六十三話 使えるものは何でも使う
「もしもその悪いやつ……多分魔族がこの島にやって来るとしたら目的は何なんだろう」
そう疑問を口にして僕は顔をしかめる…………目的は僕、という可能性もあるだろう。僕の魅力とやらが魔族相手にも効果のあるものかどうかは知らないが、何かしらの影響を与えた可能性はゼロじゃない。
「アキではないわよ」
しかしそれをマナカは否定する。
「アキに惹かれるにはまずアキという存在そのものを認識することが必要よ…………でも前に説明した通り魔力感知で今のアキの存在を遠方から認識できる可能性はほぼない。それに魔力感知できる距離だってノワールのような規格外でもない限り限度がある…………仮に魔王であっても内陸からこの島まで感知するのは不可能だわ」
考えてみればマナカだって僕やノワールさんの存在を魔力感知で見つけてこの島にやって来たわけではない。彼女は北の果ての楽園の噂を聞き、それが実在するなら魔王との戦いで戦力になりうる実力者がいるのではと調査にやって来ただけなのだ。
そこで偶然僕と出会ってしまってあんなことになったに過ぎない。
「だから、目的は十中八九私でしょうね」
「マナカを?」
「忘れてるかもしれないけれど、私は魔王討伐に挑んだ転生者の生き残りで国家連合軍の重鎮よ。魔族から狙われる理由なんていくらでもあるわ」
「あ、そうだった」
彼女はこんな辺境の地を自分で調査しに来るのが本来おかしい立場の人間なのだ。
「でもアリサお姉ちゃんって死んでることになってるんだよね?」
不思議そうにアリサが口にする…………そういえばそうだ。魔王に挑んだ転生者はそれを撃つこともできずマナカ以外全て死んでしまったという話で、だからこそ唯一生き残ってしまったことに対する世間の批判などを懸念して彼女が生き残ったという事実は伏せられたという話だった。
「世間的にはそうなっているけれど、連合軍の上のほうの人間であれば私が生きていることは知っているのよ。そもそもある程度情勢が落ち着いたら私の生存は明かす予定だし、厳格に隠しているってわけじゃないの」
あくまで余力のない現状で民衆の混乱を避けたいための処置ということらしい。
「それに肝心の魔族連中は私が生き延びたことを知ってるしね」
直接現場にいた相手で口止めも不可能な相手なのだから当然だ。マナカの話によると彼女は魔王から唯一生き延びて戻り討伐隊の結末を伝えたが、その際に負った傷が元で亡くなったというのが一応の公式の発表となっているらしい。
だからそれが魔族側にも伝わっているならマナカも死んでいると思われているはずだが、伝わっていないのか独自に彼女の生存を知ったのかでマナカを狙いに来たということのようだ。
「それじゃあどうするの?」
「どうするも何も迎え撃つしかないわ」
当然のことのようにマナカは答える。
「もうこの島まで来ているのだとしたら、今から逃げ出してもそこを狙われるだけよ」
「まだ到着してないかもしれないけど」
「それにしたって近いところには来てると思うわ…………そりゃノワールならどれだけ遠くでも魔族の反応くらい掴めるんだろうけど、確実にこの島に迫ってるなんて状況にならない限り私たちに教えないでしょ?」
そしてそれはこの島にかなり近い距離である可能性が高い。
「えっと、それならこっちから魔力感知で確認したらどうかな」
僕にはまだ出来ないがマナカであれば出来るだろう。島を少し超えるくらいは感知できると以前に言っていたしそれでこの近辺にいるかいないかは判断できる。
「悩ましいわね、確かにその所在ははっきりさせたいけどそれでこちらに気づかれる可能性だってあるもの」
「軽い、奴なら大丈夫なんじゃなかったっけ」
「それも気づかれにくいってだけで気づく奴は気づくわ。結局個人の感覚の問題だもの。そっと触れば気づかれないかもしれない程度のものよ」
つまり相手が敏感であれば軽い魔力感知でも気づかれる可能性が高いということらしい。
