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異世界転生してエルフのお姉さんにお世話になったら激重感情抱かれてた  作者: 火海坂猫
一章 純愛編

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六十四話 冷静に考えるといい迷惑

「と、いうわけなのでしばらく僕を居候させてもらえませんか?」


 魔族がすでに島に潜入しているのかいないのか、いずれにせよ時間はないものと思って行動するべきなのは間違いない。だからマナカとの話し合いが済んですぐに準備を済ませて僕は町長さんへと面会し、以前も話を聞かせてもらった屋敷の応接室で事情を説明していた。

 当然マナカも同行しているし、その反対側ではアリサがとても嬉しそうな表情を浮かべている。


「事情は理解できましたが…………正直私としては反対したいところです」

「えー、なんでー!?」

「…………お前は少し黙っていなさい」


 真っ先に不満の声を上げた自分の孫に町長さんはため息を吐く。


「我々も元は大陸からの難民ですから魔族の恐ろしさはよく知っています」


 この町は連合軍と魔族の戦争から逃れてきた難民によって作られたものだ。この町で生まれたであろうアリサはともかく町長のような長く生きている人であれば魔族の脅威を直接見知っているのだろう。


「ですから、その脅威が町に及ぶのを防いでいただけるとなればありがたいことではあります」

「それならなんで反対なんですか?」

「つまるところ今の話をまとめれば魔族に対する盾としてアキ殿を使うということなのでしょう?」

「…………まあ、そうなりますね」


 僕は矢面に立っても魔族に対抗する力を持たない…………ただ、僕はノワールさんから庇護を受けている身だ。ノワールさんは僕に好意を持ってくれているから僕を守ってくれるし、それがなくとも神様から僕を守るよう義務付けられている。


 ノワールさんは本来その力を自由に使うことはできないが、僕を守るためであればその縛りは緩くなるようだ。つまり今回やって来ている魔族相手にも僕を守る形であれば力を使えるはず。


「私の懸念はそこです。詳しい事情は知りませんが魔女様はアキ殿のことを大変気にかけている様子…………そんなあなたを町の盾にすれば魔女様は怒りを覚えてもおかしくはないでしょう」


 そうなれば僕を連れてこの島から去ってしまうかもしれない、町長さんの懸念はどうやらそこだったようだ。


「それなら問題ないわ。ノワ…………あなたの言う森の魔女からはアキをしばらくこの町滞在させる許可をきちんととったから」

「それは…………本当ですか?」

「本当よ」


 確認する町長さんにマナカがしっかりと頷いて見せる…………実際それは嘘じゃない。話しがまとまったら僕らは町に向かう前にノワールさんの家へと寄っていた。

 そしてしばらく僕が町に滞在する旨を伝えてその許可を得ている…………もっとも僕が町の盾となることでノワールさんの庇護を利用することまで説明したわけではない。


 しかし聡明なノワールさんのことだから僕らの意図に気づかないわけもないはずだ。そこを黙認して送り出してくれたのだから、後でとで何か埋め合わせを考えないといけない。


「まあ、これが私たちからの提案でアキに強制する形だったら魔女様だって怒っただろうけどね、これはアキが自発的に提案したことだから」

「それは…………アキ殿、感謝いたします」

「え、いや、そんな…………」


 深々と頭を下げられて僕は戸惑う。確かに提案したのは僕でその通りではあるのだが、内容的にはノワールさん頼みで僕自身が体を張るわけでもない…………そんなことでこれほど感謝されるととても申し訳ない気分になる。


「ああそれと、町で不足している物資とか必要な物なんかがあれば後で私に教えて欲しいわ。すぐにとは言わないけれど、この島の存在が発覚しない形で融通するから」

「町を守って貰う上にそこまでして頂くわけには…………」

「いえ、これはさせて欲しいの」


 とんでもないと固辞する町長さんにマナカはバツが悪そうな表情を浮かべる。


「さっきも説明したけど今回襲ってくるであろう魔族は私を狙ってきている可能性が高いわ…………つまり私がこの島に来なければなかったはずの襲撃なのよ。もちろん町は守るけれど、本来なかったリスクを与えてしまったわけなんだからその埋め合わせはさせて頂戴」

