」
異性であれば僕に惹かれてしまう可能性があるのだから。
「あれ、でもマナカはその友人が女性だって言ってましたっけ」
確か僕の記憶では友人としか言っておらず名前も性別もまだ聞いていない。マナカ自身も突然のことで慌てていたのかその辺りの説明をすることなく行ってしまったからだ。
「お姉さんにそれくらいのことがわからないはず、ないわよね?」
「…………まあ、そうですね」
なにせノワールさんなのだ。念話の盗聴は普通できないという話だったけれど、マナカとその友人の会話もきちんと聞いていたのだろう。
「ただ別に気になった理由は特にないですよ…………知人の友人でこれからやって来るかもしれないんですから、普通どんな人か思い浮かべるものじゃないですか?」
理由などなく想像してしまう者だと僕は思う。
「それはどうして、かしら?」
「どうしてって…………ある程度想像しておいた方が会った時に動揺しないで済むから、でしょうか」
理由を考えれば会った時にスムーズに話せるように、であるだろう。特に僕は前世のトラウマで対人関係に気後れしてしまうからある程度相手のイメージができていたほうが戸惑わなくても済む。
「あらアキ君は会うつもりが、あるの?」
「え」
「お兄ちゃんは会わないほうがいいとアリサも思うよ?」
戸惑う僕にアリサも続ける。
「…………」
考えてみればその通りではあった。マナカの友人が異性であるなら僕に惹かれてしまう可能性があるわけで、もしも惹かれなければそれでいいのだけれど惹かれてしまったらそれこそ面倒なことになる…………だからこそマナカは頭を悩ませていたのだ。
それなのに僕がノコノコと彼女の友人に会おうとするのは、マナカにとって迷惑でしかないことだろう。
「そう、ですね。会うべきじゃないと僕も思います」
冷静に考えてみればその通りだった。
「まあどのみちマナカも会わせようとはしないと、思うわよ」
「でしょうね」
マナカは多分この森にまでその友人を入れないつもりで対処を考えているはずだ。僕やノワールさんにイリーナの存在は他者に軽挙に知らせるには問題があり過ぎる。
「…………」
だから当面の間はこの森で静かに過ごしていることがマナカには助けになるだろう。下手に僕が動いてどうこう使用したほうが彼女にとっては迷惑だ…………迷惑なんだけど。
マナカの友人がやって来るのに顔合わせもできないというのは、なんだか寂しく思える。
そんな風に感じるのは、僕も前世のトラウマからずいぶん回復したということなのだろうか。
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