「魔力感知は汎用的な技術ではあるけど才能によって大きく精度や隠密性は変わるものだから…………アリサなんかは訓練すれば多分かなり高いレベルで魔力感知ができるようになるだろうけど」
「それは隠形が得意だから?」
「そういうことよ」
気配を隠す術に長けているから魔力感知も気づかれることなく行えるということらしい。
「で。話を戻すけどこちらの魔力感知に気づかれたら相手がとる行動は二つ…………逃げ出すか即座にこちらを襲いに来るか、よ」
まあ、そうなるだろうと僕も思う。襲撃者が自身の存在を悟られたならその二択のどちらかを即座に選ぶしかない。そのまま潜み続けても自分が不利になるだけだ。
「逃げるならまあ…………よくはないけど、それよりも問題はこちらを襲いに来た場合よ」
「…………つまり、町が巻き込まれるかもしれない?」
「そういうことね」
「えー! それは駄目だよ!」
アリサが叫ぶ。彼女にとって町は生まれ故郷であり家族や友人が住んでいる場所だ。そこが魔族とマナカの戦いに巻き込まれていいはずがない。
「もちろんその時は私だって海に出るとかして町を巻き込まないようにするつもりだけど…………最悪なのはその誘導に相手が乗らずに逆に利用しようとして来た場合よ」
「利用と言うと、つまり?」
「町というかそこの住民を人質にしてくる可能性があるってことよ。あいつらはそうすることに躊躇いはないし、むしろ私たちに有効だと理解しているわ」
この世界の生命全てを滅ぼそうとしている存在なのだ、マナカを殺すために人質をとることに躊躇するはずもない。マナカが町を巻き込まないように魔族を誘導しようとすれば、逆に人質が有効だと相手に気づかせることにもなってしまうのだ。
「少なくともやって来ている魔族は私を殺せるだけの力はあると自認しているはず…………当然私は殺されてやるつもりはないけど、流石に町を守りながら戦えるような相手じゃないでしょうね」
「…………」
相手だって返り討ちにされるつもりはないだろうから、マナカの言う通り彼女に勝てると思えるだけの力は持っているはず。そして実力が伯仲しているなら余計なことに気をとられたほうが敗北するのも間違いない。
守るもののある方が不利だ。
「だから理想を言えばこちらから奇襲をかけたいところよ」
奇襲で相手から余裕を奪えばマナカの望む戦場へ誘導できる可能性が生まれる。運が良ければそれ以前にそのまま相手を倒して終わりにできるかもしれない。
「でもその為には魔力感知が必要なんでしょ?」
「その通りよ」
マナカは肩を竦めてアリサに答える。奇襲を仕掛けるためには魔力感知で相手の居場所を探らなければならないが、その魔力感知で相手に気づかれては意味がない。相手の実力がわからない以上は運試しになってしまう。
「それなんだけど…………一つ保険をかけられるかもしれない」
ふと思いついて僕は口を開く。それを提案することに罪悪感はあるけれど、僕だって町の人たちを危険にさらしたくはない。
「保険って?」
「その、魔力感知に気づかれて戦いになった場合に…………町を守れるかも」
「どうやってよ」
「しばらく町長さんの家に僕が居候させてもらう」
「えっ、お兄ちゃんがアリサと一緒に住むの!」
「あんたはちょっと黙ってなさい」
アリサが声を上げるのをマナカが口を塞いで黙らせる。アリサは当然抗議して彼女の手を外そうするが、その手は固定されたように動かなかった。
「町が襲われたら自分が出て言って止めようって言うんじゃないでしょうね…………言っておくけど、アキの魅力は万人に通用するものじゃないし魔族が惹かれるかどうかもわからないのよ?」
「それはわかってるよ」
僕の魅力とやらがそんな無差別なものであれば流石に前世で気づいている。
「でもね、町がもし危険に陥れば僕も危険になる…………そうなれば、ノワールさんが守ってくれるはずだから」
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