「そうですか、それならば遠慮なくご好意を受けるとしましょう」

「そうしてくれると助かるわ」


 自分が危険を招き入れてそれから守ることで感謝されるのでは、マッチポンプになってしまうことをマナカは気にしていたらしい。実際問題魔族の狙いがマナカであれば町はいい迷惑なわけで、その保証であればと町長さんも受け入れた。


「しかし具体的に魔族にはどのように対処されるつもりなのですか? 話を聞く限りではまだその所在もはっきりとしていないようですが」

「そうね、だから準備ができたらこちらから仕掛けるわ」

「仕掛ける、というと?」

「準備ができ次第この島を中心に魔力感知で精査していく…………それで向こうも何かしらの反応を見せるはずよ」


 自分我魔力感知されていることに魔族が気づけば逃げるか即座に襲いに来るかの反応があるはずだ。そして仮に魔族に気づかれずに魔力感知を終えることができればこちらから襲撃のチャンスが生まれる。


 だからあちらの襲撃に対する備えさえ済んでしまえば、こちらから魔力感知を仕掛けることであちらの行動を制限出来て有利なのだ。


「なるほど、それで準備と言うと?」

「概ねはこの町の住人の避難準備よ。魔女様はアキだけは守るだろうけどその他の被害は気にしないでしょうからね。魔族との戦いが始まったら一か所に集まって避難して欲しいのよ」

「なるほど」

「…………」


 多分、ではあるが…………その時にはノワールさんは町も守ってくれるのではないだろうかと思う。もちろんノワールさんにとってこの町のことなどどうでもいいのは事実だろう。だけど僕は目の前で町の人たちが死んでいくのを見て平気な人間ではない…………だから、そんな僕の心を守るためにもノワールさんは街ごと守ってくれるのではないかと思う。


 けれどそれは僕の願望にも似た推測でしかない。だからそれを口にして町長さんたちを下手に安心させてしまうわけにもいかないだろう。何が起こっても大丈夫なように避難してもらった方がいい。


「もともと非常時には町の中央の集会場に集まるよう町の規則として定めてあります。危急を知らせる鐘を鳴らせば町の人間は自然と集会場へ避難するでしょう」

「それでいいわ。避難が完了したらその集会場から巻き込まれる範囲にアキが待機するから」


 僕が巻き込まれる状況であればノワールさんは防いでくれる、という想定だ。


「ただ、注意するべき点があるわ」

「それは何でしょうか?」

「アキの存在を町民には秘匿ひとくすることよ」

「秘匿、ですか?」


 怪訝な表情で町長さんが僕を横目で見る。


「すでに彼のことは町の人間には知れてしまっていますが」

「でも知ってるだけで直接見た人間は少ないでしょう? 今日来る時にもアキには顔を隠させてきたわ」


 正確には顔だけではなく僕の気配もマナカによって隠蔽されていた、らしい。


「なぜ、とお聞きしても?」

「詳しい説明はできないわ…………でも、あなたの孫のような人間を増やしたくはないでしょう?」

「!?」


 マナカのその言葉に町長さんは顔をしかめる。


「なるほど、それは確かにそうですな…………そんなことはない方がいいには決まっている」


 苦々しい表情なのは彼にとっての一番の身内がすでに手遅れであるからだろう。


「あのさ、でもそれだとちょっと間に合わない可能性もあるかもなんだけど」


 見かねてと言うわけではないのだけど僕は危惧を口にする。マナカの言うことはもっともなのだけどそれだと町の人たちが完全に避難してからでないと僕は動けない。そうなると僕が適切な位置に付くまで町の人たちが無防備になってしまうと思うのだ。


「その、アリサみたいなことはそうそうないと思うし…………」

「駄目よ」


 多少なら大丈夫、と僕は思うのだがマナカは即却下してきた。


「いやでもさ」

「駄目って言っているのよ」


 食い下がろうとする僕をさらに強い口調でマナカが否定する。


「アキ殿、心配いりませぬよ」


 そんな僕へと町長さんが柔らかい笑みを向ける。


「心配してくださる気持ちは嬉しいですが…………我々もそれほど弱くはありません」


 そう口にする町長さんの顔には、これまで見たことのない凄味があった。


 お読み頂きありがとうございます。

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