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異世界転生してエルフのお姉さんにお世話になったら激重感情抱かれてた  作者: 火海坂猫
一章 純愛編

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六十二話 言葉にしなくても伝えられる

「アキ君、大事なお話があるの」


 ノワールさんがそんな風に声をかけてきたのは僕とアリサの訓練がひと段落ついて休憩している時だった。僕も何とか簡単な炎の魔術を習得することができ、アリサには負けているものの強くなれる手応えも感じられて程よい満足感を覚えることができていた…………それで休憩後も頑張るため自分と皆にお茶の用意をしようと家に戻ったところだ。


「えっと、なんですか?」


 このタイミングでノワールさんの大事な話というのが思い浮かばない。しかしノワールさんの側から話しに来たということはかなり重要なことなのだろう…………ノワールさんは僕が尋ねれば答えてくれるけれど尋ねない限りは教えてくれない。

 それは多分僕の自主性を尊重してくれているからなのだろうけれど、その代わりよほど重要なことでもない限り彼女の方から伝えには来てくれない。ここ最近で言えばマナカがやって来る時くらいだろう。


 そんなノワールさんがわざわざ僕一人のタイミングを選んで話しに来たのだ。重要な話に決まっている。


「ごめんね、言えないの」


 しかし緊張して身構えていた僕にノワールさんは困ったように微笑む。


「え、言えないって…………」


 それならなんで僕に話しに来たのかと戸惑うけれど、じっと僕を彼女が見つめていることに気づく。何かを察することを願うように。


「それはノワールさんが口にできないことなんですか?」

「…………」


 ニコニコと、ノワールさんは微笑んだまま何も答えない。それはつまりそれに答えるだけでも僕に答えを教えかねない話ということだ。


「後はマナカとでも話すと、いいわね」


 そしてその内容はマナカと相談する内容だとノワールさんは暗に告げる。


「だからお姉さんはもう、帰るとするわ」

「あ」


 ノワールさんが僕に背を向ける。まだお茶も出せていなかったのに。玄関に遠ざかって行くその背中に僕は焦りのような感情を覚える。言えない何かをあえて伝えようとしてくれたノワールさんをこのまま帰らせるのは申し訳なく感じる。


「あの、ノワールさん!」


 それで思わず僕は彼女を呼び止めた。


「なに、かしら?」

「あの、その…………」


 しかし言葉が出てこず、視線を下げると用意しかけのお茶のセットが目に映る。


「今度、ゆっくりお茶をしませんか? ええとその、訓練の合間とかじゃなくて純粋に二人だけで」


 手を繋いだ時と同じ、そういう時間がノワールさんと欲しいと僕はふと思ったのだ。


「ええ、それはいいわね…………とてもいいと、思うわ」


 ノワールさんはそれに頷く。


 その表情がいつもよりさらに柔らかなものに見えたのは、僕の願望ではないと思う。


                ◇


「それで、ノワールが何を話したって?」

「いや、だから何も言えないってことを教えてくれたんだ」


 ノワールさんが帰ってから早速僕はお茶の用意を済ませて伝えられたことをマナカに相談することにした…………正確には伝えられていないことを、か。流石にそれを聞いたマナカもすぐには理解してくれない様子だ。


「重要なことなら直接口にすればいいじゃない」

「だから、ノワールさんにはそれができない話だったんだよ」

「あの女が?」


 マナカは怪訝な表情だ。一度ノワールさんと戦ってその実力を知っているからこそ彼女にそんな制限があるなんて信じられないのかもしれない。


 前世では個の力では大したことは出来なかったけれど、この世界ではその個の力が跳び抜けていてどんな無茶であっても押し通せてしまいそうな雰囲気がある。


「あー、そういえば制限なく力を使えないみたいなことは言ってたわね…………それに関係した話?」

「あ、うん、そうだよ」


 しかしすぐにマナカは思い当たることを思い出したようだ。そういう点ではやはり冷静というか頭が柔らかいというか…………僕も見習わなければいけないと思う。


「ノワールさんはその、世界に大きな影響を与えるような行動は禁じられているんだ」


 ノワールさんが代行者であることやその使命までは言わない方がいいだろうけど、ここまでは明かしておかないと話が進められないだろう。


「つまり、ノワールは世界に大きな影響を与えかねない何かに気づいて…………その内容は教えられないけど何かが起こったことを伝えようとしたわけね」

「多分、そうだと思う」


 そうでなければあんな思わせぶりで何も話さないなんてことをしないだろう。ノワールさんは僕が尋ねれば何でも答えてくれたし、答えられらないような内容であればその理由をちゃんと声明してくれていたのだから。


「後、マナカに相談するようにってわざわざ言ってたんだ」


 僕の身近でこのことについて相談できる相手なんて元々マナカしかいない。それをわざわざ口にしたということはその内容がマナカに関連するものであるという示唆だろう。


「私に関係する話って言うと…………魔王軍がらみよね」

「…………そうなるね」


 他に思い当たらない。


「つまり魔王軍に何か動きがあったってことかしら」


 苦い表情をマナカは浮かべる。


「最悪一度島を出て連合軍の方に戻る必要があるかもしれないわね」

「ふーん、いってらっしゃーい」

「何言ってんよ、その時はあんたも来るのよ」

「えー、なんでー?」

「そういう条件だから今日もここに来れてるんでしょうが」


 興味なさげに話を聞いていたアリサだがマナカが島を出るかもというところには反応した…………彼女からすれば面倒なお姉さんがいなくなってラッキーくらいのものだったのかもしれない。

 しかしマナカの弟子になるという条件でその傍に常にいることを許されたのがアリサの立場なのだから、彼女だけ留守番というわけにもいかないだろう。


「あ、それは大丈夫だと思う」

「大丈夫ってアリサを置いていけってこと?」

「いや、そうじゃなくてそもそも島の外には出なくていいって話」

「…………何か理由があるの?」

「それはうん」


 流石に僕も何の根拠もなしには言わない。


「そもそも島の外で起きているような話だったら、ノワールさんはわざわざ伝えてこないと思うんだ…………その、自分にも僕にも関係のない話だって」


 後からその結果を教えてくれることはあるかもしれないが、基本的には僕に関わらせないように教えないだろうと僕は思う。


「だから、ノワールさんの言えないなにかはこの島で起こりえる話なんだと思う」

「それってつまり悪いやつがこの島に来るってこと?」


 特に考えることなくアリサが口にする。


 でも多分、そういうことなのだろうと僕も思う。


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